部屋の中は広かった。
始めはワンルーム的なのをイメージしていた。正直それで十分である。
しかし、実際はルームではなくハウスだった。
部屋は何個もあるし、キッチンやトイレ、バスルームまである。この部屋から出なくても余裕で生活できるものだった。
とりあえず、リビングまで行ってみる。テーブルにはメッセージ付きの1枚の紙切れが。
フィオ君へ
この部屋はどうぞご自由にどーぞ。何か必要なものがあればフミに言えばなんとかなるとおもうよ。妹さんと一緒いたいとかでもいいよ。しかし、君はもう16なんだからいい加減独り立ちしないと、シスコn
読むのをやめた。
どうせナナさんが書いたのだろう。そんな感じのオーラが紙からあふれ出ている。
妹と一緒にいるのはむしろサーシャのほうからなんだけどなぁ。ま、明日聞いてみるか。
今日はもう眠たい。時計の針は2時をさしている。
お風呂にするか。
浴室がまた部屋の隅で遠かった。
僕はお風呂につかり、今日のことを思いだす。
とりあえずロイワラに入れてよかった。
まずはこれに限る。僕にはやらなければならないことがある。
あの時の復讐。
僕たちの親を奪ったあの事件。
そして、主犯と思われる謎のギルド
そいつらを殺すまでは、僕は死ねない。
そいつらを殺すために、殺す術を得るためにここに入った。
浴室には水滴がポタポタ落ちているが、その音もあの時を思い出す。その場合は、色は赤かったけれど。
あまりそういったことはサーシャがいるときには思いださないようにしていた。僕は感情が顔に出やすく、サーシャはそれに鋭く察してくる。
久しぶりの一人だけの空間は居心地が悪かった。
ちょっと考えすぎたかな。
のぼせる前に浴室からでる。今日は髪も梳くのも面倒だ。
ベッドが置いてある部屋に来たが、すぐにうつ伏せでベッドに顔から埋め込む。ふかふかだ。
気持ち良くて、すぐに眠りについてしまった。久しぶりな感覚だ。こんなに開放された気分になれたのは。
★ ★ ★ ★ ★
「ひろーい。」
これだけ広かったら、お兄ちゃんと一緒にいても十分なくらいだよ。
私はとりあえず送ってもらった荷物を見る。あ、これお兄ちゃんの混じってるよ。お兄ちゃん困ってないかなぁ。
とりあえず、いろんな部屋を見てみた。一周したところで、テーブルの置手紙を見る。
「ふーん。何でもかぁ。」
手紙には、自由に使っていいよ。必要なものがあればフミさんに言って!って書いてあるけど、とくに困らないけどなぁ。
「ま、お風呂♪お風呂♪」
まずはお風呂に入って落ち着こう。お兄ちゃんのところへ行くはそのあとでいいや。
お風呂の中で、ここに来る前のことを思いだす。
お兄ちゃんは何をしたいのかなぁ。
私に、昔のことを思い出させないようにいろいろとがんばっているみたいだけど、あれはお兄ちゃんだけの問題じゃないのに・・・。
本当は、一緒に解決したい。
そのために、私も自分の能力の技能を上げてきた。
私の能力≪幾何処理≫はつまりパソコンみたいな物。でも最初はパソコンとは比較できないほど使えないものだった。せいぜい、電卓レベル。
そんなのもは私がいなくても変わらない。この能力の嫌なところはどうやって使えばいいかがまったくの未知数なとろこ。うまく使えば、電算処理して神と同等になれるとか書いてある専門書もあった。
でもそれは、あくまでも物理法則を守った上での現象しか起こせないわけであり、希望は少ない。
こんな能力になぜしたのか。
私は両親を恨む。
お兄ちゃんには悪いかもしれないけど、本当の気持ちはそうだった。
確かに助けてあげたかった。でも、少しでも死んでくれてよかったともってしまった自分がいた。
それがお兄ちゃんに知られるのが怖くて怖くて記憶をデータとして扱うようにした。
私は人間であるが、能力うえに人をやめてしまっている。パソコンと同じ、人型でいったらロボットなようなものか。
それで、その記憶は心の奥底に封印した。絶対に口からはでない。
私は両親に関して、本当の真実を知りたい。恨むなかでもわずかな希望でも願ってるのかもしれない。
「深く考えすぎたかも・・・。」
お兄ちゃんのところに行く予定だったが、急に眠たさに襲われた。
今日は、もう会わなくてもいいかな。
と、自分で判断。もう寝る!
