Neetel Inside ニートノベル
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 爆音と悲鳴。瓦礫が宙に舞う。それに呼応したかの如く消防士が吠える。騒然とする現場。その中で僕は立ち尽くし、母親は涙を流した。
「タケル……ごめんねええ……」
 子供の名前を呼ぶ枯れた声が喧騒の中に消える。消防士の話だと、火災あった階より下は全員避難が完了したということだ。つまり、外に居ない以上、中に取り残されている確率が非常に高い。
 しかし僕が立ち尽くしている理由はそれだけではない。宙に舞う瓦礫の中に、瓦礫とは異質な物を見たためだ。それは少し熱で溶けていたがよく見覚えがある物だった。人ごみをかき分けて封鎖線の最前まで行き、落下したそれを確認する。間違いない。会長さんのヘルメットだ……。
 気づいた時には僕は走り出していた。
「ちょっ、ちょっと!?」
 消防士の制止を振り切りビルの中へと駆け込む。怒声と、微かに女性の声で僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 ビルの中に入ってしまえばこっちのものだった。誰も居ないロビーを駆け抜け階段へ向かう。二段とばしで駆け上がる。三階まで来ると足が急に重くなった。が、僕は止まらない。体の火照りか火事かわからないが熱が体中を包む。息が苦しくなる。でも足を動かし続ける。
 壁に書いてある数字が七に変わった時には、僕はもう階段を歩いて登るのがやっとだった。中のフロアへ入ろうとする。が、火が伝わらないようにシャッターが降りていた。少し戸惑ったが、すぐとなりに小さいドアを発見した。壁の向こうから伝わる熱気に耐えながら僕はドアを開けた。気圧の変化で風がブワッと吹き出す。
 一面火の海だった。僕は左腕を口元にあて、体を小さくしてゆっくりと中に入った。ここに、ここに絶対居るはずだ……。
 聞こえるのは炎の音のみ。それでも僕は出来るだけ中に入る。不意に一瞬泣き声のようなものが聞こえた気がした。耳に全意識を集中する。……確かに聞こえる。子供の泣き声だ。僕はそれを頼りに中へ中へと進む。
 そしてトイレの近くまで来たとき、人影が微かに見えたのを僕は見逃さなかった。

       

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