Neetel Inside ニートノベル
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彼はヒーローですか?
第4話:私とアイツの過去です。

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「あのっ! 入学説明会の時から、ずっと気になってて、この学校に入るのも生徒会長さんが居たからで……、ずっと、好きでした!!!」
 会長は彼女を笑顔で見つめていた。だが、彼の内心はそうではない。出来る限り彼女を傷つけず、また後腐れなくお断りを入れるにはどうしたらいいのか。彼女の交友関係が分からないのでそこら辺のアフターケアも考慮した上での最良の言葉を選ぶのに必死だった。
 そして実際は短い、されども長い脳内会議を終え、会長は誠心誠意真心込め、くどくなくかつ丁寧なごめんなさいを述べた。
「いいんです。分かってましたから。ただ……伝えたかったんです。ありがとうございました……」
 震えた声が、彼女が走り去った後も耳に残った。
 溜息をつき、屋上を見上げる。
 早くアイツらに会いたい……。アイツらといれば、この心もきっと晴れるだろう。
「『アイツら』……か」
 そうつぶやいて会長は歩き出した。



  ◆◆



 マドンナは会長に思いを伝えたかは分からないが、相手の会長はその日のヒーロー活動の時、僕らを見るなり笑顔で抱きついてきたりして気持ち悪かった。
 例の如く僕とヒロミはサポートに回ったのだが、これは意外と暇で、さらにまだ二人の仲もそれほどいいという訳でもないので、会話の途切れで気まずい空気が流れる。ヒロミはパソコンを弄んでいれば格好は付くが、手持ち無沙汰な僕は話題を探すのに必死だった。
 そしてその必死さのせいもあってか、「あの時、なんで泣いたんですか?」なんて馬鹿なことを口にだしてしまった。当然彼女は僕を睨みつける。初めてあった時のように金属バットを振り回されると覚悟した。
「はぁ……、お前ってデリカシーねえのな。忘れろって言ったのに」
 お昼の時もそうだったが、この話はデリケートなのか。いつもとは打って変わって弱々しい彼女の見れるのはやっぱり意外だった。
「すいません。でも、気になっちゃて。何か僕も悪いこと言ったんじゃないかと」
「なーんもねえよ。お前は全然悪くない」
 そう言ってヒロミはパソコンへと向き直した。
「前に何か……?」
 彼女の背中を見つめると、自然とその言葉が出てきた。彼女はこちらに振り向いたりはしなかった。ただ「まあ……な」とだけ呟いた。
  しばしの沈黙。聞こえるのはビル風の音と遠くにある街の喧騒だけ。それに反して頭の中はうるさいくらいに思考が巡っていた。
 全く自分に呆れた。後のことを何も考えず、昔なにかあったの? なんて聞いてしまった。追撃するか? いやこれは何か触れてはいけないような気がする。聞くにしたって、遠まわしにした方がいいのか、それともここは男らしくストレートに――
「私も、同じだったんだ」
 気づくと彼女は口を開いていた。
「同じ?」
「お前とだよ。同じようにアイツに言ったんだ。前にな――」


 

     


 私とアイツが出会ったのは私が中学一年生でアイツが中学三年生の時だった。その時のアイツは強盗犯みたいなマスクを付けて活動していた。私はヒーローぽくないその格好が嫌で今のヘルメットを付けさせた。
 活動内容も変えた。効率も悪くて周りにアイツの存在がアピールできないような活動をやめて、サイトを作って大々的にヒーローの存在をアピールした。
 認知度が高くなるに連れて、アイツはどんどん忙しくなった。でも、アイツはいつも笑ってた。疲れた様子なんて一度も見せなかった。学校が終わったらすぐに活動を初め、終わるのはもう空が漆黒に包まれた頃。その活動の長さに比例するかのように人気も知名度もどんどん上がった。追っかけまで出来た。私は嬉しかった。テレビで見るような理想のヒーローが私の目の前に居るのだから。



 そんなある日、アイツが倒れた。



 原因は過労だった。当たり前だ。あんなにハードなスケジュールをほぼ休みなく続けていたのだから。私はアイツの異変には全く気付かなかった。アイツはいつも笑っていたから。
 私は自分の理想を押し付けていた。ヒーローはみんなを助けるもの。いつでも困っている人のもとに駆けつける。こんなのはアニメや漫画でしかありえない。それにアイツにはアイツの生活がある。中学三年生ということはつまり受験生。私のいいなりになって大事な時期を棒に振るところだったわけだ。
 自分を責めた。アイツの前で泣いて謝った。でも笑って許してくれた。「俺は頭いいから勉強しなくても平気なんだよ」なんて私に気を使って。
「もう、やめよう」
 私のその言語に、一瞬顔をしかめた。調子がいいことは分かっていた。でも、何もかもが申し訳ない。これ以上、迷惑をかけたくない。
「そう。でも俺は続けるよ」
 目の前にはいつもの笑顔があった。それに引換私の顔はどうだっただろう。きっと泣いてぐしゃぐしゃになった上に、さらに驚きを隠せない表情でなんとも不細工だったに違いない。
「おっと、別に同情してるわけじゃないよ。前から俺はそういうことやってたわけだしさ。ヒロミには感謝してるよ。だって俺はただなんとなく仲裁してたけど、方向性というか、筋道? みたいなのを作ってくれたし。でも君がやめたいっていうなら止めない。協力者がいなくなったってことだけだし」
 そう、それは核心。結局私はコバンザメのようにアイツにくっついて、フィクサーにでもなったかのように自分のいいようにしていただけ。
「まあ……。でもやっぱりこの先一人だと不安なんだよねえ。だからさ、ヒロミがよかったらでいいんだけど……、これからも手伝ってくれない? お願い!!」
 私の目の前でアイツは地面に頭を擦りつけていた。私が謝っていたのに、いつの間にかアイツが土下座して、私は号泣して……。そして沈黙。
 顔を上げたアイツと目が合う。「うわ、汚い顔だなあ」と笑う。袖でゴシゴシと顔を拭く。
「バッカ……。あんたのおでこも汚いよ」
「え、あー本当だわ」
 些細なことなのに、別にそんなに可笑しいことじゃないのに、私達は大声で笑った。

     


「――まあそんな感じ」
 いつの間にか、僕は彼女の隣に座って、彼女の話に聞き入っていた。話の合間にもパソコンから携帯電話に行ったり来たりする手を見ながら、無心で。
 随所で今の僕と重なるところがあるたびにドキリとした。そのたびに湧き上がるのは会長への申し訳なさ。会長はどんな気持ちで僕の話を聞いたのだろう。あの笑顔の下にはどんな感情が隠れていたのだろう……。
「しんみりさせようと思って話した訳じゃないぞ?」
 照れくさそうにヒロミは言った。
「はい、わかってます」
 僕は考えた。彼になにかしてあげられないか。そうだ、彼はいつも頑張って仕事をして帰ってくる。労をねぎらうことも兼ねてなにか差し入れでも買ってこよう。三人分だ。みんなで食べれば楽しいし、美味しいだろう。きっと喜んでくれる。
「そろそろ会長さん帰ってきますよね? 僕ちょっとお菓子でも買ってきます」
「おー。あ、私ソーダ味のグミな」
「……好きなんですか?」
「わ、悪いかよっ」
「いえいえ。じゃあ行ってきます」
 僕は笑顔でそう言うとコンビニへ急いだ。


 

 

       

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