Neetel Inside ニートノベル
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彼はヒーローですか?
第5話:彼と僕と私です。後編

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 ユーフォーキャッチャー、格ゲーにシューティング、これは……カードゲームか? とにかく種類が多すぎて目移りする。最近の学生はこういった物で遊んでいるのか。もしヒーロー活動をしていなければ今頃ここで遊んでいる学生達と俺も一緒に……。
 悲しいかな、ヒーロー活動を精進するために此処に来たのに、結果としてマイナス方向に進んでいる。いかんいかん。もっとしっかりしなくては。
 そう思い周りを見渡すと、ふと遠くに人だかりを見つけた。それもかなり盛り上がっているようだ。俺は引き寄せられるかのようにそこに向かう。
「やべえよ。どっちも今のところノーミスだぜ……」
「『南住江2002』をここまで叩ける奴を二人も見たのは初めてだ」
 周りでは意味がよく分からない単語を発しながらみんな人だかりの中心を見つめている。気になるな……、そう思い俺はその人混みの中に無理やり入ると、その中心を目指した。
 やっとのことでそこにたどり着いた。そしてすぐに心臓が止まる思いがした。よく見る顔が二つあったからだ。瞬間、自分の今の立場を思い出した。今あの二人に気づかれるのはばつが悪い。だが二人がなんで此処に居るのかも気になる。俺は悶々としながらも、その場に立ち尽くし二人を観察した。
「やるじゃん小浦。だけど勝つのは私だ」
「話し、ながら……じゃ、集中、とぎれますっ!」
 こうらんは明らかに切羽詰まった感じだが、ヒロミはまだ余裕そうだ。それにしても……楽しそうだな、ヒロミ。俺も混ざりたいな。
 俺がヒーロー活動仕立ての頃はよく遊んだっけか。あの時はすごく楽しかった。それでいて幸福感があった。笑い声を聞くたびにこっちも楽しくなった。一緒にいるだけで嬉しかった。今はこうらんが隣にいる。なんだろう、それがちょっと不快だ。アイツはいい奴だ。好きな部類に入る人間。でもこれはそういった種類の不快感じゃない。ではなんだろう? 
 そうこうしているうちに二人はそそくさとゲーセンを出ていってしまった。俺はまた引き寄せられるように二人を追った。

     

 勝敗を分けたのは単純に体力だった。見る専門だった僕に最後までプレイする体力はなかった。途中で腕の筋肉が硬直、サビの部分が叩けなかった。そしてその失敗から立ち直れないまま敗北となった。
「は、はは。やっぱり私に勝てる分けなかったな!」
「くう~っ、あと少しだったのにい……」
 そう落胆していると、周りからにわかに拍手の音がなり始めた。ゲームに集中し過ぎで気づかなかったが沢山の人が僕らを取り囲んでいた。
「うおっ、人がいっぱいだ」
「あはは。どうも~」
「……何かハズいな。おい小浦、出ようぜ」
 僕とヒロミは逃げるようにゲーセンを出た。結局数十分しか居なかったので、新たな行き先を模索する羽目になった。その間、ヒロミはずっと携帯電話をいじっていた。僕は今後のことを考えるのを止めて、彼女の姿をなんとなく見つめた。ほう、こうまじまじと見ると意外に……――
「ふうっ。ん、何だよ?」
 携帯電話を閉じ一息つくとすぐ、僕に気づいて睨みをきかせた。僕は一瞬のことでかなりドキリとしたが、出来る限り平静を装って「メ、メールですか?」と取り繕った。
「ああ。ちょっとアイツにな。病気なんて久しぶりだし」
「ふーん。そうですか」
「な、何だよその目は。か、勘違いしてんじゃねーぞ! 本当に心配なだけだ!

 いやにムキになるな。もしや……。とちらっと思ったが、道端でそういう話をすることは無いだろうと思い適当にあしらった。
 格好の仲良しになれるポイントだったゲーセンが潰れてしまったので、僕は焦りながらもその内心を厳重に保護し口では「さて、次はどこかゆっくりできる場所がいいですね」とちょっと経験者ぶり格好付けたりした。
 実際この商店街は大人のお店以外遊び尽くしている自信があった。なら最初から焦る必要無かったじゃないかと言われるかも知れないが、それは大堀に誘われて行ってばかりいたからであり、更に女の子と一緒というイレギュラーな状況を考慮に入れて欲しい。
 しかし今の二人の距離に慣れてきたのもあるかもしれないが段々緊張感が抜けてきて、思考も上手く回るようになってきた。
「あ、ファミレス行きません? ゲームして小腹空きましたし」
「そうだな。ちょうど私もお腹がすいたところだ」
「決まりですね!」
 ということで近くのファミレスに移動した。

     

