「おい、早くしろ! 置いていくぞ!」
「ちょ、ちょっとまってよ! こっちは荷物全部持ってるんだぞ!」
 セミが鳴き、大きな入道雲が空を覆う。時折吹く風が汗と混ざりひんやりと気持ちがいい。世は正に夏真っ盛り、そして僕らは夏休み真っ盛りだ。そんな中、僕とヒロミはあの日から毎日こうして事件のあったビルへと足を運んでいる。
「このビル、廃ビルになるらしいぜ。まああんなことあったから当然だよな」
「……そうだね」
 花を供え、サイダーを一本置いた。近所の人たちはそれを不思議そうに見る。それには理由がある。



 あの事件の後、僕は新聞に乗った見出しは『高校生ヒーロー、少年救出!!』警察から表彰も受けたし、親にこっぴどく叱られもした。なにより、僕とヒロミ以外悲しむ人は誰もいなかった。警察も、死亡者はゼロと発表した。僕とヒロミは戸惑った。警察にも相談した。が、やはり死者はゼロ人だった。その時は淡い希望を持った。彼は
何とか助かったのでは!? と。だがそれはとんだ間違いだった。そしてもっと深刻で不思議な問題だった。


「生徒会長? 二組の村田のことか?」
 事件後何日か後、僕は大堀に誘われて外に遊びに出ていた。あの事件以来なんとなく引篭もりがちだった僕を心配して、わざわざ誘ってくれたのだ。
 そして今は昼食をとるためにファミレスにいる。そしてヒーローなのになんでそんなに落ち込んでいるんだ? と不思議そうに質問された。そこで会長さんの話題を出したのだ。
「いや、元生徒会長の方の。あの、すごい人気で女子もキャーキャー言ってた」
「?? お前大丈夫か? 前回も今回も生徒会長は村田だぞ? あいつ一年から当選してずっとやってんだろ?」
「な、なにいってんだよ? そんなはずないだろう!?」
「いや、ガチだから。なんならクラスの奴らに聞いてみてもいいぞ?」
 一言で言えば、彼の存在自体が無くなっていた。僕は取り乱した。まさか、ありえない!? だってこの街のヒーローじゃないか! みんな知っているはずだ!
「おい、こうらん」 
「なんだばふはうい」
 口の中にあっついグラタンを突っ込まれた。それを見て大堀は爆笑する。僕はなんとかそれを飲み込むとすぐに近くにあった水で口の中を冷やす。うー、すっげえヒリヒリする……。
「な、なにふんだほ!(な、なにすんだよ!)」
「そうそう。お前は元気なのが一番だよ。何があったか知らないけど、お前はそっちのがいい」
「おおほり……(大堀……)」
 僕は、素晴らしい友達を持ったと思う。でも、会長さんが何故存在しないことになっているのか、僕には理解できなかった。この後、偶然出会った会長さんのオジサンでさえ彼の存在を覚えては居なかった。覚えているのは、僕とヒロミだけだった。