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Royal Warrant
Epilogue

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Epilogue

 世の中は金がすべてである。

 そんなことは、暗黙の了解ではなく、もはや親から教えられる慣習となっていた。そんな世界になってしまったのだ。
 そう、お金はすべてを支配する。
 何かを得るためには、その対価となるものが必要である。そして、人間はその物々交換の上で利便上お金を作り出した。
 自販機にお金を入れればカンはでてくる。
 切符を買えば電車に乗れる。
 一般人にはこの程度のレベルなのだろうが、金持ちは違うのである。そう、お金ですべてが買える世の中であるのだ。
 権力、武力、労働力。形なきものでもそろえてしまえるのだ。
 だから、人は金にひかれるのかもしれない。

 しかし、そのお金を支配する存在がある。
 それは力だ。それも個人でもつ力、'魔力'によって。
 2100年。人類は宇宙への航海で、月の内部に存在するエネルギーの存在を発見した。光輝く鉱石が月には埋まっており、それは核の力がどうでもよくなるほどだった。
 幸い、熱を発生させるには効率が悪く、軍事利用はなかった。利用価値が見いだせなかったが、エネルギーの形の変化の自由度は高く、人の意志で変えれるほどであった。これが後の魔法の形となる。
 そして、その力を手にした人は、弱者を襲うようになった。
 忌まわしき第二次世界大戦から約550年。人は変われないのかもしれない。支配することは本能なのだから。

 金を持つのであれば、奪えばよい。力がすべてを勝るのだから、そんなことは力があるなら子供でもできた。
 それに対して、金持ちは護衛を雇う。それが賢明な判断であり、金持ちに護衛はつきものだ。
 その雇用を選ぶことができるのが、力の集団「ギルド」である。ギルドは雇ってもらわないと仕事にならない。護衛を雇うようになって登場するようなった、今時の仕事というものか。

 そして、僕はとあるギルドの入口に立っていた。このあたりの高層住宅が並ぶなかでは異質を放つ存在で、西洋建築の造りである。その外壁には張り紙が貼られていた。
 結構堅苦しい文だと思いつつ、その文字を目で追った。


 西暦2499年13月30日
 
     ギルド Royal Warrant の追加募集について

                     Royal Warrant
                         

 新年を迎える忙しい時期の中、失礼いたします。来年4月に行われるギルド行政法改正にともなって、ギルドメンバーの追加募集をすることとなりました。以下、詳細な日時です。

1、集合日時
 2500年1月1日 00:00
2、場所
 ギルド Royal Warrant 入口
3、募集人数
 最大8名。うち4名は最低でも採用
4、内容
 ・実戦
 ・面接

 カレンダーは13か月で1年だ。1~12月は28日、13月は29日か30日のどちらかである。つまり今日は大晦日。
 今日というこの日をずっと待ち続けたのである。ギルドへ入るのは、なりたい職業でも上位に分類するもので、よくあることだ。
 だが、僕はこのギルドにはいりたいのである。
 いや、このギルドしか入りたくない。
 そんな思い入れがあるのである。

 自分の未来を見つけるためにも                    

     

 左手に紙を持ちながら、僕は背の高い構造物の並ぶ町へ足を進めた。さすがに年末年始となると寒さが厳しい。コートを羽織っていても、寒い気持ちはなくならなかった。

 皇帝の町 京都

 2100年くらいまでは、日本は東京が中心地となっていたようだ。しかし、人間の発明による発展による犠牲は大きかった。
「東京では息を止めなければならない。」
 そんな言葉がよく言われる。息を止めたら死ぬのは誰だってわかる。つまり東京へ行くのは宇宙旅行への序章なのである。生身の人間では不可能の境地にまで到達した東京は、人々の記憶から離れていったのだ。
 そして、都は京都に移された。それまでにも政冶のしくみが大きく変わった。平和の象徴とされた民主主義は、その結末ゆえにに消滅した。一言で言うと、日本は変わらなかった。もしくは悪化したらしい。
 政治は帝国主義になった。
 といっても、完全なる絶対王政でもない。人々の平和は守られているのは変わりない。
 つまり、一番知恵のあるものを王とした。その結果が悪ければすぐにやめさせることも可能である。一種の政治ショーになっているのかもしれないが、結果としては、これが一番安定した。

 以上、短期間で知った、日本の現状。実にどうでもよかったが……。

 安定を目指しつつも、王がころころと変わる不安定な町にフィオは住んでいる。といっても住み始めてまだ1カ月。しかも妹付き。
 今日は13月30日。俗にゆう大晦日だ。大掃除は大晦日の日にはしないものなので、閑静な住宅街となっている。
「お兄ちゃん!お帰り!」
 元気よく挨拶してくれるのは、だれでもうれしいが、ここはまだマンションの入り口。セキュリティーの為のボタンを眺めているのは少々不安だが。
「サーシャ、何やってるの……。」
「ええっと、この手のパスワードは簡単にバレるのかなーって。」
 結構新築なマンションにその発言はアブナイのでは。
「入り口を開けるには5ケタの数字でしょ。確立としても10万分の1。とてもじゃないけど、無理だと思うけど。」
 そう言って一般論で攻めてみる。だれもが思う普通の考えだ。
「解析すれば一発でわかるよね。何ケタでも英数字でも。」
「……。」
 結構、酷なことを言う妹に育ってしまったみたいだ。
 そんなことを話しつつ、僕たちは部屋に戻った。

