Neetel Inside ニートノベル
表紙

ニトマン。(元→【新都社文芸戦争】)
3ページ 準豪賞と受賞者たち

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 ――7月4日。
 夏季入れ替え第5戦は順当に伊瀬カツラが只野空気を下し、担当編集の落花生はほっと息をついた。
(最近あまり乗り気じゃないみたいで不安だったけど……良かった。流石カツラ先生だ)

 〒新都社文芸首脳会議
『落花生:みんな、今回もご苦労様』
『猫:結局、今回も入れ替えナシかい。つまんないね』
『泥沼:正直ハスカ先生はそろそろ危ないと思っていたが……。よくあんな作品を書かせたな』
『立花:ああ、今回のハスカ先生は良かった。やるな、青山』
『青山:いやあ、どうも。僕だってやる時はやるんすよ』
『落花生:? そんなに良かったのか?』
『立花:ええ。落花生さん読まれてないんですか?』
『落花生:ああ。みんながそこまで褒めるならちょっと読んでみるか』
 落花生は新都社のページを開き、入れ替え第1戦の青谷ハスカ作品を開いた。
 落花生もまた最初の数ページを読んだだけで作品に惹きこまれ、時には顔を崩しながら作品を読み進めた。
『落花生:たしかに面白いな』
『立花:ですよね』
『落花生:たしかに面白いが……これ、ほんとにハスカ先生本人が書いたのか?』
『青山:!?』
『泥沼:どういうことですか』
『落花生:作品としていつもよりレベルが高いだけじゃない。文章、構成が全然違うし、何よりハスカ作品ならではのダークさがない』
『立花:たしかに、作風は全然違いますね』
『猫:おいおい(藁) 代理執筆説キタコレ(藁)』
『落花生:どうなんだ? 青山』
『青山:いや、まさか。いくらなんでもそれはないと思います』
『泥沼:制作段階からちゃんと連絡は取り合ってたのか?』
(! そういえば今回は締切の二週間前に突然原稿を渡してきたが……、いや、しかし)
 一瞬、青山の表情に陰りが生まれる。
『青山:いやちょっと。いくらなんでも皆さん失礼ですよ!? ハスカ先生の実力が上がったならそれで良いじゃないですか。それに、たしかにハスカ先生はおちゃらけたところがありますが、やって良いことと悪いことの区別ぐらいはできてます。そんなことをする人じゃない』
『落花生:……そうか。それなら、いい』

 ○

 新都社文芸作家として、一番分かりやすい目標はもちろんベストファイブに名を連ねることである。が、ベストファイブは入れ替えが活発でない上にたった5つの席と門が狭く、一口にベストファイブを目指すと言ってもイメージすら上手く掴めない作家が多い。そこで、新人として新都社に入ってきた作家が目指す当面の登竜門が

 “準豪賞”

 である。
 準豪賞はベストファイブ賞に次ぐ新都社文学賞として位置し、この賞を獲るだけで作家としてのステータスになるほか、電子マネーの授与、入れ替え戦の出場作家として優先的に選出されやすい等多くのメリットがある。
 また、準豪賞作家の入れ替えはベストファイブ賞のような定期的ではなく、平常時の連載作品など作家の活躍度を見て編集長、五天皇たちで随時変更・更新してゆく。当然、準豪賞作家の担当編集も新都社運営において発言力と権限を得ていくことになる。

 ◆準豪賞作家一覧◆(2011年7月4日現在)
 顎男(担当編集:頬女)
 崩条リリヤ(担当編集:一条ひかり)
 ミツミサトリ(担当編集:三井久)
 黒兎玖乃(担当編集:白犬)
 ひょうたん(担当編集:豊臣千成)
 犬野郎(担当編集:豚畜生)
 つばき(担当編集:柏)
 只野空気(担当編集:窒素)
 ピヨヒコ(担当編集:ジャガー)
 硬質アルマイト(担当編集:皇室)

 準豪賞を獲った作家は自身の出世と活躍に併せてベストファイブまであと一歩ということで、益々気合いが入り活動にも力が入っていきます。

 〒崩条リリヤ、一条ひかり
『一条:ですので、スクールデイズ・ダークサイドの続きより今日から少女シリーズの続編を書いてみた方が良いというのが上の者の総意でして』
『リリヤ:スクダクは駄目ですか』
『一条:いえ、スクダクは今週もファンタジー部門でコメント数2位でしたよ。それでも充分な人気ですが、できれば並行して今日から少女シリーズの3の連載もやってみてはどうかということらしいです』
『リリヤ:……なるほど。わかりました、是非書かせてもらいます。そろそろ本気でベストファイブの座に返り咲くつもりですからね、私も』

 〒ピヨヒコ、ジャガー
『ジャガー:先生~! 長編モノで新作のアイデア、まだ出ませんか??』 
『ピヨヒコ:うー、考えてますですけどねえ。なかなか難しいです。短編集のアイデアばかり一杯です』
(俺の手持ち作家の中じゃどう考えてもピヨヒコ先生が頭抜けてるんだ……。本気でベストファイブを獲ってもらうつもりでやらないと)
『ジャガー:うーん。全く新しい作品は難しいということでしたら、たとえばネジレとヒズミと世界観を共有した作品という方向性ではどうでしょう』
『ピヨヒコ:! おおー! おじいちゃんのスピンオフとか、やりたいエピソードはまだあります。その方向で考えてみれば何か書けるかもしれません』
『ジャガー:本当ですか!? で、では是非その感じで――』

 〒硬質アルマイト、皇室
『皇室:先生~……。前作の完結からもう4ヶ月経ってます。そろそろ何か新作のアイデアを……』
『アルマイト:僕は今つばき先生との合作に集中しているからね。それが終わるまでは出来ないな』
『皇室:いや、何度も言いますが、合作はあくまでサブであってアルマイト先生のメイン作品ではありません。合作だけやっていてもアルマイト先生自身のキャリアには得は何も……』
『アルマイト:女の子を蔑ろにして新作を書けというのかい? それはあまりにも非人道的だな。それ以上言うなら編集替えを上に頼んで――』

 〒顎男、頬女
『顎男:ハァ~……。今回もまた橘先生に負けた。やっぱり壁は厚いなあ……』
『頬女:いえ先生、そんなに落ち込むことありません!! あと一歩ですよ。なにしろ先月の“ぎゃんぶる稀譚”、ギャンブル部門でコメント数2位です!!』
『顎男:なにっ!! 本当か!?』
『頬女:はい。入れ替え戦で忙しかった中でのこの数字は上にも褒められました。1位の泥辺五郎先生にもあと少しでしたし』
『顎男:そ、そうか……。よし! 気持ちを入れ替えてまずはギャンブル部門での1位を目指す!!』
『頬女:はい!!』

 〒黒兎玖乃、白犬
『白犬:先生! 今回のこの作品、面白いですよ!!』
『黒兎:だろぉ~~?? 今回はちょっと本気でベストファイブ獲るつもりでやってるからね』
(すごい……これならベストファイブも夢じゃないな。本当に上位5人を喰ったかも)
『黒兎:どいつもこいつも伊瀬カツラや青谷ハスカを天才だなんだともてはやしているが、アイツラの人気は新都社限定だ。あんなただ暗いだけの話がウケるのは新都社だけだからね。まあ、今に化けの皮が剥がれるよ』
『白犬:いいですねえ! 是非ベストファイブの5枠に風穴を開けてください!! 私も当然ながら精一杯のサポートをさせていただきます!!』
(ふっ……、次の入れ替え戦では俺が必ず席を獲る)

       

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