Neetel Inside ニートノベル
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「とりあえず仕事の一つでもやってもらうか」
 昼食時、総長から突然その言葉が出る。
「仕事というのは何ですか?」
 入隊前に聞いていなかったので、すかさず質問する。実際、このギルドは非合法で成立している以上、ちゃんとした仕事を受け持つのかどうかが不明確だった。
「何って、もちろん人助け。ロイワラは世間的には普通のギルドと同様、政府から仕事をもらい、施行し、報酬をもらう」
「でも、これからその政府を相手にするのに、そんなことしてていいんですか?バレるとかいうのはないのですか?」
「そんなことはとっくに向こう側も知ってるでしょう。飼い主よりも権威が上なペットがいれば、そんなの目をつけられているに決まっている。政府もそれなりの対策をしてくるはず」
 ナナさんはグラスに注がれたお茶を手に取る。容姿に合わず、随分と和食よりなんだと再認識。
「総長はどう予測しているのですか?」
 僕の隣の蘭子さんも尋ねる。これからの未来のことだ。聞きたくなるのも仕方がない。
「私の予想では、少しでも政府に手を出した瞬間、全員抹殺命令が下るだろう。向こうはそれだけ力に自信を持っている。実際に、☆☆☆ランクの奴が10人手ごまにある時点でそれは実現可能となる。もしかしたらそれ以上の奴がいるのかもしれない」
 場に沈黙。最初の部分は理解できたが、後半部分が謎だ。☆☆☆以上の強さを誇るというのはどういうことなのか。つまりナナさんみたいな存在がいるのだというのか。
「だけど、この1か月でそれを打破する力を君たちにつけてもらう。そして真向勝負だ。その時に約束してほしいことが1点、絶対に死なないように。ロイワラは家族みたいなものだから、だれ一人掛けないように。もちろんこの次の目的遂行のためでもあるけど」



 昼以降は、自身の力を伸ばす練習が始まった。
 僕の場合は、蓋然収斂の能力をどううまく使えばいいのかを考えることと、n時間と使用する武器「夢幻銃」との相性を良くしろというものだった。
 蓋然収斂は確率の増減。相手の攻撃をよけるとか、明日の天気が晴れになりやすくするとかいうのはできない。自身が干渉するもの、ロイワラに入る時に受けたトランプを選択するときや、おみくじで大吉を引くというレベルだ。銃が当たる確率でも上がればいいのだが、これも相手が干渉するので効いてくれない。随分と名前負けな能力だ。
 n時間。これは時間操作だ。加速も遅延もできる。銃で連射ができない場合でも、時間を加速させて連射として扱うこともできる。こっちの方が非常に実践的だ。
 そして「自身の能力を過信すぎるな」ということ。僕は今までn時間を使用すれば、だれも僕の世界には入ってこられない。そう思ってた。だけど、今朝の実戦でそれは打ち破られた。今では、それは恐怖だった。自分の打つ手がなくなって相手に翻弄されるまま。何もできずに負ける。そして死ぬ。もしそうなった時のシチュエーションが頭によぎり、胃が痛む。
 この衣装も戦闘上ではかなり不便だった。ナナさんからもらった衣装。フリルが多くて見た目以上に重かった。そしてスカートになってるからそっちに気がいってしまって集中できない。だけどこの服のおかげか、夢幻銃の使用回数が大幅に増えている。
 とりあえず、フミさんい相手をしてもらっている。確実に銃を充てることができるように撃つ。とにかく撃つ。実戦あるのみと総長命令なのでそれに従い、僕は日が暮れるまで撃ち続けた。


 ★ ★ ★ ★ ★

 私はお兄ちゃんと一緒に練習できるかなぁ―――と思てたけど、結局むりだった。これも仕方ないなとすぐ切り捨てて、練習内容を確認。
 内容は単純で、ロイワラの情報室を管理できるようにしろ。ってことらしいけど、どういうことなんだろ。
 まずはその情報室というとこに行ってみる。
 扉を開けると、パソコン独特の臭いがこもった部屋。私はこういうのは好きなんだけどなぁ。
 中央のパソコンが電源が入っていたので、のぞいてみる。えーとなになにっと―――
 そこにはこう記されていた。

サーシャ君へ

 君の練習は特別なので、相手はこのパソコンとやってもらう。言っておくけど、パソコンを頭の内部にもっているような君と比較したら、このパソコンは断然処理が早い。そこで、君の課題は↓の2点
・電算処理をこれよりも早く行う。君は携帯でという制限付き。
・ここの部屋にあるパソコンをジャックするように
ということだ。システムはフミが考案している。今までこれができたのは考案したフミのみ。それ以外のやつらは頭脳が処理に耐えられない、もしくはこのパソコンに洗脳されて終了、そんな結果だ。
 では検討を祈るよ―――。君ならできる。なんせ私が認めたメンバーなのだからな。