「はい。Royal Warrantの募集の紙」
 そう言って紙を渡す。握ってしまったのか、しわが妙に目立つ。
「ようやくだね。お兄ちゃん。」
 紙を見つつ、サーシャは部屋の電気をつけた。マンションの一室なので窓が少ない。昼でも電気が必須なのである。
 僕もストーブの電源を入れた。ストーブといっても石油は使用禁止なので、核で動くストーブなのだが。
 そんな危なっかしいストーブがピーピー音を出している。
 取り換えのお知らせらしい。
 冬の真っただ中での、こういった核の補充のお知らせは非常にテンションを下げられる。まあ、補充しなくても10分くらいは持つのだが、結局まだ使うので、補充することとなる。
「でも1月1日にやるのは、やっぱりロイワラって感じだよね。」
「まあね。」
 Royal Warrant、通商ロイワラ。僕たち兄弟しか使わない単語。そろそろ広まってもいい頃なのだが……。そのロイワラは普通のギルドとはおかしな点が多いため、名を知る人が多い。
 ギルドの目的は基本は護衛。イベントの整備、契約者の護衛などが通常の仕事である。そして、これはギルドの仕事なのでほぼ100%受け入れるのが普通のギルドである。
 しかし、ロイワラではなかなか仕事を取らない。忙しいわけでもないのだが、仕事を依頼しても、返事がないことがしばしば。けれども請け負った仕事は必ず成功させるらしい。そして、受け入れる仕事もどうでもいいようなことを受け入れる場合もあるので、謎が多いギルドなのである。
 そこに僕たちは、参加したいと思っている。そのために日本に来たようなものだ。
 部屋がもう暖まってきた。やはり火力が違うのだろうか。
 ベッドの上で座って考えてたら、サーシャが後ろに座ってきた。
「お兄ちゃん、髪といてあげる。」
「ありがと」
 男の僕が髪をといてもらうのも、不思議な構図だが、僕は妹の生き写しみたに、かなりそっくりなのである。サーシャと一緒に並ぶと双子の姉妹の完成らしい。前にサーシャがそんなことを言っていたはず。
 僕の背はあまり伸びなかった。両親は背が小さかったが、まさかここまで影響するとはと、遺伝子の素晴らしさに感心しつつ、ちょっと怨んだ。なので、妹と背の高さは変わらない。話をするときには顔が真正面で話しやすい点だけが取り柄だろうか。
 腰まで届くその銀髪をといてもらいながら、僕は話を続ける。
「実践試験があるみたいだけど、大丈夫かなぁ。」
「お兄ちゃんなら大丈夫。とりあえず試験後に生き残ってるとは思うよ。」
「そこまでロイワラがしないから。」
 サーシャは正直冗談で言ってるのかわからない。もしかしたら本当にそうなるのかもしれないから困る。
 案外、実践とか言いながら戦闘はしないのかもしれない。そっちのほうが助かるのがだ。
「でもロイワラに入りたいなぁ。」
 やっぱりサーシャの気持ちも同じである。僕としても一緒に入りたい。というか一緒じゃないと困る。その、話せる仲間がいないと不安なのだ。
 小心者である自分が情けなく感じる。
 サーシャの手の動きが止まったので、後ろを向いた。
 なにか考えさせてしまったのだろうか。
 サーシャにはもう不安はかけたくないと決意してきたのだが。
 何かに気がついたのか、サーシャは目を大きくあけていた。
 僕はそれを受け入れる準備はできた。
 そして口が開く。
「1月1日集合じゃ、今年は年越し蕎麦食べれないね。」
 ここ1カ月でサーシャの脳内は日本文化に独占されているのではないか心配に思ってきたが、決着がついたかもしれない。
 
 恒例の紅白対決を映すテレビを消そうとリモコンを手にする。ちょうど紅組の方だったのか、女の歌手の人が映っていた。
「さて、行こうか。」
「うん。」
 そう返事をしてサーシャが立ち上がったと思ったら、部屋に入って行った。狭いながらも、一応個人の部屋はある。
 そして、毛糸の帽子にマフラー、手袋と寒さに対して完全武装だった。
「はい!お兄ちゃんの分。」
「ありがと」
 そんなサーシャの気遣いを受け入れ、マンションを出発する。必要な書類を持ったか確認し、目的地に向かって歩き出す。
 仮にもこれはギルドの採用試験。
 気が抜けないのだが、なぜか安心感はあった。

 歩くこと30分。魔法の力を使って飛べばすぐ行けるが、この年越しの時間というのは、交通の混雑が空中戦まで拡大している。誰かと一緒に年を越すのは、楽しみの1つなのかもしれない。
 京都の伝統的な和風を無視した西洋建築がそこにあった。入口には、メイド服を着た女性が立っていた。
「あの服……。」
「あぁ、わざとなのかな。」
 そのメイド服には見覚えがあった。
 メイド服に興味があるから記憶にある
 まあ、それなら仕方がない?のかもしれないが、今回のは場合が違う。
「実家のものと一緒だね。」
 そう言うサーシャには、出発する前の元気が見られなかった。
 僕の実家、EUの東に位置したマシュロマー家の豪邸。

 今から7年前の2492年11月11日。
 フィオとサーシャ、この2人以外のマシュロマー家にかかるすべてのものがすべて消滅した。

そんな僕たちを助けてくれたのは、このギルドに所属する「ナナ」さんということだ。
 その感謝をしたい。
 そんな簡単な理由だが、その時に約束もあった。だからその約束も果たしたいのだ。

 気持ちを改め、僕たちは入口へと足を進める。

     

