Neetel Inside ニートノベル
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 時刻は15時。
 いつの間にか昼を過ぎ、練習は終わった。
 フミさんと戦闘をして5時間。僕は一度も攻撃を与えることができなかった。
 一回ぐらいはできると思っていた。そのつもりで練習したが現実は異なる。
 これまで僕が生きてきた中で、学校にいるときも、会社の社長になってからも、自分の能力に自信は持てていたし、最低でもどこかへ逃げて生存するレベルはあると思っていた。
 この5時間で数百回は死んでいたと思う。フミさんは攻撃は全く当ててこなかったが、当たっていたらたぶんそうなっただろう。
 世界基準の強さを示すランク付けがあるにしても、力に最弱と最強の値は存在しない。やろうと思えばどこまでも強くなれる。
 この練習で自分の視野の狭さがだいぶわかった。そして世界征服することがどれほど難しいことなのかもわかった。
 学ぶことも多く、それを整理しながらホールへ進む。
 そこにはソファに倒れる妹。
 となりで眠る愛ちゃん。
 そしてそのとなりで眠っている蘭子さん。
 そして柏尾さんと神崎さんはとなりでもめている。なにかあったのだろうか。
 みんながみんな疲れているみたいだった。それぞれ何を練習しているのかよくわからないけど大変だったのだろう思う。
 すごく無防備な姿勢なので、見えるところが見えるのでなんとかしてもらいたい。 そんな事よりも疲れのほうが上回っているのでどうでもよかった。
 うしろから足音が聞こえてくる。
 コツコツと単調なリズムで近づいてくる。
 2人いるけど同じリズム。
 ナナさんとフミさん。
 2人とも疲れが全く見えない。
「あれ、みんなお休み中だったかな」
「よろしければお飲み物をお持ちしますが。フィオ様」
「あ、じゃあコーヒーをもらっていいですか?妹もそれでいいと思いますが、できれば甘いものがあればそれで」
「はい、了解しました。蘭子様と愛様の分も用意しますので、起こしておいてくれますか?」
 そう言ってフミさんは裏のキッチンへ入っていく。柏尾さんと神崎さんの分はいいのだろうか。
「それじゃあ、今日の結果報告するよ」
 ナナさんの手元から画面が表示される。空中に浮かぶプロジェクターの映像。それでもテレビと同じほどの鮮やかさを出している。
「まずフィオ君。本当は5時間もやらないつもりだったけど、よく持ちこたえたね。普通なら無理ゲーとわかるとあきらめがつくころだと思ったけど」
「正直3時間耐えた後の記憶があんまりないんですけど・・・」
「そうだったのか。このグラフを見てみると3時間たった後、午後1時か。フミの動きに全部対応している。」
 グラフを見てみると、戦闘中に急所を狙われ死亡となる攻撃が午後1時から0になっている。それまでは1時間に60回。自分は1分しか耐えることができないのか。
「そして同時に全部攻撃が闇属性になっている。それまでは光属性が7割、闇属性が3割。これについて思い当たることは?」
「まったくないです。基本的に光属性の攻撃のほうが得意なので、そんな闇属性しばりにするようなことはしないと思います。そんなことやっている場合じゃなかったですし」
「へーお兄ちゃん5時間もやってたんだ」
 サーシャが起きたみたいだ。手にはオレンジジュースだろうか。
「私は3時間とちょっと。愛さんはよくわかりませんが寝てるのでがんばったと思いますけど」
 蘭子さんも起きたみたいだった。愛さんはまだ隣で寝ている。
「おい柏尾。おまえは蘭子さんの命令が聞けなかったのかときいているんだ」
「あの時はそういう場合じゃないだろ!どうすんだよここで死んだら意味がないんだよ。総長との約束忘れたのかよ!」
 こっちの2人はまだ続いていたみたいだった。
 視線をナナさんのほうに戻す。
 しかしそこにはフミさんしかいなくて。
「馬鹿2人。ちょっと静かにしろよ。」
 2人の間にナナさんが入る。
「すみません総長。ちょっとこの馬鹿が行動無視したもので」
「総長。こいつが危険が迫っているのでなにもしなかったので」
「まったく。おまえら2人はもうちょっとお互いを理解しろと言っただろ。そんなんだから蘭子君があんなに疲れるんだろ。それに私は君たちにはちゃんと今日の内容説明しただろ」
 口ごもる2人。それから2人とも何もしゃべらずソファに腰をおろす。
「すまないね。では結果報告の続きを。」
 そういってフミさんのいるところにナナさんが戻る。
「能力の使い方はまだまだ改善余地ありだね。建物内に資料室があるからそこに君と同じ能力の人のデータを参考にして勉強するといい」
「それって、他人の技とかを利用するって事ですか?あんましコピーというか他人のものを使うのはいけない気がしてやってないのですが」
 この点に関しては特に思う。
 他人の努力を奪う気がして正直やりたくはなかった。自分の考えを理解してもらうのは好きだ。でも自分の考えを利用されていくのはいやである。考えであっても自分の所有物の1つ。だから自分のことは自分でやることにしていた。
「パクリは恥ずかしい事かもしれないが、それは知識の一つにはなる。それを元に新たに生み出したり、改良することで向上することができることもある。悪いと思っているのならそれはその人を批判することかもしれない」
