Neetel Inside ニートノベル
表紙

ニトマン。(元→【新都社文芸戦争】)
9ページ 繁栄と天下り

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 8月15日。後藤ニコは大差をつけてつばきを抜き返した。“暴走状態”の後藤ニコはそのままたった一週、全ジャンルランキングで伊瀬カツラの上に立ったが、その状態を維持できる訳はなく、次週またすぐにトップを伊瀬カツラに明け渡した。しかしそれ以降彼女は乱調期を抜け、新都社第2位としての地位を更に確固たるものとしていった。
 また、一瞬とは言え後藤ニコの上に立ったつばきの作品【ロマンチックノイローゼ】を“文芸しらがな”で連載させる案が編集部で出たが、猫編集がこれを棄却。猫は必死で媚びを売り、なんとかその後も後藤ニコの担当編集を続けさせてもらえた。
 和田駄々は“文芸しろがね”で【天才、一ノ瀬隆志が居ない】の連載を開始。連載はすぐに好評を得、大型新人として新都社のエリートコースを歩み始める。すぐにも準豪賞は受賞するであろうそのポテンシャルに、上位の作家達が身を引き締めるとともに新都社は更なる盛り上がりを見せていった。
 8月22日。知名崎ジロの【名人】が“文芸しらがな”に移籍。八人目の“しらがな作家”誕生のビッグニュースは新都社を湧き上がらせた。将棋小説という大衆向けではないジャンルゆえに目立ったコメント数や爆発的な人気はないが、作家としての高い実力を純粋に評価されての大抜擢であった。これにより準豪賞入りは事実上の内定とし、知名崎ジロはベストファイブ入りを本気で視野に入れた活動を始めていった。
 ――そして、8月23日。秋期入れ替え戦を一ヶ月後に控え、今回も挑戦者5人の作家が選出された。

 猫瀬(vs青谷ハスカ)
 ひょうたん(vs泥辺五郎)
 硬質アルマイト(vs橘圭郎)
 ピヨヒコ(vs後藤ニコ)
 只野空気(vs伊瀬カツラ)

 〒黒兎玖乃、白犬
『黒兎:はぁ~~~っ!!? 入れ替え戦に選出すらされなかった!!!???』
『白犬:は、はい……』
『黒兎:何やってんだボケェ!! お前これなら絶対イケるって言ってたじゃねーか!!』
『白犬:はあ……何と言うか、他の作家との兼ね合いなど、タイミングが悪かったというか……』
『黒兎:この無能野郎~~~!!! もうちょっとマシな編集つけてもらえねーのかよカス!!!』
『白犬:そ、そんな……』

 〒新都社編集部
『柏:猫瀬先生選出か~! 犬腹くんおめでとう』
『犬腹:ありがとうございます! 初めての入れ替え戦ですからね。胸を借りるつもりです』
『柏:そんな、またまた。ベストファイブ獲るつもりで頑張ってください』
『頬女:ひょうたん先生は厳しいだろうなあ』
『豊臣千成:う~ん……正直これはちょっと。メインジャンルが同じ橘先生が相手ですからねえ。まあせっかく入れ替え戦に出れるんですから、少しでも知名度が上がるように全力で挑みますが』
 入れ替え戦は、本当に実力を備えた挑戦者が出てこない限りはそうは下剋上が果たされることはない。それはベストファイブ陣の壁が厚いこともあるが、それ以上に、読者がベストファイブ寄りに投票するという傾向が大きい。ベストファイブ作家と挑戦者、二つの作品を読み比べて投票する訳であるが、純粋な作家はベストファイブ作家の方が面白いに決まっているという先入観から入る。小説の評価というものは非常に曖昧で難しく、そういった先入観から入られると挑戦者側がその評価をひっくり返すことは難しい。また、ベストファイブ側の作品しか読まずに投票するという読者も少なからず居る。ともかく、入れ替え戦というもの自体、当然ながら挑戦者側が厳しい戦いを強いられるものなのだ。
 しかし、挑戦者としては入れ替え戦に出られること自体が大きなメリットであり、知名度が大幅に上昇する等はもちろん、挑戦者として選出されることそのものが一つ大きなキャリアにもなる。よって、なかなか下剋上が果たされることはないと知りつつも、その参加希望者が途絶えることはない。
『ジャガー:ウチだって厳しいですよ……。やっと挑戦枠を取れたと思ったら、後藤ニコ先生が相手ですもん。夏期のニコ先生ならまだしも、すっかり復調しちゃってますし』
『北方:もう。皆さん、せっかく入れ替え戦に出られるんですから愚痴ることないじゃないですか。僕なんて手持ちの作家が入れ替え戦に出られるのなんていつの話になるか――』