 冬の寒さを示すように、空の星の輝きがいつもより増して見える。
 僕は時刻を確認するために、左ポケットに入れた携帯電話を取り出す。寒さで手がかじかんでいたせいか、危うく落としそうだった。
「11:50か」
 よく5分前集合とか教えられてきたが、あれは約束の時間に現地で準備万端であるために必要なわけで、僕たちの場合はその準備がない。といっても早いに越したことはないので、入口まで足を進める。
 そこで覚えのあるメイド姿で掃除をする女の人がいた。それにしても年越し寸前に掃除って……。
 僕はさっそく声をかけた。
「すみません、ギルドメンバー募集の要綱をみて参加しに来たのですが…」「はい。あなた方は……マシュロマー家様の息子様方でしたね。お久しぶりです。」
「覚えていただきありがとうございます。」
「では、こちらにどうぞ。」
 そう言って、応接室まで案内してくれた。そこまでまっすぐで行けたが、やっぱり部屋の中の装飾が西洋チックである。僕たちにはなじみのある分、案外落ち着けた。
 この方は確かフミさんだったはず。この方もナナさんの補佐として、一緒に助けてくれた。
「ナナ様、ギルドに入隊希望の方々をお連れしました。」
「ありがとう、フミ。どうぞ入ってください。」
 ドアの向こう側から、聞き覚えのある声がそう告げる。
「失礼します。」
「失礼しまーす。」
 僕はその優しい声からは、プレッシャーも感じていたのにもかかわらず、サーシャは気分がよさそうだ。さっきまではあんなに元気がなかったのが嘘のようだ。
 そこには小柄な少女が立っていた。僕たちよりもさらに低い身長で、フリルの目立つ黒のドレス、まさに人形のような容姿はあの7年前にあったナナさんを思い出させる。さらに特徴的なのは漆黒の首輪をつけていることだろうか。
 僕は入口で立ち止まってしまった。
 その彼女の姿が一瞬、7年前の事件を鮮明に思い出させてくる。
 恐怖とともに。
 だがサーシャが後ろから押してくれた。
 僕にはサーシャがいるんだ。そしてこんなことでひるんではいられない。
 自分の背を押すものは、たくさんある。
「お久しぶり、マシュロマー家の息子さんたち。」
「お久しぶりです。その……ナナさんであってますよね?」
 すごい失礼なことを聞いているが、確信できなかったのかつい聞いてしまった。
「ふふっ、そうですよ。7年前に君たちを救ったそのナナ本人です。」
 そんな恥知らずな質問にちゃんと答えてくれた。
「それよりも、ちゃんと約束を覚えててくれたんですね。」
「はい。もちろんです。」
「うん。私も今日のこの日をずっと楽しみにしてました。久しぶりにナナさんとあえて、とっても嬉しいです。」
 僕の返事の後にサーシャが唐突に話し始めた。やはり知っているというだけで話しやすいのだろうか。たとえ命の恩人だとしても。
「そう。それはありがとう。」
 非常に丁寧に返事をしてもらっているが、一応就職先の人である。こんな態度でいいのだろうか。
 そんな知り合いの家にいるような雰囲気のなか、鐘の音が鳴る。
 ゴーーンという深い響きを期待したがそうではなかった。
 むしろ結婚式でなるような高い音だった。しかも1度のみ。
 その空気の読めない音の先は、隣の塔からだった。きっとここもロイワラのものだろう。
「今ので00:00。募集終了だな。フミ、結局何人募集が来たんだ?」
「フィオさんと、サーシャさん、先ほど来られた方を含めて3名です。」
「うーん、困ったなぁ……。」
 そう、これはギルド法改正の為に行っているから合計10名必要。
 ロイワラでは
 
 現在6名
 募集3名
 
 つまりあと1人必要なのである。
「まったく、あの奴め。なんで10名という数に……。」
 困り顔がちょっとかわいかったが、まあここは黙っておこう。
「とりあえず、今いる3人の試験を今から行います。とりあえずダイニングに招待してあげて。」
「「ダイニング?」」
 予想外の場所にサーシャとセリフが完全に一致。しかしなぜ……。
「とりあえず、面接試験から。個別じゃないから二人同時だよ。」
 そして、そのダイニングへ連れて行かれる。
 そこにはすでに誰か座っていた。
 スーツ姿の女の人がそこで緊張して待っていた。髪はショートでヘアピンでとめてある。面接の挑む人は普通こうだ。
 そこに、常識無視の僕らが登場。
 お互いを見て、沈黙タイム。
 そしてこの沈黙を破ったのは相手側だった。立ち上がってこちらへ向かってきた。
「あっ……あの、私は鷲見 蘭子(すみ らんこ)と申します。えっと、あなた方も、ここを?」
「はい。僕たちの3人が受験者らしいです。僕はフィオ・W・マシュロマーで、こっちが妹のサーシャ・W・マシュロマーです。」
「私が妹のサーシャです。よろしくね!」
 お互いの自己紹介が終わると、ナナさんが何か持ってやってきた。
「ではそこのソファーに座ってください。これから面接試験を開始します」
 3人そろってソファーに座る。左からサーシャ、フィオ、蘭子の順。女男女。嫐。
 もしかして、蘭子さんは僕を男と見てないのでは……。それとも、そんなに意識しないのだろうか。
「フミ。3人に紅茶を。」
「かしこまりした」
 大きなガラスのテーブルを挟んで向こう側のソファーに、ナナさんが座る。「では改めまして、Royal Warrant 総長、姫女苑 那奈(ひめじょおん なな)と申します。これから面接試験、といっても実践もかねていますが。」「!?」
 ある程度予想はしていたが、やはりナナさんが総長であった。
 総長という風格は見えないのだけど、信用できる。理想とまでは行かないが、僕の望む総長であったのはうれしかった。
「では総長、いまから何をするのですか?」
 サーシャが慣れしたんだように話しかけている。もうちょっと自重できないのかと思うのだが、ここでは正解なのかもしれない。
 その回答として、那奈さんは机の上に四角い物を置いた。
「トランプ?」
 今度は蘭子さんが疑問を抱く。確かに、これから遊ぼうというのだろうか
「今から、私とポーカーをしてもらいます。合計3回。このゲーム間であなた方の潜在能力を見させてもらいます。」
 そう言って、テーブルの上に一枚ずつ並べていく。神経衰弱を始める準備と同じだ。同時に紅茶もいただいた。
「テーブルの上に今52枚のカードを置きました。今から1人ずつカードを1枚持っていくのを5回行って手札を作ります。その5枚で勝負してください。通常のポーカーのように取り換えはできないのであしからず。」
 目の前には13×4で置かれたトランプ。自分にはカードが透けて見えるとか、そんな力はないので適当に選ぶ。
 サーシャも腕を組み、ちょっと考えたみたいだが結局適当に。
 蘭子さんは結構考えてとっていた。なにか見えるのだろうか。
 みんなが取り終えたあと、ナナさんが目の前の5枚を一気にとった。
「では、私は2のスリーカードで勝負です!」
 まだカードを見てないのに勝負宣言するナナさん。すごい人だとは思っていたけど、まさかここまでとは。
 宣言通りのスリーカードに対して、みんなの手はこうだ。