「そういうものなのでしょうか?」
「まあ答えは一つじゃないけどね。1つの回答例、もしくはヒントとして見ればいいんじゃないのかな。資料室は君に妹がよく知ってるからあとで聞くといい」
「わかりました。ありがとうございます」
 とりあえずコーヒーのおいてるテーブルへ戻る。まずは頭の整理を。
「あとみんなもそうだけど、あとで各自に渡したいものがあるから最後まで残っているようにね。じゃあ次、サーシャ君」
「はーい。疲れました」
 その台詞的には疲れてなさそうに見える。物理的ダメージを受けている様子も見られなし。何をしてたのだろうか
「どうだった。あのパソコンは?」
「ちょっと予想外でした。お兄ちゃんの会社の電子系の管理はすべて行っているから、1台なんかすぐに自分のものにできると思ってました」
「あれはそんなものじゃないからね。人間にはまず突破できないそういう世界だし」
 空中に浮かぶ結果のグラフ。挑戦回数200回弱。すべてメイン部分に到達できずに自身のほうに浸食してくる。浸食と言ってもどういう感じになるのかよくわからない。妹に聞いても眠くなるような感じとか、全身に電流が流れるような感じとか言うけどよくわからない。
「あれはコンピュータなんですか?」
 ・・・えっ?
 あれそういうものじゃないのかなぁ。人が使うものではないようにみえるからパソコンにしないのはわかるけど、コンピュータではないとなると、人工知能か何かなのだろうか。
「なかなか鋭いね。あれはコンピュータが使うための機械と言えばいいのかな。詳しくは作ったフミに聞くといいけど。」
「ですがナナ様。あれの中身を教えてもいいのですか?」
「そこはフミに任せる。あれはフミのものだし判断は任せるよ。たまにはそういう事も任せてみたい」
「了解しました。ではサーシャ様、あとでお時間よろしいでしょうか?」
「はーい。対策練って考えときます」
「それじゃあ次は蘭子君」
「はい。よろしくお願いします」
 サーシャと入れ替わり蘭子さんがナナさんのところへ行く。
「まずはごめんなさい。まさかもう侵入者が出てくるとは思わなかった。おそらく、愛君のところの奴らだろう。おそらくかぎつけてきた」
「いえ、私もなにもできなかったのですみません。2人にどうしてもらえばいいかよくわからなかったので。」
「それはこれから身につければいいことだね。目的はわかってると思うけど、あの2人が協力して戦闘するようにできること。あいつら2人は自身に過剰な自信を持っているし、目的も持ってる。ちょっと面倒かもしれないけど頼むよ」
「いろいろ方法も考えたのですが、何か制限とかありますか?」
「死ななければ問題ないけど」
 あっさりと答えるナナさん。あの2人に対する扱いがほかのひとたちとずいぶん違うのだがいいのだろうか。
「わかりました。また明日がんばります」
 そう言ってソファに戻る蘭子さん。
 そして次はおそらく愛さんなのだろうと思うけど、まだ寝ている。
「愛君のはなしでいいよ。それよりも渡すものが。フミ、みんなにあれを」
 フミさんから薄いノートみたいなのが渡される。
 これは・・・タブレット端末?
 紙のノートと同じ重さなので描き心地の問題なのだろうか。今はこれがなくても空間上に呼び出すことができる。世界が端末化したこの世界では、タブレット端末なんて骨董品のようなもので物好きしか使わないものだ。
「その中にそれぞれ読んでもらいたい書籍が入っている。世界征服を始める1ヶ月後までには全部読んでおいてほしい」
「あのー、私だけそれないけどー」
 サーシャには配られていなかった。手元にはお菓子しかなかった。
「サーシャ君に読んでもらいたいものはデータ総量が多すぎたので後であのパソコンが置いてあるところに行くように」
 とりあえず手元のタブレット端末に電源を入れる。いろんなアプリが入っているが、本を読むアプリを選択。

タイトル:世界の真実
著:O.G.O
※この書籍は電子版のみ販売されております
※本書籍を読むに当たり、項目ごと各人読める領域があらかじめ制限されております

 真っ赤な表紙に白文字でタイトルと著者名が書かれている。
 制限は知能制限や個人の経験からレベルが自動的に算定されるようになっている。この書籍以外でも一般的につけられているもので、子供がアダルトを読めないようにするなども、この機能によって保たれている。
 また、読んだ後に知って後悔したことを避けるためであったり、禁書を簡易に読めるようにしないためにも用いられている。
 読めるレベルの単位は「セクター」で、僕の場合は16歳で152セクターである。一般のこの年代だと100弱なので、相当高い。これもいろいろ過去の生活が原因になっているのかもしれない。
「私の本は、本というよりは図鑑ですね」
 蘭子さんのは植物図鑑らしい。こういうときに電子書籍は図を立体表示できるのでよくわかりやすい。
「サーシャ君の本は1冊じゃないから説明は省略。フィオ君のは制限がかかっているけど、それを超えて全部読むように。蘭子君のは図鑑の内容を覚えるように」
 そう告げて今日は終了。それぞれ個人の部屋へ戻っていった。

       

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