ナナより

ということらしい。
 テキストの画面を閉じると黒い画面の部分があり、そこには「Ready?」と表示されていた。
 ポケットからいつもの携帯を取り出す。お兄ちゃんが誕生日とかで買ってくれた携帯。もう3年経つけど大事な宝物。2つ折りという古典的だけど、とても気に入っている。
 画面を開く。私とお兄ちゃんとのツーショット。買った時の写真で3年前だが、2人とも容姿が変わってないのを見ると笑顔がこぼれる。そしてパソコンにその携帯を向ける。
「上等!私よりも上をいくパソコンはこれまで何台もつぶしてきた。そしてあなたもその一つにしてあげる!」
 目を閉じ、携帯の決定を押す。
 頭の中で電算の海が広がる。そして飛び込み、長い長い旅行が始まる。


 ★ ★ ★ ★ ★


「これはどういうことなんでしょうか?」
 私の問いかけを聞く目の前の2人。ロイワラの戦闘係である、神崎さんと柏尾さん。
 私の練習相手はこのJと10の人たちだった。
 マンツーマンの方が、こういったものは効率がいいのではないのかと思う。もしくは私のように教えてもらう方を人数を増やすのが普通だ。
「どういうことって、まぁそういうことさ!」
 柏尾さんはそう答えてくれるが、答えになっていない。
 あきらめて、神崎さんのほうに目を合わせる。
 それに気づいてくれたのか、丁寧に答えてくれた。
「これは総長命令なので、詳しくは私も理解できていないのだが。大まかに言うとすれば、君は知識は豊富。その点は私としても関心あるところだ。だが―――――」
 口が閉じる。その先が気になって仕方がない。
「君はその知識が戦闘には無縁とは思っているんじゃないのかな?」
 図星だった。この短期間でそこまで見透かされていると思うと、あの総長には感心する。あんな子供体系で正直、半信半疑であったけど、それはもうなしだ。
「朝の練習の時でもそうだ。あの時、新人組の指揮をとっていたのはおそらくフィオ君だろう。あれには私も驚いた。あの状況であれだけ率先して行動できる人はあまり見かけないからね。でも答えは×だった。結果として1分もつのが限界だった。それでも君たちは優秀なほうだったけど」
「つまりらんちゃんは、戦闘でその頭を使って指揮をとれと言うことだ。はい!説明終わり終わり。さよならさよならー」
「慎次、お前はちょっと黙ってろ。まあ、ようは慎次の言っていることで間違いない。そして、このポジションは言うまでもなくあれだ」
 あれとはなんだろうか。なにか問題となる部分なのだろうか。
「指揮は主役にはなれない。相手を倒すのも他人が行う。見方が苦しんでいるのも助けることができない。自分の意思をつぶすポジションだ。それでもいいというのなら、この役目を与えるそうだ」
 目を閉じて考える。
 主役という役目
 私には贅沢ものだ。ここにはあんな偉才な兄妹がいる。私の出番はおそらくないだろう。
 ただ、私も活躍したかった。自分が活躍できる場を欲しているのだ。
 指揮をとる。それで本当にいいのだろうか。
 力がない私に、それが許されるのだろうか。
 深く考える。
 でも、その答えはもう心中にあったのかもしれない。
「やります!私が指揮としてここを動かして見せます。私の唯一の優れた部分、学才。知識は無能であるこの世界を変える可能性があるのなら」
「上等上等。ではこれかららんちゃんは、俺たち狛犬の指揮もとるということで」
「え、どういうことですか?私が担当するのは、新人4人をまとめる係。そういうのじゃないのですか?」
 私の想像とはちょっと離れていた。あくまで、ロイワラの先輩は含んでいないものだと思っていた。
「いや、君にはこのロイワラ全体を指揮してもらうよう教育するように言われている。これは総長命令だ。私もそれにはむかうことはできない」
「ほいほい、ではでは蘭子指揮官、ご命令を」
 私の役目は大きかった。
 この犬猿の仲の間柄をどのように扱えばいいのか
 そして、先輩を扱うという曲面に早くもくじけそうだった。
 経験あるのみなのかもしれないが、その言葉に不審を抱くようになってしまったかもしれない。
 こんなもの。
 ただ、この面倒な2人組を預からされたに決まっている。