 一回戦
 フィオ:ダイヤの34567のストレートフラッシュ
 サーシャ:ダイヤの2、スペードの3と7、クローバーのJとKでなし
 蘭子:スペード以外のQが3枚とJとKでスリーカード

 僕の手札に蘭子さんは、かなり驚いたのか顔が固まっていた。
 いきなりストレートフラッシュが出るのは疑うのが正しい。だが、これが僕の才能といえる部分なのかもしれない。

 確率の支配

 よく伝奇な話にでる悪魔とかは、この能力を持っている。自分は確率の支配とまではいかないが、自身の運がずば抜けているのは、17年間の生活で十分把握した。
 だから、この勝負では負ける気はしない。
「さすがですね、フィオ君。そして、蘭子さんも。」
 ナナさんは蘭子さんの才能に気がついたのかもしれない。
 そして妹はこの結果である。
「お兄ちゃん、私の運持って行かないでよ!」
「いや、そんなことできないから!」
 なぜか抗議されるハメに。
「あのぅ・・・。」
 蘭子さんが尋ねてくる。
「フィオさんって、男なんですか?」
 やっぱりさっきの答えは蘭子さんの勘違いだった。
「はい、僕は男ですよ。」
 その答えを聞いて、蘭子さんは固まった。この人、フリーズしてるけど、大丈夫なのだろうか。
 そのまま2回戦、3回戦と続いたが結果は見えていた。なぜか、ナナさんはスリーカード以外出さないという、人外技であったが。でもそれは人のことは言えないかもしれない。

 二回戦
 フィオ:10が4枚とスペードの7でフォーカード
 サーシャ:ダイヤのJ、ハートの5と、スペードの2とJとKでワンペア
 蘭子:ハートの237QKのフラッシュ

三回戦
 フィオ:ハートの10JQKAのロイヤルストレートフラッシュ
 サーシャ:クローバーの7、ハートの2と3と5、ダイヤのKでなし
 蘭子:ハート以外のKとハートとクローバーの9のフルハウス

