Neetel Inside ニートノベル
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彼はヒーローですか?
第5話:彼と僕と私です。前編

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『ヒロミ:3丁目で引ったくり 行け』
「おーけえーい!」
 今日も俺の日課は続く。たまに休みたい日もあるけれど、ルーティンワークは別に嫌いではない。
「ありがとうございます! おかげで助かりました!」
 被害者を助け終わると、俺は右手を上げてすっと立ち去る。次の相手にはどんな格好で別れを告げようか。やっぱり決め台詞があったほうが格好がいいか? こんなことを考えながらやると意外と飽きない。
『ヒロミ:住江公園でリンチだと 出番』
 よし、今度はヒーローっぽく格好いい台詞でキメよう。俺は意気揚々と現場に向かった。
 公園では小さい子供達が遠くから喧嘩を見守っていた。大人も何人かいたようだが、やるといえば警察に電話するくらいだったようだ。
 公園の中心の方では中学生位の男四~五人が一人をたらい回しにして蹴り殴りの応酬を繰り返している。俺のニキロ先まで見えるヒーローアイで見ると、リンチされいる奴はどうやら前に助けたことのある男子生徒らしかった。まったく、懲りない連中だ。
 それを確認すると、近くの小高い建物から勢い良く公園の飛び込んだ。周りからは声援が上がる。
「きたあ!」
「がんばってくれ!」
「かっこいー!!」
 俺はみんなに背を向け無言で右手の親指を立てた。またわっと声援が上がる。……悪い気はしない。
 周りの声に気づいたらしくリンチは一時中断された。そしてすぐ、やべえ、逃げろ、と散り散りに逃げ出した。最近は手を出さなくても終わることが多くなった。知名度が上がったおかげだろうか。いいことだけど、ちょっと歯応えがないので残念ではある。
「大丈夫か?」と右手を伸ばす。
「さわんな……」
 静かだが威圧感のある声に、俺の手は空中で静止した。
「でも、自分で立てるのか?」
「うるさい……。誰も、助けて欲しいなんて……言ってない」
 彼はゆっくりと立ち上がったが、足元がおぼつかないようで、すぐにまた倒れた。
「おいおい、病院行った方が――」
「押し付けがましいんだよ! ヒーローだかなんだか知らないけど、迷惑なんだよ。誰も助けて欲しいなんて言ってねえよ。助けられたら俺が惨めで仕方ないだろ……。俺はお前の引き立て役なんかじゃねえんだよ!」
 周りは彼へのささやかな中傷を語り合っていた。それを尻目に彼はゆっくりとまた重い体を前に動かし始めた。
 俺はその場に縫い付けられたように立ち尽くした。頭の中ではすぐ前に言った彼の言葉がぐるぐる巡っていた。
 

       

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