Neetel Inside ニートノベル
表紙

星の調書
冴草君1

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 酒飲んで酔った朝帰りのついで、俺はふらりと友達のアパートへ寄った。
 奴の部屋の合鍵なら常に持っている。それで得したことは一度もないけど。
 よくあることだが、大学の講義に出ない分際で奴はなぜか早朝から留守。
 俺はコタツの上にある一冊のノートへ何気なく手を伸ばした。
 なぁに、別に大したことは書いてない。奴のつまらん趣味のノートだ。
 子馬鹿にしながら俺はそこへ悪戯書きをしてやった。
 
 
 調書No. なんか知らねえよタコ    座間アミロウ 
 組織コードネーム  冴草(名前は俺の女だけ教える)

 こいつは変態か変人。要注意。
 Wikipediaの変態又は変人のページに名を連ねてやりたいNo.1人物。
 頭はアフロで星と土星のバネつきカチューシャを被っている。鼻の下に髭。
 どう見てもちょっといかつい顔した十九歳男。一人称は「私」。
 自称「宇宙人」。自己推定年齢は五十歳らしい。
 疑わしいけど日本人。
 時々綺麗な目で俺を見つめてくるのがキモイ。
 好きな女はどうせ「みっちゃん」だろ。
 窃盗癖と収集癖がある。(本人に区別はないらしい)
 物に名前をつける。
 テープ類を「書類」という。
「南の島のフローネ」のつもりか、渦巻き貝を耳に当てて喋る。
「侍ライス」を食べさせたがる。
 主食は辛うじて米らしい。おかずは何でも食う。
 
◇この人物に関する俺的実用性(笑のネタ)と可能性について、今後も大学生生活を進行しながら観察していく。四露死苦!


 俺はペンを置いて友達のベッドらしき物の上で横になる。
 ああ眠い。
 

     


 ザマッチこと座間アミロウを初めて見たのは受験の時。
 俺はあんな見かけ倒しのアフロ野郎はどうせ芸大には受からない。そう睨んでいた。
 けど奴は受かった。そして今俺と同じ専攻分野に名を連ねている。
 入学当時、暫らくザマッチには友達ができなかった。当然だ。
 何せかなりの変人ぶりで浮いていたからな。
 どう変人かって? そりゃ、まあ……。説明するまでもないと思うけど。
 そんな奴と俺が友達になったきっかけはある。
 ザマッチにとっての「書類」という代物がそれだ。
 俺や普通の人間にしてみれば、ただのセロハンテープやビニールテープ。
 けど奴曰くこれらの代物、色別で書類の内容が違うんだと。
 例えば、透明は事務や情報関係書類。黒はエロい書類。緑は生物と宇宙生態系書類。赤は軍事と徴兵関係書類。青は何だか忘れた。他は知らん。
 兎に角これらを引っ張り伸ばすことで、テープの中から様々な映像が眼前に浮かび上がるらしい。
 全く、本当かね。
 ある日、ザマッチは黒いビニールテープを、大学の個室便所内に張り巡らせていた。
 つまり奴はそうやって便所でオナニーに耽っていた訳だ。
 そこをたまたま俺に見つかった。三日連続でな。
 便所に響き渡っていたテープをはがす音、あれはそりゃもう怪しげだったさ。
 やっぱ変態だよ奴は。おかげで暫らくいい笑のネタにさせてもらった。
 以来俺はなぜかザマッチと話す機会が増えた。そして気がつけば友達になっていた。
 今でも俺は黒いビニールテープのあんな使い道なんて理解できない。
 自分でもやってみたけどテープは所詮ただのテープだった。
 あれでイケたら宇宙人にでもなれるってのか。
 とりあえず変態にはなれるだろうよ。
 けど俺、ただの芸大生で普通の人だからもうやらね。
 それに自分でしなくても女がやってくれっから別にいい。今日だって……。
 いや、別に何でもねぇよ。
 
 しかし、大学生にもなって妙な奴とつるむ羽目になったもんだ。
 芸大だからそんな奴わんさかいると思っていたが、いざ友達がそうだと非常に困る。
 正直迷惑だな。しかも奴は超真面目に宇宙人を自称している。
 頼むから女の子相手にしている時は近づいて来て欲しくない。
 ああ、でも俺って良い人だから、つい意味不明な奴のことフォローしちゃうんだな。
 これだから見た目爽やかキャラって困る。
 結局奴のおかげで被った迷惑はノートに書かれた調書の数だけ確実にあるだろう。
 今となっては遠慮なく蹴りを入れることにしているけどな。
 以前はそりゃあ優しい物腰で奴に接していたものだ。
 思い起すほどに俺、損。俺、可愛いそうだったぜ……。
 もう二度と自慢のサラサラヘアーを奴の書類の犠牲にはすまい。
 そしてあんなおぞましい「侍ライス」なんか誰が食うか。バカヤロウ。
 ご飯に消しゴムかすと千切ったカーボン紙なんかまぶしやがって。
 食えるかゴッルァ。このボケナスビ。それで雑魚ご飯のつもりか。
 おまけに俺は新聞だって盗んじゃいねえし、ドアにノブ6個付けた憶えもねえ。
 なのに何でいつも俺にいちゃもんつけんだ。化粧ばっか濃いこのアパートの大家め。
 やってらんねえ。まあ、どうでもいいけど。
 そういや一昨日冷蔵庫に突っ込んでやったインコ、名前何だっけ。
 まだ生きてるかな。
 もっとどうでもいいかそんなこと。適当に見つけてもらえや。
 あと……。
 そうだ、みっちゃん……。待ってろよ。
 いつか俺の女にしてやっから、今は精々その程よくデカい乳綺麗に洗ってな。
 俺は便所の紙とアルミ箔食って「みっちゃん風味すき焼き」なんてうわ言吐いたりしないからよ。
 
 はああ――。
 眠い。
 何だ、この敷布団。
 やけに硬い。埃臭い。
 てか、小学校名書いてら……。
 どうでもいいか、んなこと。
 
 ザマッチ、どこ行ったんだろな。
 どうでも、い、い、や……。
 
 スヤスヤ スヤスヤ ――。



 つづく

       

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