Neetel Inside ニートノベル
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 雲間からうっすらと日光が差し始め、屋上の温度は徐々に上がり始めた。先ほどから沈黙が続いているが、それとの相乗効果で僕はうとうとし始めた。何か大事なことを忘れているような気がするけど……。まあいいか。そうのうち思い出すだろう。
 ああ、まぶたが重い。このまま気持よさに身を任せて寝てしまおうか――
「そういえば、ヒロミとはその後話したの?」
 一瞬で目が覚めた。なに和やかにしているんだ。ここ数日屋上に来なかった最大の理由を忘れるなんて……。
「いや、あの全然」
「だーろうねえ」と会長は微笑んだ。
「まあ、謝まれば許してくれるよ。多分」
「多分……ですか」
 この場合の多分をどれだけマイナスな意味の多分で取るか。今の僕の心境から言えば、『思春期の青年が母親に対して言う、そのうちやる』くらいマイナス。溜息がでる。早く昼休み終了の鐘がなることを切に願った。

『願いって、本当に強く思えば叶うんですね!』――なんかのバラエティ番組に出てたアイドル。
『思いの強さが地球を変える!』――なんかの標語。
『私の思いをテレパシーであなたに送りますよ!』――どっかの超能力者。

 嘘つきめ……。 
「なんだよこの学校。昼休みに補講とか、どんだけだよー。先生方頑張りすぎだろ。なー、お前なんとかしろよー」
 聞き覚えのある、そして今一番聞きたくなかった声が背後から僕を襲う。僕の願いはお空に儚く散ったのさ。もう絶対信じない。
「なんとかっていても、俺元会長だしねえ」
「そこをなんとかする――古浦……」
 僕がヒロミの方を向くと、気まずそうに名前を呼んでから口をつぐんだ。先ほど事情を知った会長も苦笑いだ。
「ど、どう――」
「この前はごめんっ!」
 その言動に僕はかなり困惑した。まさか彼女の方から謝罪があるとは夢にも思わなかった。というか、今までの彼女の態度から、この行動は全く予想ができなかった。
「よく考えれば私が変にキレただけだったし。まあ、その、許してくれ。そんで忘れて」
 照れ笑いを浮かべて彼女が言う。
「ええ、別にいいですよ。僕全然気にしてませんでしから」
 と、僕は格好がつかない格好つけをした。
「そっか。ならよかった」
 ヒロミが僕と会長の間に座る。僕は少しずれて座りなおした。座る瞬間、僕の耳元で「こいつに言ってねえだろな?」とボソッとヒロミは言った。僕は引きつった笑顔を彼女に見せた。後で会長に言ったことは内緒にしてもらはなくては……。


「日が出てきて暖かいですねえ」
「そうだねえ。あ、お茶あるよ? 暖かいの」
「じじいかお前ら」 
 時間はそこからゆっくりと流れていった。
 





       

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