Neetel Inside ニートノベル
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 会長さんが、あのビルの中にいる。僕は火の手が上がるビルを見つめた。炎は激しさを増し、轟々と空気を振動させる。消防団も懸命に消火活動を試みるが、あまり効果は見えない。
 僕はただ見ていることしか出来ないでいた。会長さんに頼られる。そんな事を考えていたのに、結局は傍観者、肝心な時に力になれない。僕は……ただの凡人はこの程度なのだろう。
「ハアハアッ。あの!! ち、小さな男の子っ……見ませんでした!?」
 不意に近くの野次馬に息を切らしながら二十代後半位の女性がそう聞いて回っているのが聞こえた。
「見てないねえ。いないのかい?」
「い、一緒に出たはずなのに、途中でっ、はぐれてしまって……」
 声を震わせながら女性は言う。多分母親だろうか。気の毒に。しかしこの人ごみだ。どこかにいるかも知れない。そうだ、僕もせめて誰かの役にたてることを……。
「あのー、僕も一緒に探しましょうか?」
「え!? 本当ですか!!」
 本当に嬉しそうな顔で彼女は言った。それを見て、いっそう彼女の役に立ちたいと思った。
「はい。特徴を教えてもらえますか?」
「身長が百二十センチくらいの、紺のパーカーを着た男の子です!!」
「分かりました。じゃあ僕は右側を探します。左側はよろしく御願します」
 そうして僕と彼女は別れ、その特徴に該当する男の子を探し回った。しかし、いくら探しても見つからない。最悪の状況が思い起こされる。いやいや、まだ希望を捨てるのは速過ぎる。せめてその子が外に出たことだけでも分かればいいのだ。僕は目で探すのをやめ、口と耳で探すことにした。
「しらんねえ」
「見てないわぁ」
「動画とってんだよ! あっちいけ!」
 畜生。全然駄目だ。というよりみんなビルの方に意識がいってるから、しっかりとした回答は殆ど得られない。少し心が折れかかる。が、必死に息子を探す母親の姿が目に写り、また気力を振り絞る。周りを見渡す。先ほど会長さんを目撃した少年達を発見した。意外と子供の方が目撃してるかもしれない。僕は迷わず彼らに声をかけた。
「あ、君たち。たびたび悪いんだけど、紺のパーカー着た小さい男の子見なかった?」
「見たか?」
「僕は知りませんねえ」
「えーと、私見たー!!」
 淡い希望が現れる。読みは当たった。しかし、それはやはり淡い。薄くて、弱くて、すぐに真っ白に燃え尽きる。
「どこでかな?」
「ビルの中だよー! でもそういえば外に居ないねえ?」
  
 さらに追い打ちをかけるように、爆発音が現場に響いた。

       

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