Neetel Inside ニートノベル
表紙

星の調書
ザマッチのPC

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 秘密にしていたわけではない。
 ただ地球っ子の諸君には難しいかと思って避けていたお話がある。
 実のところ私は以前ソースの人から、仕事に欠かせない情報伝達機器を賜っていた。
 それは現代宇宙人の必須のアイテム。通信の要と言ってもよい代物だ。
 私のようにデキる宇宙人にとって、侍の刀に等しい商売道具と言えよう。
 少々もったいぶったが、つまりそれは『PC』のことだ。
 解っているだろうが、ポップコーンではない。
 あれは歯にはさかる鬱陶しいばかりのおやつだ。
 あんな物を食べるなら、ちびっ子は岩井のレーズンを食べなさい。
 因みに私のPCは地球産の安作りとは一線を画している。
 JIS規格なんてほんの飾りにすらならない。機能性重視の情報デバイスだ。
 何人たりとも私以外の者が触れるを許さない孤高のPC。
 そう、触れられないのだ。
 触れられな……。

「――冴草君」

 また君か。他人のPCを玩具にして。
 捨てられた王子みたいな高笑いはよして、早くその手を退けるんだ。
 てあっ、はっ、そこは、いじっちゃだめ。触っちゃ……。
 あ――。ぐちゃぐちゃに……した。
「何だおらぁ、このチェスは。ザマッチ」
 だから、それはチェスじゃなくて。PCだって何度も言ってるのに。
 最新機種で売り込み文句は『宇宙で仲間とハートキャッチ』だった。
「チェス盤に小石並べてゲームなんかできるか、よ――ぉら!」
 ああ、またひっくり返した。そして小石は案の定ほったらかし。
 全く……。冴草君にはげんなりだ。
 おかげで本国へ送信するはずだった調書伝聞がまたもパア。
 この青年は私のPCを全く理解していない。
 君が今ひっくり返したその枡目板に並んだ小石は本国への伝聞信号なんだよ。
 我々宇宙人にとって光通信をも凌駕する情報伝達手段なのに。
 冴草君をはじめ、地球人には小石はあくまで小石でしかないのだな。残念。
 しょぼい文明じゃのぉこの星は。
 見なさい。私のPCはこうして日なたへ置くだけで、いつでも仲間とハートキャッチだ。
 どうだ、凄いだろ。
 冴草君がハートキャッチできるのはどうせエッチな女の子だけ。
 哀れなみっちゃん。本当に可哀想。こんな男早く捨てちまえ~。
 呆れた私は友達にかける言葉もなく地道に小石を枡目へ並べ直した。
 さっきから私は一体何度こんなことを繰り返しているだろう。
「あのね冴草君、私は彼と小石の交換するんだよ」
「彼って、あれトカゲだろ」
 チ、チ、チ。やはりこの子は解っていない。
 彼は立派な情報伝達員だ。トカゲのなりをしているがそれは世を忍ぶ仮の姿。
 私へ送られる相手方の情報は全て彼が小石を動かすことで伝達される。
 所詮君にはこの原理、解らんだろうね。
 因みに彼の組織コードネームはガイコ。
「俺、もう帰る。今度将棋もってくるから一緒にやろうぜザマッチ」
 む、将棋とな。
 つまり私のPCが羨ましいのだね冴草君。真似っこしたいのね。
 もう、子供なんだから。ならば将棋盤には、
「言語変換ツールがいるよ冴草君」
 将棋盤はアルファベット対応ではないからね。
 そして君は帰るんじゃなくて、女の子のとこへ行くんだろ。このエロエロ星人め。
「はあ? 何だそれ」
 だから言語変換ツールの、
「ケーキと日本茶を二人分ぁ――」
 冴草君の蹴りっ!
 が、そういつも君の蹴りは受けない。
 何せ私は世にも稀なる極普通の宇宙人だしな。
 だからちゃぁんと避けたよ。そりゃもう見事にな。
 けど顔面への頭突きは食らったがね。
「うぐっ。せこい。同時多発暴力」
 痛い。鼻血が滝のようだ。
 しかも蹴りを避けたおかげで愛用のカチューシャがまたひん曲がってしまった。
「俺は男に奢る趣味はない。へへ」
 私は親切心でケーキを食して煎茶を飲めば、将棋盤でもPCになると教えてあげただけなのに。
 全く、どこまでツンデレハニーなんだ。
 まあ、そこが可愛いけどね、冴草君。今日のナキボクロもス、テ、キ。
 
 ふぐごっ!

「おお、ザマッチ早く止血しろ。ははは」
 冴草君、優しいね。気がきくじゃないか。
 でもそれはティッシュじゃなくてアルミホイル。
 そんな物、しかも、やだ、デカい。鼻に突っ込んだら……。あはっ。

 おや?
 
 今情報伝達員のガイコが尻尾で小石を動かしたような。
 私は滴る鼻血も忘れて先程ベランダへ置いたPCを見た。
 やはり小石が一つ動かされている。
 まさか、これは本国からの伝聞。

「レンラクコウ……」
 
 私には確かにそう読めた。


 つづく

       

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