Neetel Inside ニートノベル
表紙

かすかなる風、ドラゴンの夏
09.龍

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 いつかどこかの路地裏で……











 ちょっとちょっと。そこのお兄さん。
 そうそうそこのあんたよあんた。
 いい目つきしてるねえ。わしは勝負師!って感じがぷんぷんしてるよ。
 なに、これから麻雀? ハハァ、じゃあちょっくら一稼ぎってわけね。
 なに金はどうでもいい。
 じゃ、スリルを求めてる異常者ってわけだ。
 いいねえますます気に入ったよ。
 あたし?
 あたしは見ての通り風鈴売りですよ。
 やだなァ春なんて売ってませんよ。ホントホント。でも風鈴売りじゃないのもホント。
 実はね、ここだけの話、あたしがホントに売ってるのは――『龍』なんですよ。
 あ、疑ってる。
 面白そうなものはとりあえず信じてみないと楽しい人生は開かれないぞー。






 ねえお兄さん。あたしと一勝負してみませんか。
 なに簡単、この風鈴を鳴らすとね、ぴゅーっと龍が飛んできて、お兄さんのしもべになってくれます。
 街からはうざったい人ごみは掻き消えて、青い水と紫色の葉をたたえた木々が生えて、とにかくもうマイナスイオンがすごいの。終わらない夜明けって感じになるんですよ。
 いいでしょ。こんな排気ガスまみれの街なんかよりよっぽどいいですよ。
 見てみたい?
 見てみたいよねェ。
 大丈夫、あたしの姿が見えるならお兄さんも視える人だから。
 ほら、この緑の風鈴、一個百円で売ってあげますよ。
 安すぎる? そんなことないよ。
 その代わり、お兄さんはあたしと勝負しなきゃいけないんだから。カー・レースの宿命ですよ。
 ヘタ打ったら、死にます。
 怖い?
 ふふふ、あたしだって怖いですよ。でも楽しい。
 龍の手綱を握ってるとね、そこから神経が伸びて、龍そのものになったような気持ちがするんですよ。
 あれはたまらないね。心燃やしてくれるなにか、そのものとリンクする快感っていうのはね、ただ呼吸したりエロ本買ったりするだけじゃ得られないもんです。
 やめられませんね、こいつだけは一生。ビョーキですよ。






 さ、どうぞ。
 こいつをちりんと鳴らしてやれば、かわいい龍がやってきてくれますから。
 え、なに。この眼どうしたって?
 いや、実は自分でもどうしてこうなったかわからないんですよ。昔はこんな風に左右違った色なんかしてなかったはずなんですけどね。
 でもねえ、いい色してるでしょ、赤と緑のヘテロがさ……異界に入るともっと綺麗な色になるんですよ。
 なにも覚えてないけど、気に入ってるんです、この眼……。
 うっかり見惚れて落龍しないでくださいね? あはは。





 じゃ、始めましょうか、お兄さん。
 あたしと、スカッとしましょ?

       

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