会長さんと例の男の子はそこにいた。そして、僕は絶句し彼らの前に立ち尽くした。
「小浦、なのか?」
「は、はい!」
生きている。それが確認出来たことは何よりも嬉しかった。が、その事実が返
って残念な選択を強いることになるとは思わなかった。
「と、とにかく瓦礫をどかさないと……」
「無駄だ。もう俺は助からない」
そう言った彼の顔には笑みが見えた。一瞬、冗談に思えた。
「で、でも……」
「もう時間がない! せめてこの子だけでも助けてやってほしい。お願いだ!!」
何故こんな形で僕の、彼から頼られたい、という願いが彼の死という対価で叶ってしまったのだろうか。不条理だ。あんまりだ。そして、この願いを断ることも出来ない。彼を救うことも出来ない……。
「あきらめちゃ……だめですよ。ま、まだ可能性だって……」
「俺を助けている暇はもうない! 急げ!!」
分かっている。分かっているけど……。もしヒーローなら、どちらも救う道を選ぶはずなんだ。そしてどちらもみごと救出するはずなんだ! こんなのって……ないよ……。
「……小浦、もう一つお願いがある」
「えっ?」
「ヒロミの、あいつの為にヒーローになってくれ」
今度はとても真剣な顔だった。
「そ、そんな……」
「お前なら、なれる。俺が保証する。あいつは寂しがりなんだ。誰かが、ヒーローになってやらないと駄目なんだ」
「でも……」
「お前はこの子を助けるためにここまで来たんだろう? なら大丈夫だ。お前はもう既にヒーローだからな」
僕が……ヒーロー? でも、僕のヒーローはあなただけなんです。僕がヒーローだなんてそんな……。
「ひーろぉ……」
男の子が突然倒れた。それを僕は地面につくぎりぎりで抱え込む。まずい。もう本当に時間がない。これ以上もたもたしていると全滅だ。
「ッ……」
下唇を思いっきり噛み締めた。すこし血の味が乾いた口の中に広がる。そして男の子をだき抱えたまま僕は会長さんに背を向けた。
「ありがとう。頼んだ」
「はい゛……っ!」
弱々しい、が迫力のある声が僕の背中を押す。それに震えた声で返事をする。頬を伝う涙が熱ですぐ乾く。僕の足は全速力で動き出した。後ろは決して振り向かなかった。
この日、僕らは大事な人を失った。僕らの悲しみは、涙となって溢れでた。そして、数日が経った――