 僕はまあ、勝てることは想定内だったが、蘭子さんも確実に高い攻めてである。役が僕のより低いにはわざと下げているのだろうか……。
 そして、サーシャは何もできず。
「うーん。やっぱり難しいなぁ。」
 そうサーシャが言っているが、これは難しいとかいう話ではない。明らかに才能や能力の差である。サーシャの力では無理なのである。
 そして、これで一応実践は終了?らしい
 ナナさんが、ポーカーの最中に書き込みをしていた紙を見ていた。そして、「ふぅ……」とため息。
「ではこれから評価の方を。まずフィオ君、まあわかってはいましたが幸運の率が以上ですね。と言ってもバラツキがありますが、おそらくそれは集中力の誤差です。それでもすごいとしか言いようがありませんが。」
 これは衝撃的だった。
 まさにその通りだった。この運は気持ちによって左右される。いつもこのようなカードゲームで全力で挑んで3回ともロイヤルストレートフラッシュで終わらすことも可能であった。
 この能力に関して助言がもらえるのは初めてだった。自分の力を認めてくれる上に、正しく見てくれる。僕にはうれしい限りだ。
「次に、蘭子さん。あなたはカードの気質が見えるのでしょうか。まだ一つの絵柄だけしか特定できていないと思いますが。」
 蘭子さんも驚きを隠せないみたいだった。
「はい、その通りです。私は人間以外の生物と会話をすることができます。その能力の延長上として、最近は無機質でもなにかしらのオーラは見えるようになりましたが。」
 やはり、そういう類の能力だったらしい。
 でも、自分の能力をそこまで知っているのはちょっとうらやましかった。
「最後にサーシャさん。」
 ここが問題である。僕もサーシャが能力を使っているのかどうかわからなかった。というかこのゲームでは使えないと思うのだが。
「これが私が悪いのですが、おそらくポーカーのルールを知りませんね。」
「あっ、そうです。」
 サーシャはそう答える。
 問題点はそこであった。知っていると思っていたが、まったくの無知らしい。知っていると思っていた僕が悪かった。
「そこであなたは、自分のルールに則りカードを選んだのですね。結果としはダメでしたが。たとえば、「素数」とか。」
 それを聞いて、今までのサーシャの手札を考えてみる。たしかに素数のみで構成されていた。これではストレート系はまず無理である。
「でもどうやってサーシャさんはカードを選択したのですか?」
 蘭子さんが疑問の確信にせまる。確かにこれはカードが見れなければとうていできない代物だ。
 それを聞いて、サーシャがこう言った。
「最初にナナさんが、カードがちゃんと混ざっているか、純正かどうかを確認するよう私に渡したでしょ。その時に1枚ずつ柄と順番を上から覚えていったの。そして、テーブルに置かれる時にすべての位置を把握したの。」
 サーシャの能力は知っていたがこんな利用法があるとは。
 兄である僕でさえ関心する使い方だった。
 サーシャは僕の運要素に正反対な理論の能力で、一言でいえば頭の中にパソコンが入っているようなもの。
 パソコンは性能が同じでも、使う人によってできることは千差万別。
 だが、パソコンと一体化しているサーシャの場合、それを大きく凌駕する。使うというよりは、体の一部を動かすものだ。
「なるほど、そういうことでしたか。ふふっ、本当にあなた方兄妹は、両親そっくりですね。」
 笑ってそう話すナナさん。それほど親に似ているのだろうか。自分には確信はなかったが。
「ではこれにて実技は終了。問題ないと思います。私が欲しいのは能力や才能というよりも、個性なのですから。」
「個性……ですか?」
 素朴な疑問だった。現代において、力の源の能力が最優先されるはず。
「そう、能力や才能というのは、伸ばすことができるからね。でも個性は違う。人の個性を変えることは、そううまくいかないからね。いろんな個性があればここも楽しくなると思うし。」
 そう話すナナさんの目の先を追うと、キッチンで作業するフミさんがいた。目が合って、恥ずかしくなったので、ナナさんのほうへ視線を戻す。
「と言っても実技が合格で入隊を許可しますけどね。面接はあなたがたの魔力の種類を知りたいので。」
 入隊を許可?
 一瞬考えたが、確かにそう言った。
「合格ですかっ?」
 思わず席を立ってしまう。
「やったねお兄ちゃん!」
 サーシャも嬉しかったのか、隣で立っていた。
「合格、したんだ……。ロイワラに。」
 蘭子さんも嬉しそうだ。あ、やっぱりロイワラって言うんだ。
「そう、3人そろって合格です。おめでとうございます。その前に……。」

 ?

 記号でいえばそんな気持ちだった。まだ何かあるのだろうか。
 考える間もなく、自分たちの前には、お椀が置かれる。
「ちょっと遅いですが、年越しそばです。やっぱりこれを食べないと1年が始まらないというか、終わらないというか……。でも、これが初のギルドメンバーで食べるお食事なので。」
 ロイワラが格が違った。常識からの離脱率が。

     

「しかし、まだ人数がたりないなぁ。」
どんぶり片手にナナさんは言っている。腕がいかにも折れそうなくらい細いから見てるこっちは、心配でいっぱいなんだけど。
そして、ドンッという音を立てておく。ガラスのテーブルが痛がってそうだ。
「とりあえず誰でもいいから拾ってくるか。」
「は?」
「へ?」
「ひ?」
その誘拐宣言に僕と蘭子さんは驚いた。一人乗り遅れもいたみたいだが。
「という訳で、フミ。後の説明をお願い。今から誰か拾ってくるよ。」
そう言って、棚から縄を取りだして右手に装備。背の高い扉を明け、消えてしまった。まったく自由行動すぎるというか、子供っぽいというか。
何もできずに、ソファーに座る僕たち。その前には今度はフミさんが座っていた。この人行動早っ。
そして、僕たちの入った「Royal Warrant」について説明してくれた。あ、そばおかわりくれるのですか・・・。

まずは人数とランク。
フミさんを含めて今は6人+3人。この3人は僕たちのことである。
今までいた6人について紹介してくれた。ギルド内のランクはトランプのポーカーで決まっており、Aが一番位が高い。
Aは総長のナナさん。あれで本当にすごい人なのかどうかよく分からないけど。あんま詳しく教えてもらえなかったし。

Kの啓蟄(けいちつ)さんと、Qの白露(はくろ)さん。この人たちも兄妹らしい。同じ兄妹としてはぜひ関わってみたい。しかし、名前が実に読みにくい。日本の人じゃないのかなぁ。啓蟄さんは23歳、白露さんは20歳で大人なんだぁと思った。総長間違えてるんじゃないかと。

Jの智士(さとし)さん。この人は戦闘バカってフミさんは言ってた。まあ、このような人はたいていグループに1人はいるものなのかと考えた。だってよくあることだし。17歳で、僕の1つ上ってところか。

そして10の慎次(しんじ)さん。Jの智士さんと一緒の学校に通っていたらしく。2人はよくケンカするらしい。そして、この人も戦闘バk(ry・・・らしいです。智士さんと同級生。

で、フミさんはJOKERである。ポーカーでJOKERはすべての代わりとなれる。ここでもそういう意味でのJOKERらしい。年齢はヒミツとか。まあ、女性にそのようなこと聞くのもアレだしね。
そしてここロイワラの目標はただ一つ。

 世界征服

 そんなことを考える人はもうこの世にいないと生きてきたが、ナナさんの目標はそうらしい。みんなも、納得の上ロイワラに入ってるとか。
 僕は正直そんなのどうでもよかった。ただ、ナナさんに恩義を返せれば十分。妹はおまけでついてきたような物だ。本人も
「世界征服。なんだかカッコいいね!」
とか言ってたし。蘭子さんはこんな非常識にどう対応するのか期待していたが、案外あっさり承諾していた。僕と同じような考えでもあるのだろうか。

