ザマッチこと座間アミロウを初めて見たのは受験の時。
俺はあんな見かけ倒しのアフロ野郎はどうせ芸大には受からない。そう睨んでいた。
けど奴は受かった。そして今俺と同じ専攻分野に名を連ねている。
入学当時、暫らくザマッチには友達ができなかった。当然だ。
何せかなりの変人ぶりで浮いていたからな。
どう変人かって? そりゃ、まあ……。説明するまでもないと思うけど。
そんな奴と俺が友達になったきっかけはある。
ザマッチにとっての「書類」という代物がそれだ。
俺や普通の人間にしてみれば、ただのセロハンテープやビニールテープ。
けど奴曰くこれらの代物、色別で書類の内容が違うんだと。
例えば、透明は事務や情報関係書類。黒はエロい書類。緑は生物と宇宙生態系書類。赤は軍事と徴兵関係書類。青は何だか忘れた。他は知らん。
兎に角これらを引っ張り伸ばすことで、テープの中から様々な映像が眼前に浮かび上がるらしい。
全く、本当かね。
ある日、ザマッチは黒いビニールテープを、大学の個室便所内に張り巡らせていた。
つまり奴はそうやって便所でオナニーに耽っていた訳だ。
そこをたまたま俺に見つかった。三日連続でな。
便所に響き渡っていたテープをはがす音、あれはそりゃもう怪しげだったさ。
やっぱ変態だよ奴は。おかげで暫らくいい笑のネタにさせてもらった。
以来俺はなぜかザマッチと話す機会が増えた。そして気がつけば友達になっていた。
今でも俺は黒いビニールテープのあんな使い道なんて理解できない。
自分でもやってみたけどテープは所詮ただのテープだった。
あれでイケたら宇宙人にでもなれるってのか。
とりあえず変態にはなれるだろうよ。
けど俺、ただの芸大生で普通の人だからもうやらね。
それに自分でしなくても女がやってくれっから別にいい。今日だって……。
いや、別に何でもねぇよ。
しかし、大学生にもなって妙な奴とつるむ羽目になったもんだ。
芸大だからそんな奴わんさかいると思っていたが、いざ友達がそうだと非常に困る。
正直迷惑だな。しかも奴は超真面目に宇宙人を自称している。
頼むから女の子相手にしている時は近づいて来て欲しくない。
ああ、でも俺って良い人だから、つい意味不明な奴のことフォローしちゃうんだな。
これだから見た目爽やかキャラって困る。
結局奴のおかげで被った迷惑はノートに書かれた調書の数だけ確実にあるだろう。
今となっては遠慮なく蹴りを入れることにしているけどな。
以前はそりゃあ優しい物腰で奴に接していたものだ。
思い起すほどに俺、損。俺、可愛いそうだったぜ……。
もう二度と自慢のサラサラヘアーを奴の書類の犠牲にはすまい。
そしてあんなおぞましい「侍ライス」なんか誰が食うか。バカヤロウ。
ご飯に消しゴムかすと千切ったカーボン紙なんかまぶしやがって。
食えるかゴッルァ。このボケナスビ。それで雑魚ご飯のつもりか。
おまけに俺は新聞だって盗んじゃいねえし、ドアにノブ6個付けた憶えもねえ。
なのに何でいつも俺にいちゃもんつけんだ。化粧ばっか濃いこのアパートの大家め。
やってらんねえ。まあ、どうでもいいけど。
そういや一昨日冷蔵庫に突っ込んでやったインコ、名前何だっけ。
まだ生きてるかな。
もっとどうでもいいかそんなこと。適当に見つけてもらえや。
あと……。
そうだ、みっちゃん……。待ってろよ。
いつか俺の女にしてやっから、今は精々その程よくデカい乳綺麗に洗ってな。
俺は便所の紙とアルミ箔食って「みっちゃん風味すき焼き」なんてうわ言吐いたりしないからよ。
はああ――。
眠い。
何だ、この敷布団。
やけに硬い。埃臭い。
てか、小学校名書いてら……。
どうでもいいか、んなこと。
ザマッチ、どこ行ったんだろな。
どうでも、い、い、や……。
スヤスヤ スヤスヤ ――。
つづく