Neetel Inside ニートノベル
表紙

星の調書
ザマッチの敵

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 私は思うのだが。
 『地球掌握大作戦』の最大障壁はおそらく平和維持組織の存在だろう。
 奴らはいつも私の仕事を妨害してくれる。
 そして私をはめようと仕組むけしからんやからだ。
 例えば、ポリ公はその筆頭である。そして家賃の催促電話が煩い大家さん。
 コーヒーを注文したのにカツカレーセットを出す意地悪マスター。
 私を無視して行ってしまうバスの運転手。
 卵を1パックしか買わせてくれないスーパーなかた。
 畑で私を追いかけ回した農協組合の老人。
 一般教養科目でFを私につけた斉藤教授。NHKの集金男。
 歩行中ぶつかって来る電信柱。
 道端に落ちていたバナナの皮。(踏んだ)噛み捨てられたガム。(踏んだ)
 うんこ。(踏んだ)
 みんなみんな、生きているんだ平和維持組織なんだ。
 断じて友達ではない。
 私に友達は今のところ冴草君しかいない。
 長い付き合いの中で私たちは互いに男子力を高めあってきた。
 私は冴草君の拳に愛を感じ、それに侍ライスという糧で応えてきた。
 いつしか二人は目だけでも通じ合うほどの仲となり親友になった。
 つもりだ。

 しかし待て。
 
 果たして冴草君は私のことをどれくらい友達と思っているのだろう。
 もしかして彼は私が思うほどではいないかもしれない。
 冴草君……。
 君は。
 とてもいいやつだ。
 女の子にもてるし色っぽいナキボクロもある。
 私のアジトの合鍵を持っている。
 私のブタ貯金箱から何度もタバコ代をちょろまかしている。
 この星の調書を書いたノートを読んでよく爆笑している。
 大家さんに美青年と言われて気に入られている。
 ポリ公と裏金か×××で通じているふしがある。
 喫茶店のママにいつもコーヒーをサービスしてもらっている。
 スーパーなかたでレジの子にいっぱいクーポンをもらっている。
 地球司令部にいた凶悪犯と外出し、逃走を手助けしようとした疑いがある。
 斎藤教授の講義はAだった。
 私の同僚たちの扉をよく開けっ放しにしている。
 私の大事なPCをすぐひっくり返す。
 特殊携帯電話を過去4回窓から空き地へ投げ捨てたことがある。
 私を殴る、蹴る、踏ん付ける。
 みっちゃんをとった。etc
 
 ――。
 おや?
 どこか引っかかる。何だろう、このもやもやした気持ちは。どうもすっきりしない。
 冴草君、君は一体私にとって本当に友達なのかい。

 酒瓶片手にスヤスヤ眠る青年の寝顔は美しい。
 彼はほどなく起きて、また女の子の所へい行くのだろう。
 若さとは良いものだ。私はしばらく彼の奇麗な顔を見つめていた。
 が、暫らくしてはたと気がついた。
 奇麗な花にはとげがある。地球のことわざだ。
 冴草君は女の子ではないけれど。もしかして……。
 まさか我々を欺く、平和維持組織の一員なのでは。
 シネマ過ぎる。いや、全くだ。ありえないだろうそんなこと。
 ははははは。
 私ときたら心にもないことを……。
 
 ガゴッ。
  
「ぐっ……。さえ――っぐっさ……く」
 い、痛い。
 いきなり酒瓶が私のこめかみを襲った。
「ぬ俺様がボスだ――んちくしょう。スヤスヤスヤスヤ」
 さ、冴草君、今何と!
 それは衝撃的な彼の宣言だった。
 私にはまるで時間がとまったかのように思える。
 
 ツンデレエスパー・ビューティーナキボクロ・冴草。
 君が平和維持組織のボス。
 
 私はようやくあの伝聞、「レンラクコウ」の発信源がわかった。
 こうしちゃいられない。さっそく重要書類を作成しなくては。
 眠る冴草君に気付かれぬよう、私はこっそり彼に背を向ける。
 と、そのとき後頭部でガラスが音高く砕けた。
 さすがエスパーめ。気付いかれたか。
 しかも間が悪いことに私は風呂上り。丸腰ですっぽんぽんナウだ。
 なんてこった。
 不覚である。
 こんなところで命を落とすとは。
 割れた酒瓶の破片がバラバラと眼前の床へ散っていく。
 私はその中へ倒れこみ意識を失った。


 つづく
 

       

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