Neetel Inside ニートノベル
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 学校の授業も一学期の分は全て終了し、後は大掃除と終業式を待つだけとなった。そのため学校は午前中で終わることが多くなり、四時間目が終わると部活動をする人以外はほとんど姿を消す。そんな中ヒロミは毎日屋上にいた。連日今年の最高気温を更新する中じっと座って居るのだ。見かねた僕は購買で冷たい緑茶を買って先日一度彼女の所へ持っていった。
「……ありがと」
 普段とは変わって蚊の飛ぶ音のようなか細い声で言った。理由はこの間の会長さんのことであるのは言うまでもないだろう。
 僕は彼女の横に座る。しばし沈黙が続く。前とは違い、もう苦痛には感じなかった。
「もう……終わりなんだな。全部」
 彼女のその言語に、僕は何も答えることはできなかった。


 そして今日、僕はまた彼女を訪ねた。今日も俯いたまま座ってじっとしている。
「まだ居たんですね」
 ヒロミの横に立ち、彼女を見下す形で言った。
「……小浦か」
 俯いたまま言う。
「いい加減にしたらどうですか? もう先輩は来ませんよ」
「……うっさい。黙れ」
 僕は続ける。これは一種の賭けだ。彼女の負けず嫌いさがどの程度であるかが鍵。
「ヒロミも分かってるでしょ、もう。ここに居たってしょうが無いって」
「それ以上言ったらぶっ飛ばすぞ……!」
 急に立ち上がり彼女は僕の胸ぐらを掴んで睨みつけた。でもその目には以前の光は無く、目が合うとすぐに力を抜いて僕を軽く手で押して外方を向いた。
「……分かってんだよ、それくらい。でも、アイツがこんな事で全部終わりにする奴じゃない事も分かってんだよ! もうどうしたら良いか分からないんだよ……」
 小さな雫が乾いた屋上に落ちた。小刻みに震える両腕を僕はぎゅっと掴んだ。一瞬彼女は体を強ばらせる。
「ヒロミはここでただ待ってるんですか? 何もせずに。会長さんが全部を諦めそうなのに座って泣いてるだけなんですか?」
「だって……、何が出来るかわからないんだよ……」
 彼女の腕の震えは止まらなかった。僕は握った手を離す。彼女も葛藤しているんだろう。これ以上は彼女をさらに苦しめるかもしれない。賭けは負けか。でも、一人でも僕はやる。
「僕は諦めませんよ。少なくともここでじっと待ってたりはしない。僕は僕の出来ることをします。じゃあ、行きますね」
 そう言って僕は屋上を後にしようとした。だが背後からの「待てよ」という涙声が足を止めた。振り返るとヒロミが真っ直ぐ僕を見つめていた。赤く腫れた目。しかし以前の鋭い眼光がそこにはあった。
「お前にそこまで言われたら……私も動かない訳にはいかない……そういうことだろ?」
「お見通しでしたか」
 そう言って頭を掻く。最後の最後で大逆転。こんなこともあるものなんだな。
「お前の魂胆なんか見え見えなんだよ」
 でも結果としては僕の策に落ちた事になってるよ? まあ何はともあれいつものヒロミが復活したことに僕は嬉しさを隠せない。やはり、こうでなければ。

       

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