 青山が入室しました

『柏:青山さん! おはようございます』
『豊臣千成:おはようございます』
『頬女:お疲れ様です』
『犬腹:おはようございます』
『ジャガー:お疲れ様です。編集部に来られるなんて珍しいですね』
 ベストファイブ5人の担当編集“五天皇”が持つ発言力・権限は他の編集の比ではない。五天皇の中ではいつも小馬鹿にすらされている青山も、下の編集部では重鎮の扱いである。普段のストレスをここに来ることで発散しようとしている節すらある。
『青山:いやあ、秋期の挑戦作家が発表されたからね。ちょっと立ち寄っただけさ』
『犬腹:猫瀬の担当、犬腹です。今回はよろしくお願いします。胸を借りるつもりで精一杯やらせていただきます』
『青山:ああ、よろしくね。準豪賞とってないのに選出されたんだってね。それはそれで凄いことだけど、厳しい戦いにはなると思うよ。まあお互い頑張ろうよ』
『犬腹:は、はい!! ありがとうございます』
『青山:それで? 他になんか仕事してなかったの?』
『柏:あっ、他には冬の文藝企画について話しているところでした』
『青山:ああ。なんか良い案出た?』
『柏:そうですね。まあ当然クリスマスは絡めつつ、今回はサンタと人間との恋愛なんてどうかという方向ですが』
『青山:恋愛??』
 青山はギクリとした。
 春・夏・秋・冬の年に四回行われる“文藝企画”。小さいイベントは年中不定期に行われているが、最も大きなものは4大企画として季節ごとに催されている。基本的に参加は自由であるが、人気作家になると企画活性化の為に参加を半強制され、ベストファイブになると完全に“当番制”として参加を強制される。そして今年は青谷ハスカが冬の企画への参加を義務づけられており、青山は企画の方向性をそれとなくチェックしにきたのであった。ちなみに夏の企画では泥辺五郎が大好評を博し、秋の企画に向けては橘圭郎が着々と準備を進めている。
『青山:ダメダメ。恋愛なんかウケねーから』
『柏:えっ? そうですかね……編集部内ではそれなりに良い印象でしたが』
『ジャガー:そうですよ。それに、冬の企画では少なからず恋愛要素を絡めるのが通例ですし』
『青山:口応えすんの?? つーか、通例?? そうやって同じことばっかやってっからダメなんだろーが。斬新な企画出せ斬新な企画』
(ハスカ先生が恋愛なんか書いてくれる訳ねーだろ……ちょっとは俺の立場も考えろボケども)
『柏:はあ……わ、分かりました。今年の冬はハスカ先生が出られますから、青山さんがそう仰るのなら……』
『青山:おー。企画案が固まったら確定させる前に一回俺んとこ見せにこいよ。勝手に決めたら肩パンだかんな』
『柏:は、はい……』

 青山が退室しました

『ジャガー:……はあ』
『柏:もう。あの人はほんっとにもう~……ムカつくなあ』
『頬女:まあ……、猫さんほどではないけど笑』
『豊臣千成:猫さんはマジキチww』
『犬腹:www』
『ジャガー:だからさあ。やっぱ青山さんを五天皇から外せるように、いい加減入れ替え戦頑張らねーと。犬腹さん、頼みますよ』
『柏:うん。お願い』
『犬腹:いやっ、ええ~~……。いきなり僕に頼られても……。次誰かが挑む人が頑張ってくれれば……』
『豊臣千成:いや、猫瀬先生ならいける』
『頬女:私もそう思う』
『犬腹:ちょっ、皆さん、他人事だと思って!!』

 秋期入れ替え戦、一ヶ月前。

       

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