 二人がゲームセンターをでた直後――


 自分は一体何をしているんだ? と考えたことはあるだろうか。こんな問をするのもなんか痛いが、今俺はまさにその状態だ。風邪だと仮病を訴え日々の活動をおざなりにしたのにも関わらず、更には迷惑をかけた二人をストーキング中だとは我ながら情けない。しかし好奇心というものはたとえ一万トンの重石でさえ抑えつけようがないのは分かっていただきたい。いや、ちょっと誇張表現が過ぎたかもしれない。でもそういう感じだということは――
『ゆっがったメール♪』
 突然の振動と音に取り乱す。なぜこんなタイミングでメールがっ。急いで携帯を止める。向こうには……よし、気づかれていないようだ。誰だこんなタイミングでメールをしてくる奴は!
 ディスプレイにはヒロミの名前がくっきりと浮かんでいた。俺は気づかれていたのかと思い一瞬体を縮みこませた。が、メールの内容を見てすぐにそれは無いと確信した。

『ヒロミ:大丈夫か? お前が風邪引くなんてよっぽどだろうから、今日はゆっくり休めよ? 返信は出来るだけでいいぞ。代わりに明日ちゃんと学校来いよ!!』

 このメールを見て俺が自暴自棄になったのは言うまでもない。そしてそれにも関わらずストーキングを続ける自分が屑人間だと自覚した。言い訳としては、二人の関係が気になる、簡潔に言えばこれだ。先のゲーセンでもそうだが、二人は結構仲が良さそうな印象を受けた。これはもしかすると……。そう思うと何故かモヤモヤする。が、二人を監視していると何故か少し楽になる。だからついて行ってる。
 今はゲーセンの近くのファミレスにいる。俺は二人から二つ後ろの席にこっそり座った。二人はなにやら親しげに話している。時折笑い声も出ている。さらにモヤモヤが増す。気を紛らわすために取り敢えずグラタンを注文した。熱い飯に集中すればきっとこの解せない感情も忘れられるはずだ。しかし、グラタンは熱すぎたので少し冷めるまで待つことにした。
 それにしても周りには高校生が多い。立地条件がそうさせているのか。そしてみんな笑顔だ。スイーツなどをつつきながら談笑している。その中に例の二人は違和感なく溶け込んでいる。いやむしろそれはある筈がない。毎日のように俺と一緒にヒーロー活動をしているのが異常なのだ。
 ゲーセンの時も、今もだが驚いたことがる。ヒロミはあんなに笑う子だったか? ということだ。俺といる時、彼女は笑っていたか? いや少なくともあんな楽しそうにはしていなかった。今見せているそれが今時の女子高生の自然な姿なはずだ。つまり、俺が彼女の『普通』を奪ってしまっているのではないか? 
 俺はヒロミにとって必要なのか? この間だってそうだ。俺は自分は正義の為に動いていると思っていた。だがそれは違うこともあると知った。なら俺がヒーローである意味は? 
 解らない。俺は……なんでヒーローになった?


 グラタンは冷めてしまって全然美味しくなかった。

     

「でよー、それでそん時アイツが私の邪魔したからさ――」
 ファミレスに入り、適当に食べ物を見繕って僕らは談笑し始めた。が、ヒロミの話すことと言ったらだいたい会長さんの事。普段聞けない話なので嬉しいと言えば嬉しいが、もうちょっとこう気の利いた話はないのだろうか? 最近の女子高生なら恋話とか、お菓子の話とかするんじゃないのか? いやまあ僕の妄想だが。
「本当はさー、私もアイツと一緒にヒーロー活動したいんだぜ? でもアイツがダメって言うからしょうが無くサポートに回ってんだよ」
「え、そうなんですか?」
「アブねえからだとさ。過保護なんだよ、アイツはさー。むしろ私を守れって感じだ」
 そう言ってヒロミはケラケラと笑った。後半はふざけて言ってるように聞こえるが、流れ的にはこれは本音じゃ? てかもうコレは確定だよな? 
「ヒロミって会長さんのこと好きでしょ?」
 思ったことを口に出してしまうのは自分の悪いくせだと思う。実際これで結構損をしてきた。
「ななgyふじこpっl@;:」
 今回は吉と出たようだ。男みたいな喋り方なのに実は純情ハートの持ち主さんだったとは。「まあまあ、隠さないでいいですよ。いやまあむしろ必然という感じですか?」
「ち、ちがーーう!!! 別に嫌いじゃないが……す、好きだなんてそんな……」
 ヒロミは怒っているのか照れているのかよく解らない表情になった。な、なんだろう。ちょっと可愛く感じてしまった自分が怖い。ヒロミは手元に置いてあったジュースを一気に飲み干した。そしてキッと僕を睨んだ。
「ぜってえアイツに言うなよ」
 重くドスの利いた声だった。これは絶対殺られると思った。
 ここから二人とも会長さんの話は自粛し、そのおかげでいろいろな話をした。実はヒロミは重度のヒーローオタクであるこが発覚したり、僕の父親は警察官なのだが、彼女がご厄介になったことがあったり、まあ大体ヒロミのことだが楽しい時間を過ごした。
「今度は三人で来ようぜ!」
 そして最後の別れの言葉の『三人』というワードに僕はとても幸せな気持ちになった。会長さん達の仲に自分が入っていたのがとても嬉しかったからだ。僕は居ても立ってもいられずに家まで走って帰った。

 

       

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