Neetel Inside ニートノベル
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 左手に紙を持ちながら、僕は背の高い構造物の並ぶ町へ足を進めた。さすがに年末年始となると寒さが厳しい。コートを羽織っていても、寒い気持ちはなくならなかった。

 皇帝の町 京都

 2100年くらいまでは、日本は東京が中心地となっていたようだ。しかし、人間の発明による発展による犠牲は大きかった。
「東京では息を止めなければならない。」
 そんな言葉がよく言われる。息を止めたら死ぬのは誰だってわかる。つまり東京へ行くのは宇宙旅行への序章なのである。生身の人間では不可能の境地にまで到達した東京は、人々の記憶から離れていったのだ。
 そして、都は京都に移された。それまでにも政冶のしくみが大きく変わった。平和の象徴とされた民主主義は、その結末ゆえにに消滅した。一言で言うと、日本は変わらなかった。もしくは悪化したらしい。
 政治は帝国主義になった。
 といっても、完全なる絶対王政でもない。人々の平和は守られているのは変わりない。
 つまり、一番知恵のあるものを王とした。その結果が悪ければすぐにやめさせることも可能である。一種の政治ショーになっているのかもしれないが、結果としては、これが一番安定した。

 以上、短期間で知った、日本の現状。実にどうでもよかったが……。

 安定を目指しつつも、王がころころと変わる不安定な町にフィオは住んでいる。といっても住み始めてまだ1カ月。しかも妹付き。
 今日は13月30日。俗にゆう大晦日だ。大掃除は大晦日の日にはしないものなので、閑静な住宅街となっている。
「お兄ちゃん!お帰り!」
 元気よく挨拶してくれるのは、だれでもうれしいが、ここはまだマンションの入り口。セキュリティーの為のボタンを眺めているのは少々不安だが。
「サーシャ、何やってるの……。」
「ええっと、この手のパスワードは簡単にバレるのかなーって。」
 結構新築なマンションにその発言はアブナイのでは。
「入り口を開けるには5ケタの数字でしょ。確立としても10万分の1。とてもじゃないけど、無理だと思うけど。」
 そう言って一般論で攻めてみる。だれもが思う普通の考えだ。
「解析すれば一発でわかるよね。何ケタでも英数字でも。」
「……。」
 結構、酷なことを言う妹に育ってしまったみたいだ。
 そんなことを話しつつ、僕たちは部屋に戻った。

