Neetel Inside ニートノベル
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 私とアイツが出会ったのは私が中学一年生でアイツが中学三年生の時だった。その時のアイツは強盗犯みたいなマスクを付けて活動していた。私はヒーローぽくないその格好が嫌で今のヘルメットを付けさせた。
 活動内容も変えた。効率も悪くて周りにアイツの存在がアピールできないような活動をやめて、サイトを作って大々的にヒーローの存在をアピールした。
 認知度が高くなるに連れて、アイツはどんどん忙しくなった。でも、アイツはいつも笑ってた。疲れた様子なんて一度も見せなかった。学校が終わったらすぐに活動を初め、終わるのはもう空が漆黒に包まれた頃。その活動の長さに比例するかのように人気も知名度もどんどん上がった。追っかけまで出来た。私は嬉しかった。テレビで見るような理想のヒーローが私の目の前に居るのだから。



 そんなある日、アイツが倒れた。



 原因は過労だった。当たり前だ。あんなにハードなスケジュールをほぼ休みなく続けていたのだから。私はアイツの異変には全く気付かなかった。アイツはいつも笑っていたから。
 私は自分の理想を押し付けていた。ヒーローはみんなを助けるもの。いつでも困っている人のもとに駆けつける。こんなのはアニメや漫画でしかありえない。それにアイツにはアイツの生活がある。中学三年生ということはつまり受験生。私のいいなりになって大事な時期を棒に振るところだったわけだ。
 自分を責めた。アイツの前で泣いて謝った。でも笑って許してくれた。「俺は頭いいから勉強しなくても平気なんだよ」なんて私に気を使って。
「もう、やめよう」
 私のその言語に、一瞬顔をしかめた。調子がいいことは分かっていた。でも、何もかもが申し訳ない。これ以上、迷惑をかけたくない。
「そう。でも俺は続けるよ」
 目の前にはいつもの笑顔があった。それに引換私の顔はどうだっただろう。きっと泣いてぐしゃぐしゃになった上に、さらに驚きを隠せない表情でなんとも不細工だったに違いない。
「おっと、別に同情してるわけじゃないよ。前から俺はそういうことやってたわけだしさ。ヒロミには感謝してるよ。だって俺はただなんとなく仲裁してたけど、方向性というか、筋道? みたいなのを作ってくれたし。でも君がやめたいっていうなら止めない。協力者がいなくなったってことだけだし」
 そう、それは核心。結局私はコバンザメのようにアイツにくっついて、フィクサーにでもなったかのように自分のいいようにしていただけ。
「まあ……。でもやっぱりこの先一人だと不安なんだよねえ。だからさ、ヒロミがよかったらでいいんだけど……、これからも手伝ってくれない? お願い!!」
 私の目の前でアイツは地面に頭を擦りつけていた。私が謝っていたのに、いつの間にかアイツが土下座して、私は号泣して……。そして沈黙。
 顔を上げたアイツと目が合う。「うわ、汚い顔だなあ」と笑う。袖でゴシゴシと顔を拭く。
「バッカ……。あんたのおでこも汚いよ」
「え、あー本当だわ」
 些細なことなのに、別にそんなに可笑しいことじゃないのに、私達は大声で笑った。

       

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