 そして、公式の戦闘ランクについて。
 魔法というものが生み出された以上、それを使用する個人の能力差がでるのは当たり前だ。世界の中心である世界政府「テンゴク」では、能力規模によってランク付けを行い、そのランクによってギルドやつける役職に制限をしていた。
 ギルド管理局に勤めるにはA以上とか、護衛任務をするには☆以上とか。世の中では各種このような制限がつけられていた。いわゆる免許として扱うため、ほとんどの人がランクを持っている。というかそうでないとこの世界では生きていけない。
 一応、下はFから始まって、最高ランクは☆☆☆となっている
 ロイワラは名の知れたギルドである。クセをもったギルドとしては世間的にも十分浸透していた。
 だが、いざふたを開けると中身はアレなわけで。酷かったです。

ナナさん、フミさん→なし
啓蟄さん、白露さん→☆☆☆
智士さん、慎次さん→☆☆

 肝心の総長がランクされてないって・・・。
 そう思うのも仕方ない。なんせギルド総長は少なくともA以上の能力がいるのだから。
 このギルドは本当に大丈夫なんだろうか。
 一瞬そんなことが脳裏によぎった。なんか嫌な雰囲気になってきた。
 で、そして拍車をかけるようにフミさんが一言
「Royal Warrantはギルドではありませんしね(笑)」

\(^o^)/

 とりあえず今の気持ちを表現してみました。僕の夢のロイワラがまさかの偽造ギルドであったとは。しかも(笑)とかつけれてるよ・・・。
「でも、そのかわりに日本帝国からはお金をもらってるんですよ。ロイワラは基本、そっち系の仕事優先なので。」
「やっぱり国王とか守る仕事もしてるんですか?」
 そう尋ねたのは蘭子さんだった。さっきまでは特に様子は普通だったけど、急に食いついてきた。
「たまにですけどね。基本は専属の方々がいらっしゃいますし。」
「そう・・・、ですか。」
 そう言って、また黙ってしまった。いろいろ気になったけど、初日からこう堂々と踏む込むのはやめとこう。
 ちょっと気まずい空気になってしまった。だれか切り替えてくれないだろうか。
 そこへゴスロリ神、ナナさんが返ってきた。しかもなんかサンタみたいに白い袋背負ってるし。
「みんなへクリスマスプレゼントだよー。」
といって、その白い袋を床においた。

かなり袋は大きい。人ひとりは余裕で入れる大きさだ。というか、だれか入ってる?さっきから、もぞもぞしている。なんか怖い・・・。
 そして、ナナさんが袋の口を開ける。

 そこには、縄で縛られた女の子がいて。
 口にはガムテがしてある訳で。

 ロイワラ今年最初の仕事が誘拐という、ひどい事態に遭遇してしまった僕たちであった。 
「この子抵抗がまた凄くて。傷つけれないものだから結構時間かかっちゃったよ。」
堂々と犯行宣言してるけど、ダメでしょそれ。
とりあえず、その子の紐を外してあげようと席を立つ。「はなしてあげましょうよ」と言うためにナナさんのとこへ行こうとした。
そして目線がナナさんと合う・・・って合わない?
自分よりもナナさんのほうが若干目線が高かった。それはつまり背もそっちのほうが高いわけで。
「・・・。」
「・・・ぷっ。」
「ちょっ、何笑ってるんですか。僕の背のことは気にしないでください!」
「いや、私よりも背の低いのがいたんだなーと。」
そう言って後を向かれてしまった。なんか口押さえて震えてるし。
 とりあえず、縛られてる子の縄をほどいてあげた。これで楽になるだろう。
 そう思ってたら、いきなり足が飛んできた。
 危うくお腹をけられそうになったので、僕は一度後へスッテプし回避、そしてその子の首回りに腕を回して拘束。っていかんいかん、いつもの癖が。その子かなりぐったりしちゃったし!
「あ、これで同犯じゃないか。やったね!」
「お兄ちゃん、それはいくらなんでも・・・」
「同感ですね。目が殺しに行ってます。」
 ギャラリーからすごい言われようだ。
 仕方ないじゃないか。自分の身を守るためだったし。
 とりあえず、体を揺すってみる。あ、生きてる生きてる。大丈夫でしょ。
「うぅ・・・ん。」
 気づいたみたいだし。いいかな。

