Neetel Inside ニートノベル
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 僕は部屋へ戻りもらった本を開いてみる。
 世界の真実
 2300年に刊行されたこの世のすべてを記した書物。電子版しかないので実際の書物にしたらどれだけの厚さになるのかは想像がつかないが、ページ数が4桁まであるので相当な厚さになるだろう。
 この書物は以前僕が学校に行っていた頃、5年前図書館で見つけた。その頃は50セクターしかなかったので基本的な部分しか知ることができなかった。「生命の誕生」「歴史」などの堅苦しい内容から「明日の天気の予想方法」「ネットワーク」といった雑学要素まで。
 とりあえずページをめくる。
 歴史の年表が書かれたページ。これは以前も見た。だがそこに書いてあることは依然とだいぶ異なっていた。
 追加された内容。その出来事の詳細。そして未来予想まで書かれている。
 今は2500年だが、年表は2600年まで記入されていた。さすがに未来のことなので確定的なことしか書かれていなかったけど。それでも、秘密裏に行われている活動が載っているなど、一般には知られないものばかりだ。
 そこからどんどんページをめくり過去に迫っていく。一応このあたりは追加されていなかった。
 だが、途中で手が止まる。
 2100年。魔法技術が確認された時代。学校ではそう教えられた。なぜ発見できたのかが謎だったけど当時はそのままにしていた。
 だけどそこにはこう書かれている。

 →2050年。人類は崇拝の対象および架空の存在とされていた天使および悪魔の存在を確認した。彼らは我々人類を生み出した張本人であり、人類は機械を生み出した。この際、天使と悪魔は人類への付加として魔力の充填を行い、その供給源として地球の衛星として存在する「月」を魔力発生点であることを人類に宣告。人類のみにしか使えないことを条件としているのもこの時点である。

 なんだ・・・これ。
 天使とか悪魔とかは人間の想像物ではないということなのだろうか。
 そんなことがわかっているのなら、世間的に知られてもおかしくないはず。なぜ知られていない。
 どうも信用しにくい。文字だけの羅列は信じられなかったが、付属の写真を見て一気に確信に変わる。
 その写真には3人が写る。というかこの場合は人と呼んでいいのだろうか。
 おそらく白色の服のほうが天使側、黒っぽいのが悪魔だろう。このあたりは想像していたものと同じである。ただあきらかに人と異なる要素がある。翼がはえていたり、角らしきものが出ている。
 そしてその天使と悪魔の間に人がいる。その人は首輪をされていてそれが天使と悪魔の手元につながっている。

 この画像が本当かどうかもわからない。合成の可能性もある。あとでナナさんに聞いてみようかな。
 さらに過去に戻る。
 2012年。人類減少の基点。
 現在の地球の人口は12億人。全盛期がこの2012年で70億人というのはよく知られている。この年から人口は減少していった。
 でも説明には続きがある。
 
 →2012年12月21日(現13月18日)。この日、様々な方面から人類滅亡の日とされていた。その日、世界中で人々がヒューマノイドに殺される事件が多発。テロレベルの規模でその日の24時間で約1億の人が殺された。
 このヒューマノイドは女性の人型で長髪、身長170cm程度。殺傷の対象としたのは過去に犯罪行為を行った者などであるが、軽微な違反(泥棒やいじめなど)を行った者も対象とされていた。どのようにしてその履歴を調べていたのかは不明。
 その後、日付が変更されると同時に殺戮行為は終了。彼女の存在は確認されていない。人口の急激な減少によって世界は混乱するかと思われたが、数ヶ月後には平穏を戻している。

 新たなる事実。
 今まで知っていた事実を根底から覆す事実に翻弄された。
 これまでの自分の人生において偽りの情報で生きていたと思うと同時に、恐怖の真実を知ることは精神面を大きく削らされた。
 電源を落とし、ひとまず落ち着く。
 たった少しの項目でこんなにも冷静さを失われる。
 これを全部読み切ると思うと、自分の自我が保つのが不安になる。
 とりあえず戦闘の疲れをとるためお風呂に入る。
 まずは落ち着かないと。
 
