アジトへ帰ると、殺意満々の冴草君に案の定追い回された。
 彼は私が通販で買ったトマトもスパスパ万能包丁を手に襲いかかる。
 特殊携帯電話をこっぱ微塵に砕き、PCは瞬速でうんこ形に彫られた。
 雑魚のタッパーを窓の外へ投げ飛ばすと、次に私の同僚たちを蹴散らし始める。
 その時開いたイザックの中に、小鳥の死骸が見えたような――。多分気のせいだろう。
 とにかく、上を下への大暴れ。
 今度ばかりは7針縫うぐらいで済まないぞ。
 そう察した私は命からがら狭いアジトの中逃げまわった。
「さ、冴草君、や、め、たまえ。止めるんだ」
「っるせ――、野郎、ミンチにしてやる」
 地球の平和をになう組織のボスにあるまじき暴言。
 しかしこの場は見逃そう。もとはと言えば私の判断ミス。
 もっと落ち着いて考えていればこんなことにはならなかったはずだ。
 冴草君は今にもサイキックパワーを全開にし、金田君を踏み潰す勢いだ。
 あるいは髪が逆立って金髪になる。かもしれない。
 いや、トマトもスパスパ万能包丁が変化してビームサーベルに……。
 ああ、そうなれば私は本当におしまいだ。
 早く何とかしなくては。何とか。
 私はこんな地球の片隅で死ぬわけには行かないのだ。
 本国にはまだ家族が――。妻と次男が……。

 ピーンコーン

 その時、冴草君の殺意に終止符をうったのはアジトのチャイム音だった。
 助かったと思ったのもつかの間、郵便局員から渡された書留封筒に私は打ちのめされる。
 中に入っていたのはほんのり赤い書類。
 ついにきた。これは地球司令部からだ。
「何だ、このビニールテープ?」
「あ、ちょ、冴草君、それは……」
 彼は私の手から書類をもぎとると、指先で端を摘まみ引き伸ばしていた。
 その表情はいつもの悪戯っぽいツンとした顔だ。
「冴草君それはし――」
 召集令状……なんだ、よ。
 私は途中から複雑な気持ちで言葉を飲み込んでしまった。 
 そんな気持ちとは裏腹に冴草君の爆笑がアジトに響く。
「差出人は? なんだザマッチ、おまえの母ちゃんじゃねえか。こりゃ傑作、さすが」
 冴草君、君を組織へ売る日はそう遠くないかもしれない。
 だってもし、私が兵士になったら君は……。


 つづく