 とりあえず、話せる状態まで待ってた。と言っても数分後にはもう自分でソファに座ってくらいだ。大丈夫だろう。
「それで、ここはどこなんですか?」
その質問にナナさんが答える。
「ここはRoyal Warrant。通称、ロイワラ。まあ、君なら知ってるでしょ。いや知っているのは当然のはずだ」
「ええ、もちろん。私を誘拐するとどうなるのか分かってるんですか?あなた死にますよ?」
 随分と強気な子だった。僕たちと同じ、普通じゃない子なのかなぁ。
 僕が考えてる中、話はエスカレートする。
「別に、そんなことは私にはどうにでもできる。」
「それは私のセリフです?」
「そう。まあ君にあげるよ。まあ、こんな大晦日に路上で一人で座ってたんだ。誘拐してくださいと言っているようなもんじゃないか。」
「くっ・・・。」
 すごい形相で相手を睨みつける。
「まあ、とりあえず自己紹介でもしてもらおうか。」
 話をナナさんのほうから切り替えてきた。
「私の名前は加越能 愛(かえつのう ちか)。あなたも知ってるでしょうが、加越能グループの娘です。言っておきますが、あとから『すみませんでした』とか言っても嫌ですからね。」
 この堂々とした自信、やっぱり金持ちの子かぁ。
 確かに、この世は金があれば全てが叶う。この子はそうやって生きてきたんだろう。支配する側の人間として。
 しかし、本当の頂点は力だ。お金など、力を間借りするだけの繋がりでしかない。切ることなんて容易だ。
「ふーん。別にいいけどね。それで君、ここに入らない?」
 さっきの話がなかったことにされている。本来の目的がそうだからっていくらなんでもすっぽかしすぎだ。
「あなた、話を聞いてないんですか?」
 下等の物を見る目で話す愛さん。なんか、雰囲気は大人なんだけど、やっぱり外見は中学生にしか見えない。やはり育ちが違うのだろうか。
 そこにナナさんが食い込んでくる。
「だって君は家に帰りたくないんじゃないのか?」
「・・・。」
 話が止まってしまった。家に帰れないから、路上にいた訳か。
「まあ、時間はきにしないさ。君も帰るところなさそうだしね。今日はうちで泊まっていくといいよ。また明日にする。その時に君が決めればいい。私のもとにくるか。それとも私を殺すか。」
「・・・。」
 無言のまま、ナナさんが話続ける。
「君が自身の能力に落ち込むのなら、私のところに来てほしいね。そもそも加越能のところでは君の能力は腐るだけだ。それと・・・」
 一瞬、間があった。たった一瞬。なのにすごく空気が重くなった。そして、ナナさんの口が開く。
「嫌なら私を殺そうとすればいい。その醜い金の力でね。だけど、君が私のメンバー達に手を出した場合、容赦なく君を殺し、君の家族にも消えてもらう。それだけは忘れないように。」
「選択肢の意味わかってますか?」
「ええ。だけどこれが現実だよ。それは君の方こそよく知ってるでしょ。」
 そう言って、ナナさん奥の部屋へ行ってしまった。
 放置された僕たちに対して、フミさんが今度は代わりに世話をしてくれた。
 とりあえず愛さんは、ここで泊まるらしい。相当広い部屋だからどこか空いているのだろう。
 そして、僕たちはここに住むことになった。どうやらロイワラの規則らしい。荷物が全て部屋に置いてありますって早すぎでしょ。こんな年末によくやってくれたなぁ。
「荷物はこの転送装置で送りましたので、手間はかかりませんよ。」
「!?」
 そう笑顔でフミさんは答えてくれた。ヤバい。この人心読んでくるよ・・・。そして笑顔が怖い。
 僕たちは渡された鍵の番号たよりに各自部屋に向かった。こういうのホテルみたいだなぁ。というかここホテルっぽいよ。
 自分の部屋となった扉の前に立つ。番号はⅦと書いてある。いい数字だ。そして、ドアノブの握り部屋へ進む。

     

 部屋の中は広かった。
 始めはワンルーム的なのをイメージしていた。正直それで十分である。
 しかし、実際はルームではなくハウスだった。
 部屋は何個もあるし、キッチンやトイレ、バスルームまである。この部屋から出なくても余裕で生活できるものだった。
 とりあえず、リビングまで行ってみる。テーブルにはメッセージ付きの1枚の紙切れが。

 フィオ君へ

 この部屋はどうぞご自由にどーぞ。何か必要なものがあればフミに言えばなんとかなるとおもうよ。妹さんと一緒いたいとかでもいいよ。しかし、君はもう16なんだからいい加減独り立ちしないと、シスコn

 読むのをやめた。
 どうせナナさんが書いたのだろう。そんな感じのオーラが紙からあふれ出ている。
 妹と一緒にいるのはむしろサーシャのほうからなんだけどなぁ。ま、明日聞いてみるか。
 今日はもう眠たい。時計の針は2時をさしている。
 お風呂にするか。
 浴室がまた部屋の隅で遠かった。
 僕はお風呂につかり、今日のことを思いだす。
 とりあえずロイワラに入れてよかった。
 まずはこれに限る。僕にはやらなければならないことがある。
 あの時の復讐。
 僕たちの親を奪ったあの事件。
 そして、主犯と思われる謎のギルド
 そいつらを殺すまでは、僕は死ねない。
 そいつらを殺すために、殺す術を得るためにここに入った。
 浴室には水滴がポタポタ落ちているが、その音もあの時を思い出す。その場合は、色は赤かったけれど。
 あまりそういったことはサーシャがいるときには思いださないようにしていた。僕は感情が顔に出やすく、サーシャはそれに鋭く察してくる。
 久しぶりの一人だけの空間は居心地が悪かった。
 ちょっと考えすぎたかな。
 のぼせる前に浴室からでる。今日は髪も梳くのも面倒だ。
 ベッドが置いてある部屋に来たが、すぐにうつ伏せでベッドに顔から埋め込む。ふかふかだ。
 気持ち良くて、すぐに眠りについてしまった。久しぶりな感覚だ。こんなに開放された気分になれたのは。