 ★ ★ ★ ★ ★

 情報室。
 多くの機器が並び、わずかながらの作動音を出している。
 ずっと同じ音。冷たい空気。機器の独特な臭い。
 私はこの環境は大好きで、戦闘の疲れもあったけどすぐここに直行した。
 隣には朝からにらめっこを続けた大きな機械。
 というよりは機械を支配する機械。
 私たちの生活空間では人間とヒューマノイド。まあロボットでもいいけどこの2種類が頂点に立っているはず。正確にはヒューマノイドは人間に従うことが決められているので、人間が頂点に位置するけど。
 機械を人が操作する必要がないので、人間が衰退して機械の世界はおそらく永遠に続いていくのかな。
 一応、人間と動物。自然に存在し繁殖するものの世界を霊界。機械のように作り出した生命で生きるものを機界と区別している。
 そんな感じで人間と機械は密接につながっていて、1人に1体のロボットがつくのは普通である。昔の場合は携帯電話で置き換えられていた。
 情報室まで連れて行かれるということは相当量の本を読まされるのだろうと思うけど、私にはそういう本を読むという行為はしたことがない。
 正確には読むというよりも一瞬で記憶してしまうため、知識に一部に含む行為を行う=読書となってきた。
「それではサーシャ様に読んでいただくものがこちらになります」
 フミさんが私に示したのは朝の機械。
 どんな書物でも一瞬で読めるのでたいした期待はしていない。私のように人間の体に機械を含んでいる場合は記憶容量に制限もでるので、吐き出しも必要になる。でも人間の脳の記憶力と比較すれば容量的には優れている。
「この中にあるのを読めばいいのですか?」
「はい。ですがこの中には本は一冊も記憶されておりません。サーシャ様に記憶していただきたいのはこの世の情報すべてです」
「この世の情報?情報社会で存在するすべての情報という事ですか?」
「そうです。ですが情報量が多すぎてさすがにサーシャ様の記憶容量では1%も記憶できない。そこで記憶媒体としてこの機械を利用し、外部からのアクセスにより知識の共有を行うようにしています。そのために今日の朝の練習ではこの機械の仕組みを知ってもらうようになっているはずです」
 なるほど。そういうことなのか。
 だから「支配できるように」とか条件があったのか。
 でも朝の時の思ったけど、データ量が多いとアクセスするまでに自分がパンクしてしまうから手詰まり状態になってしまう。なので、毎回自分の中の記憶を消さなければならない。人間の脳のようにさっと読む事ができない。見た物すべてが記憶となる。その点が機械式記憶の欠点かも。
「あのー」
「何でしょうか?」
「なにかヒントを下さい!」
 正直悔しかった。電子機器に関して自分が劣勢になるこがほとんどなかったし、なっても自分で解決法を見つけることができていた。
 でも今回のは自分の思っていた規模とは全然異なっていた。自分の力量はかなり上位のレベルまできていたと思ってたけど、まだまだみたいだった。まだ16歳だしもっと向上できるとは思うけど。
「では私と一緒にこの機械・・・【Artemis(アルテミス)】と友達になってみますか?」
「へっ?」
 友達か・・・。
 今までそのような関係を気づいたことがなかった。
 その・・・まともな生活をできていなかったこともあったし、周りとの立場の違いなど、孤立する場面が多かった。お兄ちゃんがいればそれでよかった。
 人とはつきあうことができない。その能力をもう身につけることができない・・・と思う。幼少期の成長方法が歪すぎたのかな。もう私は人間性の成長はできないと思う。けど、この機械なら。
「フミさんはおもしろいことを言いますね」
「そうでしょうか?」
「はい。失礼かもしれないけど・・・」
 ここにきてからの推測をぶつける。
「フミさんは・・・本当は人間ではないですよね」
「ふふふ。やはり一番乗りはサーシャ様でしたか。ナナ様の予想通りでしたね。確かに私はヒューマノイドです。詳しいことはいえませんが。存在としてはナナ様のペアとしての位置づけです」
「でもフミさんはJOKERの立場で誰とでもペアになって活動しているけど、ナナさん一人にしていいの?」
「それはナナ様がそうしろと言ったのでそうしてるのです。私にとってはナナ様の命令は絶対ですので」
「それは法令として主人に従うという意味で?」
「それもあるかもしれないですが、私にはナナ様に従う義務とちゃんとした理由がございますので」
 法に縛られず、自分の意思で従う。
 そのような信念を持てるのはすごいと思う。
 人間でさえそのような考えを持つ人は少数だ。人は魔力を持ち始めてから、他人を信じるよりも自分を信じたほうが有利であることが大きいことがわかってしまったから。
「それでは、詳しくはこの中でしましょうか」
「はい。いろいろとよろしくお願いします!」
 フミさんの手を握る。相手への干渉をする際に接触は干渉速度を向上させる。
 目を閉じる。気持ちを落ち着かせ目の前のアルテミスと意思をつなげる。
 そして、体がふわっと軽く浮きアルテミスの中へと進む。

