Neetel Inside ニートノベル
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あれから数日後、部屋を綺麗にしたおかげで部員達が着々と溜まり始めた。ちゃらけた男女が当然のごとくデシカメを振り回し、せっかく綺麗にしてやったテーブルの上に足を乗せ、どんちゃん騒ぎをしていた。この野郎、誰のお陰で部屋が綺麗になったと思っているんだ、私は目立たぬよう部屋の隅っこのカーテンの裏で身をひそめながら腹を立てていた。すると、目の周りを黒々の塗りたくった女子部員達が私の方へデジカメを向けて連写をした。

「心霊写真みたいじゃーん」
「あんな奴いたっけ?」

私は、わざと聞こえない振りをして窓の外をぼんやり眺める事に徹していると、阿呆な女子部員は、わざと聞こえるように大きな声で私の悪口を言いだした。「あいつ留年したらしいよ」「まじきもい」聞くに堪えない暴言が飛び交ってくる中、

「あの人が此処の部屋掃除してくれたんだよ」

小さくか細い声が微かに私の耳に届いた。予期せぬ言葉に私は息が詰まりそうになり、顔が熱くなるのを感じた。その一言で一方的な言葉のドッチボールが終わったわけではないが、ほんの少しだけ救われた気がした。

気がつけば、女子部員達の声は消えて一人の男の話しに集中していた。話の内容は新入生歓迎会の内容であった。祝う気なんてさらさら無い私には無縁の話、そそくさと部屋を出ようと荷物をまとめていると、かつて同学年であった、石橋(いしばし)が私のベストの胸倉を掴みニンマリと笑って見せた。無言の脅迫とはこの事だろうか。


某居酒屋で新入生歓迎会が行われた。飲み会と言うものは、結局似た者同士が集い明暗をはっきりと分けてしまうものだと思っていたが、予想とは裏腹な事に、私が石橋の隣の席を座る事になってしまったのだ。当然私は出口に近い席に座ろうとしたが、手をひかれ隣に引き寄せられてしまった。正直、不気味で仕方がない。新入生がぞろぞろと部屋に入ってくると同時に私たちは歓迎の意を込めて盛大な拍手を送った。くそっ、という本音をいつ吐き出してやろうかと考えていると、石橋が大きな口を開け笑いながら私の背中を叩いて言った。

「せっかくの酒の席なんだ、楽しくやれよ。な?」

こいつは阿呆か馬鹿か。私は最初っから楽しむ気も、はしゃぐ気も無いと言うのに・・・、キツく石橋を睨みかえすと、石橋は人を馬鹿にしたような声でゲラゲラと笑った。何が可笑しいのか分からないが、私のイライラはいっこうに収まらないまま歓迎会は始まってしまった。部長である石橋は誇らしげに意味不明なスピーチをして、もはや写真部でもなんでもない一発芸をやって見せた、新入生も皆につられて大爆笑をしていた。石橋は指をパチンと鳴らし注目を引きつけこう言った。

「さてさて、次は副部長から」

石橋が100%スマイルで自慢のエアーマイクを私の口元に突き出した。なるほど、そういう事か。私は副部長ではないし、在部しているかも怪しい幽霊部員なのだ。これは石橋の陰謀。石橋は単なる〝引き立て役〟が欲しかったのだ、私がたどたどしくスピーチをしている最中に茶々を入れて〝面白く元気なリーダー〟を演じたいのかもしれない。そんなシナリオは問屋が下ろしても、私は断固下ろすものか、むしろ逆らってやろうじゃないか。私は石橋のエアーマイクを退け、立ち上がり咳払いをした。

「皆さん、私から言う事はありませんが、この歓迎会・・・・費用は全部部長が持ってくれるらしいですよ!」

そう吐き捨てた瞬間、新入生は「おおっ!」と歓声を上げ喜んだ、訳も分からない部員達もテンションに流され声を上げた。私は「遠慮する事はないですよ!じゃんじゃん飲みましょう!」と付け加えると、足元にあった荷物をまとめ急いで外へ飛び出した。今頃石橋はあたふたしながら困っているだろう。実にいい気味だ。ごちそうさまでした、と。


       

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