Neetel Inside ニートノベル
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星の調書
ザマッチの日常4

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 調書No. 130 冷蔵庫
 組織コードネーム 座間アミロウ 
 
 主に食材を保存する電化製品。
 昔は庫内を氷で冷やしていたらしい。(情報補足官長殿より明言有り)
 物が冷える。凍る。乾く。腐る。かびる。縮む。
 ややもすれば野菜が育っている。
 みッちゃんは美容液と膠を保存するのにも使っている。
 干物を作ることができる。(情報補足官長殿より明言有り)
 宇宙空間で生きた上物ロブスターを一年庫内で保管すると変異したとの症例もある。
 宇宙原則的教訓、冷蔵庫の中のものは入れっぱなしにしちゃいけない。
 四台並べるとベッドに変身。しかしやや狭い。高い。睡眠中に転落注意。
 本体背後から発する熱源有り。
 時々煩い。
 
◇この素材に関する私の主観から得られるヒト社会での実用性と可能性について、今後も一般大学生生活を進行しながら補足を加えて調書にまとめてゆく。

     


 町中の公園で私がポリ公に捕縛された一件以来、
「俺様こそが真のニヒルだぜ。だろ、ザマッチ」
 と言ってはタバコを噴かす冴草君。
 私の大事なニヒルアイテムを横取りしておいて、まさかその歳でデビューでも考えているのかい。夜露死苦もちゃんと書けないくせに。根性焼きはアチチだよ。
 そんなけしからん十九歳児はこのアヒルの餌でも食べていなさい。
 どうせちょっと口寂しいだけなんだろう。
 私は良識ある大人として、今まさに非行に走らんとする友達を更生させるべく、冷蔵庫から『スイミー』を取り出した。
 因みに冷蔵庫とはイザックではない。別の冷蔵庫だ。彼はキレ易いので実用的ではない。
 故に私は現在、イザックの他になんと五台の冷蔵庫を所持している。
 正確には所持する羽目になってしまった。これが正しいだろう。
 それはさて置き、ちょっとそこの冴草君、うんこ座りのフォームが全然なってないよ。
 悪いこと言わないから、もうその辺でおよしなさい。今さら君が非行に走ればご両親が心配するじゃないか。
 だから大人しくここは目を瞑って、これを受け取るんだ。
 さあ、その手を伸ばして。いい子だから。

「訳わかんね――、っよ」

 くっ。
 やはりそうくるか。
 顎が砕けるような痛烈な一発。うむ。今日の蹴りも冴えているねハニー。
 さすがにコイの餌をアヒルの餌と偽るのは通じなかったようだ。
 ケチな俺様グルメを気取ってくれる。このエスパー冴草め。
 仕方がない。『スイミー』は雑魚を切らした時のためにとっておこう。これと鮭のほぐし身を合わせれば、立派なお茶漬けの素に変身だ。
 今度冴草君が女の子と夜伽の後、お腹を空かせてここへ来たら出してあげよう。
 私は泣く泣く『スイミー』をそっと冷蔵庫へしまった。

 先にも述べたが、五台の冷蔵庫が増えたおかげで私のアジトは大層窮屈になった。
 何せその内四台は揃いも揃ってまた本国での同僚なのである。
 イズミヤめ、在庫処分で私の仲間たちを叩き売るとはいい度胸をしている。
 おかげで私の予算は大赤字だ。
 だからお願い冴草君、彼らの扉は開けっ放しにしないでちゃんと閉めておくれ。
 結構食うんだよ、電気代。コンプレッサーはアチチだよ。
「うっわぁ、ザマッチ、なんでこの赤い冷蔵庫、中はトマトばっか?」
「言わずと知れたこと。彼こそが伝説の赤いす……」
「ありゃ、こっちの赤いのには育毛剤しか入ってない。なんだこいつ禿なのか」
 全く、人の話しを聞いちゃあいないねこの坊やは。
 まあ確かに、後者の赤い彼はデコがちょっとそれ気味だよ。しかし一部では恋の伝道師とまで囁かれていた時もあったんだ。今となっては過去の話しだけどね。
 因みにあっちの白い彼は中身すっからかんだ。何も入っていない。
 色々あって彼は迷いと悲しみの極地からある時解脱したんだよ。
「なあ、ザマッチ。この四つはいいとして、何で風呂場のやつだけ逆さむいてる訳?」
 む、それはプラズマクラスター搭載SJ-XF47T-A のことか。
「ああ、彼なら心配ない。全てを無に帰すためにターンしているだけだ」
 とにかく彼は綺麗好きでね。掃除洗濯までお茶の子さいさいなのさ。
「そ、そうかい」
 おや、どうしたね冴草君。急に神妙な顔になって。
 そろそろいつもの蹴りやパンチが飛んで来てもよさそうなんだが。
 今君がのぞいているイザックの中に何か変なものでも見つけたのかい。
「ザマッチ、早く行こうぜ」
 
 ?

「行くってどこ」
「決まってるだろ。おまえ今週末は俺を地球司令部へ連れて行くとか言ってたろ」
 おおっと、すっかり忘れていた。確かそんな約束、していたのだった。
 うむ、いいだろう。早速これから冴草君を地球司令部へ同行させてあげよう。
 どんな所か楽しみにしているといい。
 ふふふふふ。ははははは。のわはははは。ぐははははは。
 あれ、冴草君?
「どうしたのかね」 
 私にはやはり彼の顔色が少しおかしいようにしか見えない。何かあったのだろうか。
 それともあれか、これこそが覚せい剤の禁断症状だと――。
 冴草君、君はもうそこまで落ちて。
 私は胸を痛めながら哀れな友達を見つめた。それはもうしげしげと。
 ゲイズアットヒズアイズついでにビューティーナキボクロまでもだ。
 そうしているうち、なぜか彼のホクロはだんだん夜空の星みたいに輝いて見えてきた。
 いけない。私がもし女の子だったら、ここでイチコロだ。
 これこそが幾多の異性を手にかけてきた百戦練磨のたら師のホクロ。あなどれない。
 今こそこのホクロ、私の手で潰さなくては……。

「――んだよ、このキモ変態」

 くっ。
 ナイッシュー。
 キ、キックの切れ味は問題ないらしい。どうやら覚せい剤の心配は特にいらないようだ。
 むしろカチューシャがめり込んだ私の頭のほうが心配だ。流血している。
 まあいい。とりあえず地球司令部へ行こうか、冴草DQN。
 

 つづく

       

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