「はい。Royal Warrantの募集の紙」
 そう言って紙を渡す。握ってしまったのか、しわが妙に目立つ。
「ようやくだね。お兄ちゃん。」
 紙を見つつ、サーシャは部屋の電気をつけた。マンションの一室なので窓が少ない。昼でも電気が必須なのである。
 僕もストーブの電源を入れた。ストーブといっても石油は使用禁止なので、核で動くストーブなのだが。
 そんな危なっかしいストーブがピーピー音を出している。
 取り換えのお知らせらしい。
 冬の真っただ中での、こういった核の補充のお知らせは非常にテンションを下げられる。まあ、補充しなくても10分くらいは持つのだが、結局まだ使うので、補充することとなる。
「でも1月1日にやるのは、やっぱりロイワラって感じだよね。」
「まあね。」
 Royal Warrant、通商ロイワラ。僕たち兄弟しか使わない単語。そろそろ広まってもいい頃なのだが……。そのロイワラは普通のギルドとはおかしな点が多いため、名を知る人が多い。
 ギルドの目的は基本は護衛。イベントの整備、契約者の護衛などが通常の仕事である。そして、これはギルドの仕事なのでほぼ100%受け入れるのが普通のギルドである。
 しかし、ロイワラではなかなか仕事を取らない。忙しいわけでもないのだが、仕事を依頼しても、返事がないことがしばしば。けれども請け負った仕事は必ず成功させるらしい。そして、受け入れる仕事もどうでもいいようなことを受け入れる場合もあるので、謎が多いギルドなのである。
 そこに僕たちは、参加したいと思っている。そのために日本に来たようなものだ。
 部屋がもう暖まってきた。やはり火力が違うのだろうか。
 ベッドの上で座って考えてたら、サーシャが後ろに座ってきた。
「お兄ちゃん、髪といてあげる。」
「ありがと」
 男の僕が髪をといてもらうのも、不思議な構図だが、僕は妹の生き写しみたに、かなりそっくりなのである。サーシャと一緒に並ぶと双子の姉妹の完成らしい。前にサーシャがそんなことを言っていたはず。
 僕の背はあまり伸びなかった。両親は背が小さかったが、まさかここまで影響するとはと、遺伝子の素晴らしさに感心しつつ、ちょっと怨んだ。なので、妹と背の高さは変わらない。話をするときには顔が真正面で話しやすい点だけが取り柄だろうか。
 腰まで届くその銀髪をといてもらいながら、僕は話を続ける。
「実践試験があるみたいだけど、大丈夫かなぁ。」
「お兄ちゃんなら大丈夫。とりあえず試験後に生き残ってるとは思うよ。」
「そこまでロイワラがしないから。」
 サーシャは正直冗談で言ってるのかわからない。もしかしたら本当にそうなるのかもしれないから困る。
 案外、実践とか言いながら戦闘はしないのかもしれない。そっちのほうが助かるのがだ。
「でもロイワラに入りたいなぁ。」
 やっぱりサーシャの気持ちも同じである。僕としても一緒に入りたい。というか一緒じゃないと困る。その、話せる仲間がいないと不安なのだ。
 小心者である自分が情けなく感じる。
 サーシャの手の動きが止まったので、後ろを向いた。
 なにか考えさせてしまったのだろうか。
 サーシャにはもう不安はかけたくないと決意してきたのだが。
 何かに気がついたのか、サーシャは目を大きくあけていた。
 僕はそれを受け入れる準備はできた。
 そして口が開く。
「1月1日集合じゃ、今年は年越し蕎麦食べれないね。」
 ここ1カ月でサーシャの脳内は日本文化に独占されているのではないか心配に思ってきたが、決着がついたかもしれない。
 
 恒例の紅白対決を映すテレビを消そうとリモコンを手にする。ちょうど紅組の方だったのか、女の歌手の人が映っていた。
「さて、行こうか。」
「うん。」
 そう返事をしてサーシャが立ち上がったと思ったら、部屋に入って行った。狭いながらも、一応個人の部屋はある。
 そして、毛糸の帽子にマフラー、手袋と寒さに対して完全武装だった。
「はい!お兄ちゃんの分。」
「ありがと」
 そんなサーシャの気遣いを受け入れ、マンションを出発する。必要な書類を持ったか確認し、目的地に向かって歩き出す。
 仮にもこれはギルドの採用試験。
 気が抜けないのだが、なぜか安心感はあった。

 歩くこと30分。魔法の力を使って飛べばすぐ行けるが、この年越しの時間というのは、交通の混雑が空中戦まで拡大している。誰かと一緒に年を越すのは、楽しみの1つなのかもしれない。
 京都の伝統的な和風を無視した西洋建築がそこにあった。入口には、メイド服を着た女性が立っていた。
「あの服……。」
「あぁ、わざとなのかな。」
 そのメイド服には見覚えがあった。
 メイド服に興味があるから記憶にある
 まあ、それなら仕方がない?のかもしれないが、今回のは場合が違う。
「実家のものと一緒だね。」
 そう言うサーシャには、出発する前の元気が見られなかった。
 僕の実家、EUの東に位置したマシュロマー家の豪邸。

 今から7年前の2492年11月11日。
 フィオとサーシャ、この2人以外のマシュロマー家にかかるすべてのものがすべて消滅した。

そんな僕たちを助けてくれたのは、このギルドに所属する「ナナ」さんということだ。
 その感謝をしたい。
 そんな簡単な理由だが、その時に約束もあった。だからその約束も果たしたいのだ。

 気持ちを改め、僕たちは入口へと足を進める。

       

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