Neetel Inside ニートノベル
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 街の喧騒の中を俺はふらふらとさまよい歩く。自分の守っていた街を見たかった。カツアゲ、万引き、ひったくり、ゆすり、喧嘩。どれも俺が活動をやめた後も一向に減らない。俺が守っていた物はこんなもんだったのか。笑いが出る。それらの犯罪を目の当たりにしても、何も出来ない自分にも。
 ふらふらしているうちに、とある公園にたどり着いた。前に俺がリンチされている学生を助けた公園だ。昼過ぎということもあって人は多かった。
 不意に尿意を感じたので俺はトイレに行くことにした。この公園は意外と広いのでトイレの影とかは死角になり易い。偶然にもその死角で俺はカツアゲ現場を見つけてしまった。とっさに近くの茂みに入り込んむ。何んで隠れてるんだ俺は……。無視してしまえば良かったじゃないか。
と思っていても気になってしまうので、少し位ならと傍観することにした。
 どうやら学校にも行ってないような兄ちゃん三人対学生一人のカツアゲらしく、学生には何発か殴られている跡もあった。そして傍観している間にもさらに一発、腹部に強烈なブローが入った。嗚咽してしゃがみ込む学生。しかし俺はそれを見ていることしか出来ない。力が無い俺は彼を助けることは出来ない……。
「お、おい! やめろよ!!!!」
 間の抜けた裏返った声が響いた。見ると携帯電話を握りしめた学生が立っていた。その彼が以前助けた学生だと気づくのにはそれ程時間はかからなかった。
「んだよお前?」
「しばかれてえのかあ?」
 高圧的な態度で兄ちゃんたちは罵声を浴びせる。一瞬以前の学生はたじろいだがすぐに携帯電話を前に突き出し「け、警察がもうすぐ来る!! お前ら逮捕されんぞ!!!」と消え入りそうな震えた声で叫んだ。
 リンチ犯三人は学生が通報したかは半信半疑の様子だが、最善策を取ることにしたらしく舌打ちをして走っていった。
「び、ビビったあ…‥」
 その場にしゃがみ込む以前の学生。
「あ、ありがとう……でも何で助けてくれたんですか?」
 それをそっとのぞきながらいじめられていた学生は言った。
「ああ、いやまあ。俺も前に助けられてさ……。でも悪口言っちまった。お前が助けても惨めなだけだって。でもさ、正直嬉しかったんだよね。誰かに助けてもらえるって。だからさ、俺も何か出来ないかなって思ってな……」


 そうだ。最初俺は何かを守っていたのでは無かった。ただ、笑顔が見たかった。それで幸せな気持ちになりたかっただけだった。その感情が全てを証明してくれると信じていたから。それがいつの間にか俺の中で義務になっていた。
 ヒロミと出会い、小浦と出会い、俺はだんだんと初心を思い出して来たのかもしれない。その変化が今までの状態に慣れていた俺には戸惑いに感じたのではないか? きっとそうだ。

 はは。今まで悩んでいたのが馬鹿らしい。あんな力が無くても、人を幸せにすることは出来る。それが俺の喜びであり、ヒーローをする理由だった。

 俺は誰かの為にヒーローをしているのではない。他でもない自分の為にやっているのだ。

 何かがすっと俺の中から消えていき、身も心も軽くなった気がした。

 もう迷う必要は無い。俺は静かにその場を後にした。

       

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