 ★ ★ ★ ★ ★

「ひろーい。」
 これだけ広かったら、お兄ちゃんと一緒にいても十分なくらいだよ。
 私はとりあえず送ってもらった荷物を見る。あ、これお兄ちゃんの混じってるよ。お兄ちゃん困ってないかなぁ。
 とりあえず、いろんな部屋を見てみた。一周したところで、テーブルの置手紙を見る。
「ふーん。何でもかぁ。」
 手紙には、自由に使っていいよ。必要なものがあればフミさんに言って!って書いてあるけど、とくに困らないけどなぁ。
「ま、お風呂♪お風呂♪」
 まずはお風呂に入って落ち着こう。お兄ちゃんのところへ行くはそのあとでいいや。
 お風呂の中で、ここに来る前のことを思いだす。
 お兄ちゃんは何をしたいのかなぁ。
 私に、昔のことを思い出させないようにいろいろとがんばっているみたいだけど、あれはお兄ちゃんだけの問題じゃないのに・・・。
 本当は、一緒に解決したい。
 そのために、私も自分の能力の技能を上げてきた。
 私の能力≪幾何処理≫はつまりパソコンみたいな物。でも最初はパソコンとは比較できないほど使えないものだった。せいぜい、電卓レベル。
 そんなのもは私がいなくても変わらない。この能力の嫌なところはどうやって使えばいいかがまったくの未知数なとろこ。うまく使えば、電算処理して神と同等になれるとか書いてある専門書もあった。
 でもそれは、あくまでも物理法則を守った上での現象しか起こせないわけであり、希望は少ない。
 こんな能力になぜしたのか。
 私は両親を恨む。
 お兄ちゃんには悪いかもしれないけど、本当の気持ちはそうだった。
 確かに助けてあげたかった。でも、少しでも死んでくれてよかったともってしまった自分がいた。
 それがお兄ちゃんに知られるのが怖くて怖くて記憶をデータとして扱うようにした。
 私は人間であるが、能力うえに人をやめてしまっている。パソコンと同じ、人型でいったらロボットなようなものか。
 それで、その記憶は心の奥底に封印した。絶対に口からはでない。
 私は両親に関して、本当の真実を知りたい。恨むなかでもわずかな希望でも願ってるのかもしれない。

「深く考えすぎたかも・・・。」
 お兄ちゃんのところに行く予定だったが、急に眠たさに襲われた。
 今日は、もう会わなくてもいいかな。
 と、自分で判断。もう寝る!
 思ったら即行動。私は髪を乾かし、眠りについた。

 ★ ★ ★ ★ ★
 
「普通ね。」
 そう言って。蘭子は部屋に入る。マシュロマーの兄妹と同じ部屋構成ではないみたいだ。無駄に部屋がない分、こちらの方がいいのかもしれない。
 私は今日の出来事を思い出す。それだけで、壁にもたれかかってしまう。
 ナナとかいう人の圧倒的な力量差。
 見た瞬間わかった、格の違い。
 その恐怖に耐えるだけで精一杯だった。
 他の人たちは何も気にしないでいたが、どう考えても普通じゃない。

 私の入隊目的は恐怖心の克服。
 この世で魔法というものの存在が表れたのは、人々にとっては歴史上の起死回生になるのかもしれないけど、私にはまさに地獄の代物だった。
 これのせいで、世の中は力がすべてになった。
 昔は学歴を重視する社会もあったそうだ。私はそんな夢の世界がうらやましい。今では学問など化石扱い。
 2300年。人類は学問の終点に到着した。つまり学ぶことがなくそれが人がなせる技術の完全体であり、夢の終焉、永遠の普遍の始まりだった。
 そこからは、もう完全に学ぶことなど必要にならない世界となった。私みたいに、学ぶことが好きでもなんの役にも立たない。
 小学校、中学校・・・。学ぶという字を含むのであればそれを行動で示してほしいものだ。私がそこで学ぶものなどなかった。あるとすれば能力開発。ただの軍隊と同じだ。
 人のパラメータは振り分け制だと思う。私は学ぶことに費やした分、能力が弱い。それは、いじめの対象には良好だ。弱肉強食。それがこの世界の原理。そう作り変えられたのだ。

 なのに、私はあの広告に惹かれた。強さが全てのこの世の中、私は不要物だと思っていた。それでも、希望を抱いてしまった。
 その私の最後の希望にかけてみたい。それなら、許してくれるだろう。
 そんなものでも懸けてみたかった。

 ★ ★ ★ ★ ★

「・・・。」
 愛に用意された部屋はワンフロアでシンプルだった。それでも一般的には十分あったが、金持ちには不満なのだろう。
 しかし、そんな部屋構成よりもさっきから頭のなかで残る言葉。
『君を殺す』
 今まで、そんなこと言うやつなんか見たことなかった。あってもその場でこちらから殺す。私には死は無縁だとおもった。初めて感じる、その恐怖。そして自分の発言にどれだけの意味があったのか。
 その意味に心が押しつぶされて、吐き気に襲われる。
 私は、これからどうしたらいいのか。確かに、あの総長に言われた通り帰る場もない。あの家に帰るのはもう御免だ。だったら、いっそここに残る。やつを殺せる時になれば殺してやればいい。そうしていいと、向こう側から言っているのだから。
「フッ・・・。」
 思わず不敵な笑みがこぼれた。まだやることがあるじゃない。
 これからのこと、自分の目的、それらを見つめなおし、明日を楽しみに待つ。それがうれしくてたまらなかった。

 ★ ★ ★ ★ ★
 
「フミ」
「どうしました。ナナ様?」
 先ほどまで、一応試験会場となっていた場には、2人がいた。小さな金髪の少女と、すらっとした容姿の黒髪の女性。2人はあまりに対象すぎて、

天使と悪魔

その言葉の組み合わせが相応しかった。
「これで、人数はいくらになった?」
「計10人。規定はクリアしております。」
 ギルドの規定は10人以上。ロイワラは正式には10人いなくても続行可能なのであるが・・・。
「なるほどね。一応予定通りか。では――。」
 静寂のなか、笑みを浮かべて告げる。
「私にもう一度の権利を与えてくれた神に感謝を。そして後悔を。こんな私の腐った人生にコンテニューを与えてくれるのなら、もちろんやらせてもらうよ。私のRPGを始めさせてもらう。」
 その発言の横で、フミは表情を変えずにそのまま居続ける。
「主人公は、世界を救うのではなく、統一するのだからな。」

       

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