「サーシャ様。私と同じ能力ならできるはずですよ。あの時の私と同じ立場なのですから」

 ★ ★ ★ ★ ★

「植物図鑑かぁ・・・もう見飽きちゃっけど」
 私は家の環境から植物とくに花には精通している。幼少期からその手の知識はたくさん入ってきたし、自分からも図鑑などを読むのが好きであったので、今では見なくてもおおよその事はわかる。
 私の場合は書いてある以上の情報を必要としなければならない。植物と会話する上で参考となるものは自分の経験、ただそれだけである。
「私の探してきた図鑑はどうかな?」
 うしろから総長の声。
「申し訳ないですが私、図鑑はもたくさん見たのでもう必要ないと思うのですが」
 率直な感想。でも遠回しに言うよりもそう言った方が総長もいいのかもしれない。そんな正確してるし。
「ちゃんと中も見た?私の友達の持っていた本で、たぶん参考になると思うけど」
 中もたいてい同じなのではないのか。図鑑は複数よんでも書いてある情報はたいてい同じものが多いので、2冊目以降は説明よりも画像に目が行きやすい。
 この本のタイトルは「しょくぶつずかん」となっていて、ずいぶんと子供向けな表紙となっていた。とりあえず1ページ開く。
 そこにはさっきの表紙とは全然かけ離れた文字の羅列が並んでいた。まるで論文のような配置。そしてその中に書いてある内容がすごかった。
 普通の図鑑のように画像とその植物の説明。ここまでは通常通り。そしてその続きには植物が持つ魔力特性、合成によって得られる効果、そして植物の言語など通常は載せられないことばかり。このあたりの内容は世界政府によって規制されており、今ではその情報を載せることはできない。
「悪いね。本というか他人の研究成果なんだけど。実はそれ、私の友達の研究論文なんだよ。表紙の字がへたくそなのは彼女がまだ幼かったころのだから許してくれ」
「この、鷲見という人ですか?」
「そうそう。たしか9歳の頃だったかなぁ」
「9歳でこの内容って・・・」
 この内容を幼少期からまとめるなんて相当な天才さんだろうなぁ。これくらいやらないと学問の分野で認めてくれないのだろうか。私くらいの知識では力がすべての世界では無意味なのだろう。
「彼女は27歳で亡くなった」
「えっ・・・」
「世界政府に殺されてしまったんだよ。彼女はいろいろ知りすぎてしまった。その本は彼女が殺されるちょっと前にもらったものだ。いつか使えるときがあるって。私には無縁の世界なので利用方法なんてなくずっとしまったままだったけど、君には彼女の伝えたかった事がわかるのかもしれないね。」
 世界政府。世間的には世界を統治する機関。おそらくたいていの人は彼らの恩恵によって安心して暮らしていけるのだろう。でも、その秩序をすこしでも崩す要素が見つかると、彼らは消しにかかる。
 この鷲見さんもきっとその点に触れてしまったのかもしれない。
 そして私もその内容をこの本で知ることになるのかもしれない。
 つまり、死の可能性がかなり近づくことになる。
 それを見越して私にこの本を渡したのだろう。
 ロイワラの一員としてはいずれそういうことになる。ただそれが近づくだけだ。
「とりあえず蘭子君にはそれを読むように。もう1冊あるけどこれはまたいつか渡すよ。。これは今は使えないからね」
「使えないのはなぜですか?私の力量不足ですか?」
「それもあるけど、これは「人間には使うことができないから」というのが最大の理由。詳しくはフィオ君にでも聞くといい」
「はぁ・・・」

 ★ ★ ★ ★ ★

「で、蘭子君はどうだった?」
 新人組がいなくなり、総長とバカ2人組が残る。
「予想以上ですよ。やっぱり彼女は人を支配する側の人間だよ」
「そうですね。今日一日でこれだけ私たちを動かせていたのは関心ですね。てっきり植物と話すとかの能力だったので、おとなしめの性格だと思っていたのですが」
 結果報告。
 蘭子は能力のせいでおとなしめな性格だと思われがちである。
 実際、彼女もその能力に則り自分を偽って性格を演じ続けている。
 ただ、今日の侵入者が現れたときに本性を現した。
 普段とは違いズバズバと物を言う。そして目の前の減少を必死に現実戻そうとする。まるで、恐怖から逃れるように。
 結果としては柏尾と神崎は彼女の言うままだった。なんというか恐怖が迫っていたからとでも言えばいいのだろうか。
「彼女の指示は的確だった。というか俺たちの目線から見ているかのように前方をよく理解してたな」
「しかし、その後は謝罪していたがな。悪いことをしたのだと思ったのだろうか」
「まあ組み合わせとしてはよかったかな。明日は愛君もそちらに含めようかと思っているけど。組み合わせとしては愛君をメインの攻めにして君たち2人がそれのサポート。。そしてそれをまとめるのが蘭子君の役割ということで」
「まあそのほうが俺たちもやりやすいんで、大丈夫です」
「了解しました。愛さんに伝えといたほうがいいですか?」
「一応伝えてはいるけど、顔を合わせ得るということであった方がいいかもね」
 明日の方向性が決まり、各自部屋へ戻っていく。
 そして最終的には総長1人となるはずだった。
「で、いつまでそのカーテンにくるまってるの」
「・・・。」
 カーテンのふくらみがもぞもぞと動く。
 そこから出てきたのは黒髪をまとう少女。
「明日の内容わかった?」
「わかりましたけど、あなたを殺すことも同時作業なので」
「はいはい。末永くまってるからいつでもどうぞ。それよりも、自分の身を大切にするように。今日の襲撃にもあったように、もう場所は割れているから」
 今日の蘭子&バカ組をおそった敵。逃げられてしまったが加越能グループであることは確かなようだ。
「別に私がいなくなっても困るのは私の親だけだからいい」
「私たちを忘れてもらっても困るよ」
「・・・。」
「そういうこと。わかったらとっとと部屋に戻ってあの本読んできて」
 その後愛は何も言わずに去って行った。
 何か言いたそうだったけど、結局何も起こらないまま。
 そう、なにも。

       

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