思ったら即行動。私は髪を乾かし、眠りについた。
★ ★ ★ ★ ★
「普通ね。」
そう言って。蘭子は部屋に入る。マシュロマーの兄妹と同じ部屋構成ではないみたいだ。無駄に部屋がない分、こちらの方がいいのかもしれない。
私は今日の出来事を思い出す。それだけで、壁にもたれかかってしまう。
ナナとかいう人の圧倒的な力量差。
見た瞬間わかった、格の違い。
その恐怖に耐えるだけで精一杯だった。
他の人たちは何も気にしないでいたが、どう考えても普通じゃない。
私の入隊目的は恐怖心の克服。
この世で魔法というものの存在が表れたのは、人々にとっては歴史上の起死回生になるのかもしれないけど、私にはまさに地獄の代物だった。
これのせいで、世の中は力がすべてになった。
昔は学歴を重視する社会もあったそうだ。私はそんな夢の世界がうらやましい。今では学問など化石扱い。
2300年。人類は学問の終点に到着した。つまり学ぶことがなくそれが人がなせる技術の完全体であり、夢の終焉、永遠の普遍の始まりだった。
そこからは、もう完全に学ぶことなど必要にならない世界となった。私みたいに、学ぶことが好きでもなんの役にも立たない。
小学校、中学校・・・。学ぶという字を含むのであればそれを行動で示してほしいものだ。私がそこで学ぶものなどなかった。あるとすれば能力開発。ただの軍隊と同じだ。
人のパラメータは振り分け制だと思う。私は学ぶことに費やした分、能力が弱い。それは、いじめの対象には良好だ。弱肉強食。それがこの世界の原理。そう作り変えられたのだ。
なのに、私はあの広告に惹かれた。強さが全てのこの世の中、私は不要物だと思っていた。それでも、希望を抱いてしまった。
その私の最後の希望にかけてみたい。それなら、許してくれるだろう。
そんなものでも懸けてみたかった。
★ ★ ★ ★ ★
「・・・。」
愛に用意された部屋はワンフロアでシンプルだった。それでも一般的には十分あったが、金持ちには不満なのだろう。
しかし、そんな部屋構成よりもさっきから頭のなかで残る言葉。
『君を殺す』
今まで、そんなこと言うやつなんか見たことなかった。あってもその場でこちらから殺す。私には死は無縁だとおもった。初めて感じる、その恐怖。そして自分の発言にどれだけの意味があったのか。
その意味に心が押しつぶされて、吐き気に襲われる。
私は、これからどうしたらいいのか。確かに、あの総長に言われた通り帰る場もない。あの家に帰るのはもう御免だ。だったら、いっそここに残る。やつを殺せる時になれば殺してやればいい。そうしていいと、向こう側から言っているのだから。
「フッ・・・。」
思わず不敵な笑みがこぼれた。まだやることがあるじゃない。
これからのこと、自分の目的、それらを見つめなおし、明日を楽しみに待つ。それがうれしくてたまらなかった。
★ ★ ★ ★ ★
「フミ」
「どうしました。ナナ様?」
先ほどまで、一応試験会場となっていた場には、2人がいた。小さな金髪の少女と、すらっとした容姿の黒髪の女性。2人はあまりに対象すぎて、
天使と悪魔
その言葉の組み合わせが相応しかった。
「これで、人数はいくらになった?」
「計10人。規定はクリアしております。」
ギルドの規定は10人以上。ロイワラは正式には10人いなくても続行可能なのであるが・・・。
「なるほどね。一応予定通りか。では――。」
静寂のなか、笑みを浮かべて告げる。
「私にもう一度の権利を与えてくれた神に感謝を。そして後悔を。こんな私の腐った人生にコンテニューを与えてくれるのなら、もちろんやらせてもらうよ。私のRPGを始めさせてもらう。」
その発言の横で、フミは表情を変えずにそのまま居続ける。
「主人公は、世界を救うのではなく、統一するのだからな。」