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星の調書
ザマッチの日常1

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 調書No.73 アルミホイル
 組織コードネーム  座間アミロウ

 薄いキラキラとした銀色の素材。食品にあらず。
 長い紙筒に巻かれ、紙箱に入った状態で販売されている。
 シワができ易く、破れ易い。無味無臭。燃えにくい。
 水に溶けない。湯に溶けない。消化しない。吸水性は殆どない。
 石鹸の泡立てには適さない。石鹸削りには適している。
 学校の理科、科学の実験や工作材料に使用できる。コイン型に成型後、自販機でジュースが買えるようになることもしばしば。
 不透明で梱包材料にも適している。
 芋を包んで落ち葉で焼くと美味しい焼き芋ができる。(情報補足官長殿より明言あり)
 画材専用アルミ箔(みちゃんより進呈を受ける):およそ10×10センチ。アルミホイルよりも極薄。軽い。繊細。油断していると鼻息や小さなオナラでも飛んでいく。
 超極薄な特性から、それを生かして様々な物へ貼り付け、金属的な質感を演出することに用いられている。

◇この素材に関する私の主観的検知から得られる実用性、可能性について、今後も補足を加えながら調書にまとめてゆく。

     


 アルミホイルは日常生活において視覚的に訴えるインパクトが強い素材だ。少なくとも私にはそう思える。このキラキラがな。
 ちびっ子は折り紙の中に入っていると宝物にして嬉しがるとな。
 それはまた別物か。まあいい。
 そんなアルミホイルの衣類への応用に私は悩んでいた。何せ縫えば破けて穴が開き、糊やボンドでは張り付かず、テープ類では不恰好と言った始末なのだ。
 そんな時、冴草君からこの窮地を知ったのか、みっちゃんが私に日本画で使う画材のアルミ箔をくれた。
 因みに冴草君とは私の友達だ。自己推定年齢五十歳の私に、友達なんて嬉しいものじゃないか。しかも彼は地球人だ。男の子だ。そして彼のナキボクロはちょっと色っぽい。
 
 みっちゃんがくれたアルミ箔は一枚づつ薄い紙で挟まれて、細い糸で束ねられていた。厚さは超極薄。大きさは私の手乗りサイズ。
 彼女のレクチャーでは、
「気流で飛ばされやすいから、竹バサミで挟んでそっと糊を塗った所に貼り付けてね。失敗したら風下でグチャグチャよ」
 とのことだった。

 
 これならいける!

 
 私は確信した。
 肌に糊を塗って薄い箔を全身にピッタリと貼り付ける。そうすれば全身タイツを着るがごとくこのアルミ箔を身に纏えるではないか。
 もらった箔は四十九枚。みちゃんの使いさしの四十九枚。
 いい臭いがするような気がする。
 ありがとうみっちゃん。君の愛に応えよう。とても縁起悪く聞こえる気がするこの枚数、ありがたく使わせていただく。
 私はいつの間にかその日本画材のアルミ箔の薄さと輝きに魅了されていた。
 いやむしろ、みっちゃんからもらったことに魅了されていたのかもしれない。
 大学校内で冴草君を発見した私は急いで下宿と言われる己のアジトへ彼を連れ帰った。
 彼は出欠をとるサボれない講義中だったらしく大層怒っていた。だから私はお詫びに「侍ライス」をおごると言ったのだが、蹴り飛ばされてしまった。
 なぜだろう。雑魚ともみ海苔をまぶした美味しい白ご飯なんだが……。

 それはさておき、私は全身全霊をかけてアルミ箔をまとうへ挑む。これを成せば調書に内容を連ねて組織へ報告できるのだ。
「さあ、やってくれたまえ!」
 全裸で仁王立ちの私を前に、冴草君は糊がついたハケを握っている。彼は腹の底から沸き上がる笑を懸命に堪えていた。さっきまでの怒りはどうやら失せたらしい。
 にしても友よ、どうしてそんなに笑う? 
 笑う息遣いでもどこかへ吹き飛ばされてしまう繊細な素材だ。彼には堪えてもらう他解決策はない。がんばれ冴草君。
 
 小一時間後、冴草君の腹筋痛はさて置き、彼は実にいい仕事をしてくれた。さすが芸大生だ。目下私も立派に器用な芸大生ではあるが。
 さて、四十九枚のアルミ箔、これで全て私の体に貼りついた。調書へ添えるための写真撮影も済ませた。一様のところ仕事は完了だ。
 唯一つ納得いかない点があるとすれば、やはりアルミ箔の枚数だろう。
 全裸の青年一人分、その身を全て多い尽くすには枚数が少なかったようだ。
 写真に写る私の体は所々、ぶちとなって素肌をさらしている。見ようだが、箔の部分がぶちにも見える。
 箔を貼った場所はもちろん冴草君の好み、お任せコースだ。
 しかし一言彼に言わせてもらえば、体の一部分、おちんちんの所だけとても気になる貼り方をされている。芸大生の器用さとは実に見上げたものだ。私には劣るが。
「俺の技術でチョイと趣向を凝らしてみた」
 というのが冴草君のコメントだ。
 どうりでやたらと過敏に股間がむずむずしていたはずだ。ち、ちょっと、よかったけど。
 まあ、とりあえず調書へはこの写真を提出するしかない。
 一様衣類として纏うことへの可能性は達成されたのだから。
「そういやザマッチ、みっちゃんへはこの写真渡すのか?」
 冴草君が私に尋ねた。
「もちろん。提供者だ。彼女にも渡して結果を報告せねば」
 彼女もきっと私の勇姿を楽しみにしているだろう。
「ぶはははははは。変態」
 真面目な私をよそに、冴草君は腹を抱えて部屋中笑い転げまわった。
「何を言う。違うぞ冴草君、私は……」
 私は変態ではない。いつも私は君に言ってるじゃないか。いつになったら解るんだ。
 私は、私は宇宙人なんだって。                   


 つづく

       

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