Neetel Inside ニートノベル
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 商店街はいつも通り学校帰りの学生や主婦の方々でごった返していた。僕はヒロミよりも歩調早いので、彼女を見失わないように振り返り振り返り歩いた。ヒロミは僕が振り返りる度に、なんだよ、文句あるか? とガンをつける。それを見る度に僕は作り笑いを浮かべてまた前を向く。
 気まずすぎる。遊びに誘うなんて酔狂ことをしてしまった自分が憎い。取り敢えず歩き回っても拉致があかない。どこか間を保てる絶好の場はないのか……っ?
 すると、願いが偶然にも天に届いたのか、不意に目の前に悪目立ちする電光掲示板現れた。
『ゲームセンター』
「ここだっ!」
「な、なんだよ急に」
「ここに入りましょう!」
「ゲーセンか……。まあ妥当だな」
 そう言いつつヒロミは何だか嬉しそうだった。
 自動ドアが開くとすぐに大音量のゲーム音が耳をつんざき、タバコや香水などが混じった特有の甘ったるい匂いが立ち込めた。僕はこの匂いはあまり好きになれない。でも大堀とよく来るから少しは慣れたようで、それほど気にはならなかった。
「ここ来たの久しぶりだわ」
「僕はこの間友達と来たばかりですね」
「そうか。意外とこういう所来るんだな。……あっ、ドラムの達人あるじゃん。あれやろうぜ!」
 『ドラムの達人』は大堀が良くやっていた世間一般に言うリズムゲーという奴だ。二本のスティックを操り、パレードで使うようなドラムをリズムに合わせて連打する。上級編になるとかなりのスピードで連打をしなければならない。まあこれは全て大堀の受け売りであって、僕は専ら見ているだけ。これ自体はほとんどやったことはない。
 百円を二枚入れていざ開戦。
「じゃあどうするか。とりあえず難易度は普通モードでいいか?」
「大丈夫です」
 ヒロミは普通モードの中で難易度が一番高い曲を選択した。相当やりこんでいることが、セレクト画面でのスティックさばきで見て取れた。それに一抹の不安を覚えながらもいざスタート。結果はボロボロ。僕はノルマの点数すら超えられなかった。ちらっと横を見る。『フルコンボ』の文字が大きく画面に表示されていた。それにつけてもヒロミのドヤ顔がなんとも苛立ちを誘う。
「お前こういうのからっきしそうな顔してるけど、その通りだな」
 この言葉にはむっと来た。だが言い換えそうにも結果が結果なのでどうしようもない。しかし、一つだけ腑に落ちない点があった。大堀もいつもこの曲をやっているが、どうしてだか譜面が違う。いつもはもっとリズムを表す記号がぎゅうぎゅう詰めに流れるのに、今回のはスッカスカで、しかもタイミングが違う。そういえば、大堀はいつも最上級モードでプレイしていた。もしかしると……。
「私がノルマクリアしたからもっかい出来るぜ。普通モードでこれだから、じゃあ簡単モードにするか?」
 ヒロミはニヤニヤしながら言った。
「いえ、最上級モードでお願いします」
 一瞬、顔がこわばる。
「私はいいが分かってるか? そんな腕じゃ自滅するだけだぞ?」
「平気です。いえ、むしろ勝負です! なめられたままじゃ僕も終われない!」
 ここで引いたら男がすたるっ!
「いいだろ、受けて立つ……っ!」
 

       

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