 ★ ★ ★ ★ ★


「まさか総長からご指導いただけるとは」
 少し嫌味を込めて私は言う。
 前日での発言もあるだろう。その仕返しでもするために、あえて私とマンツーマンにしたのだろう。
「ちょうど、啓蟄と白露は仕事に行かせているのでね。なんでも、超大物の護衛だとか。私は興味ないのだがね。それで、残ったのは私だけというわけだ。妥当だろ」
 勝ち誇った姿勢で、話を進めてきた。
「それで、私の練習はなんでしょうか?」
「私を殺すことだよ」
 そう話しながら頭に手でピストルの形を作り、人差し指は目の横に位置している。
「しかし、私は圧倒的な戦力不足。そんなの無理に決まっている。どうせ何もできずに終わるだけ」
「そんなことはないさ」
 目の前に無造作に日本刀が一本投げ出される。地面に当たり、少し回ってその場にとどまる。
「君の練習は私を殺すこと。そういったはずだ。私はこれから何もしない。君に背中を向けて立っている。時間は10分あげよう。ではスタートだ。好きなように切ればいい」
 そういって背を向ける総長。それ以降何も話さない。
 私は目の前の刀をとる。銀色に輝くその身は、鋭さが視覚から伝わってくる。その先端を背に向ける。
 まさかこんなすぐになるとは。
 私の中では勝ち誇っていた。
 あの夜の中で考えたこと。それは不意打ち。
 私のように圧倒的に戦力に欠けるものはその他の点で勝らなければ太刀打ちできない。その勝てる要素としての一つが隙を作らせること。
 これは総長と1対1でなければほぼ不可能だ。他の人たちは完全にあの総長の配下であり、いざとなれば敵になる。そして、ある程度親密になり気を許すところまで来て切る。そういうつもりだった。
 だけど、目の前にはその過程をとばした絶好のチャンスがそこにある。そしてこれは罠と見るのが普通。殺気が感じられるとか、そんなのは私には分からない。だから、与えられたチャンスは全て使う。
 刀を握る。構える。あとは振り切るだけ。
 そんなあとワンステップで完了するのに、手が震えてできなかった。
「どうした?散々殺すとか言っておきながら、まさかできないとでも」
 おそらく挑発だろう。怒りに身を任せれば切れるだろうか?
 もう一度、構えを直す。
 刃を相手に向ける。
 もう何も考えない。
 振り切るだけ

 そして―――――

 振り切る。





 目をつぶっていたからわからない。
 そっと目を開ける。光が入ってくる。
 そこには、いつもと何も変わらない姿がある。
 結局、私は何もできなかった。

「さて、これで君に足りないものは何か分かったかな?」
 ここまでシナリオ通りのような満足そうな顔で訪ねてくる。私はその通りに進められてしまったことに苛立ちを覚えたが。
「『死』に対する認識ですか?」
「まあそんなところかな」
 そう言って歩き始めた。どこかへ行くつもりだろうか。
 立ち止まって、こちらへ向く。
「君はまだ正式に入隊したわけじゃないでしょ。だから―――」
 また半回転。背中しか見えない。
「これからちゃんと手続きするんだよ」
 そう言って洋館の中に入っていた。
 この気持ちはなんだろうか。
 悔しいのだろうか。
 私はいつも有言実行。言ったことは全て成し遂げるつもりでいた。たとえ、人の命がかかわろうが関係なかった。
 だけど、そこには直接私が人を殺めることはなかった。必ず間接的に人を殺し、その仲介役はお金だった。
 結局、私も口だけの人間だったのかもしれない。
 そんな自分がはずかしかった。
 その状態で、家に帰ったらお父様もお怒りだろう。
 家にいても道具として扱われ、いないと捕獲。そして家へ。
 これ以上、私から自由を奪わないでくれ。ただそれだけが唯一の望み。それを叶えるためには―――――相手を殺せばいい。
 自分の手で殺すことができない以上、完全に詰まっている。
 そこでハッっとなる。
 あの総長はもう気づいているんじゃないのか。
 だからこのようなことをしたんじゃないのか。
 このなんともわからない気持ちはなんと表現すればいいのか。
 加越能 愛 14歳。やはりまだまだ子供なのかもしれない。悔しいけど、うれしい。初めての気持ち。
 そして、私は決心する。
 ここなら、この腐った世界の仕組みを変えてくれるのではないのかと。
 みんなが平和で誰一人苦しまない世界。
 そして、悪の概念がなくなることを。
 その意気込みが、洋館までの足取りを軽くしてくれた。

       

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Neetsha