Neetel Inside ニートノベル
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「会長さんの様子がおかしい……ですか?」
 夏休みも間近に迫ったある日の昼休み、ヒロミは神妙な面もちでそう言った。最近の彼の様子を思い出す。だか特に思い当たる節は無い。強いて言えば初めて屋上に来ていないことくらいだ。
「いや、絶対おかしい」
 ヒロミは熱弁する。何がおかしいのかは分からない。ただ明らかに以前と違うと。そうは言われてもいまいちピンと来ない僕には糠に釘。終いにはその態度にイライラし始めた。

『三年二組の元生徒会長、至急数学科の山下の所まで来るように』

 不意に放送が入る。ヒロミはばつが悪くなって小さく舌打ちをした。どうやら会長さんは学校にはいるようだが、此処に来ない理由が気になる。結果として会長さんの様子がおかしいということに繋がることだ。ここにきてようやく僕も少し心配になってきた。
 その日のヒーロー活動に会長さんが連絡も入れずに休むと、いよいよことの重大さに気づいた。ヒロミの苛立ちも限界に達したらしく、自前の金色のバットをがむしゃらに振り回していた。メールも電話も応答無し。事故にあったのではと心配したがそれを確かめるすべもない。結局この日は何もせずに帰ることとなった。

 ところで最近僕はヒーローについていろいろ考えるようになった。多分間近で本物のヒーローを見ていたからだと思う。正義のために戦う。悪を絶対許さいない。それがヒーローだと考えていたが、それが変わってきた。会長さんはヒーローと呼ばれているが、正義のために戦っているわけでもなければ悪を絶対許さいないわけでもない。でも彼はヒーローと呼ばれている。何故か? それを考え続けて、自分なりに一つ見つけたことがある。

 ヒーローは何かを守る人。
 
 僕から見た会長さんはいつもこの街を守っているように見えた。確かにやっていることは小さい。小さいがそのどれを見ても結局は街を守るためにやっていること。だから彼はヒーローなのだ。


 しかし無断で休んだりはちょっと宜しくない、せめて連絡をくれればなあ、と僕は思った。


 ◆◆


 その日の夜――

 町外れの廃ビルの屋上に俺は立っていた。昼間温められた空気が少し冷めて、それが湿気と混ざって気持ち悪い風となって吹きつける。しかし空は清々しい位晴れていて、月が明るく俺を照らしていた。まったく、こんな手紙なんかに踊らされている自分が情けない。無断で活動も休んでしまったし、最近の俺はどうかしている。
 自分を鼻で笑った。
「ちゃんと来てくれたようだな」
 屋上への入り口の向こう側から声がした。少し驚きながらも俺はそこを凝視する。カツリ、カツリと靴の音が近づくとともに人影が近づく。そして月明かりに照らされてゆっくりと全体があらわになっていく。
「あなたは――」




       

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