Neetel Inside ニートノベル
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「小萌―ッ」


僕は真っ白な頭で娘の名前を叫ぶ。
雷で焼かれた砂浜は地獄のように熱く、四つん這いになっている僕は手と膝と足が酷いやけどになることが想像できたが、そんなことはどうでもよかった。
愛しい我が娘が少なくとも生きていることを祈っていた。

どうか神様、小萌を助けてください。どうか神様、僕から小萌を奪わないでください……神様……。
ゆっくりと白い光の柱が細くなっていってそこに小萌はいた。ペタンとお尻をついてポカンと僕の方を見ていた。火傷のあとすら見あたらず、僕はちょっと涙が出た。
「小萌―ッ」


「あ、おっさん。お前来週死ぬよ。」
「え」



小萌の口から小萌の声で変な声を聞いた気がした。僕の耳がおかしくなってしまったのかもしれない。僕は小萌の顔を見つめる。
「いやぁ。言いづらいんだけどさ。おっさん、あんた死ぬよ。って細木和子か!ハハッ」
小萌の可愛い顔は変わらなかった。その口が小萌の声で変なことを言っているのも確かだった。
僕はあゆみの方を振り返ったけれど、あゆみは気絶しているようだった。

「小萌?」

「小萌?じゃねぇよ。俺はあんたに予言をするために来たんだよ。だからお前は来週死ぬんだよ。どぅゆーあんだすたん?」
「……」僕はなんも言えない。頭の中が真っ暗になったようで、白と黒との点滅しかなかった。とっても変な顔をしているんだろう。

「ははっ。変な顔してんなおっさん。あんたは明日軍隊に呼ばれて、いきなり戦争に出されて必死に鉄砲持って逃げ回るけど、地雷踏んで手足無くなって芋虫してヒィヒィ言ってるところを戦車に踏まれて「うっせえええ!小萌はどこにやったんだよおらあぁあ!なめんどしばぐぞごらあぁ!」死ぬんだよ。」

小萌の顔をした何かは僕が死ぬことを伝えに来たらしい。本当の小萌はどこなのか。僕は廻らない頭で必死に考えながら、デッドボールを受けた松本竜馬のように叫んだ。理不尽なことに出会って混乱すると人は意味の分かんない言葉をしゃべるんだと思う。

「小萌ちゃんは生きてるよ。死んでるかもしれないけど、多分大丈夫だよ。」
「なんでだよ!」
「今は神様のところにいるから。」
「オカルトこいてんじゃねぇぞこの野郎!」
「ほんとだよ、あんたは日本の軍隊に入って神様を殺しに行くんだよ。軍隊が殺そうとしているのは偽物の神様だけど。ははっ。馬鹿だねぇ。はははっ」
「おどれなにわらっとんのじょああああ!」僕は小萌の姿に飛びかかるが、小萌の姿はロップキックで僕の胸を蹴る。僕はこけて、どっかで見たなと思いながら泣く。声をあげて泣きたかったけど、くやしくて声を押し殺して泣いた。息が詰まってしんどい。

「いいか?おっさん。俺があんたの所に来たのにも意味があるんだぜ。ってかそれが俺の本当の仕事なんだけど。」


       

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