Neetel Inside ニートノベル
表紙

俺得短編集
願望の半具現化

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 私には双子の妹がいる。
 私達2人はこの世に生を受けてからずっと、一心な、献身的な愛情を受け育てられてきた。
 そのお蔭――というのは流石に言い過ぎかもしれないが、しかしそれでもそれらの愛情が私達の人格を形成する課程において一要因であった事は確であり――その甲斐もあってか私達は特に非行に走る事もなく、順調に大人の階段を上っていたのであった。
 だからという訳でもないのだが私達兄妹は今時珍しく非常に仲が良く、幼い頃からよく遊んでおり、些細な事から喧嘩になるといった事や、私から彼女を一方的に邪険に扱い、傷つけてしまったというような事象は皆無に等しかった。
 そういった関係性はある程度成長してからも続いていた為に、何も事情を知らない者から見ればちょっとお似合いなカップルに見えてもおかしくない程にまでなっていた。
 そんな平凡ながら少し変わった日々が続いていたある日、突然妹は私にこう告げたのだ。
「私、妊娠したの」
 別にそれがどうという事はないだろう、私達は単純に仲の良い兄妹なだけであってその意味に恋仲という言葉は関わりを持っていない、だから彼女が血縁を持たない同士で恋仲になるのは至極当然であり、その結果性交の末に子を授かるというのも当然の帰結と言えよう。
 故に私は彼女の朗報を、純粋に祝福しようとした――が、次の彼女の言葉に私は愕然とする。
「私とお兄さんの子供よ」
 私は思考が停止する。血の気が引いていくというのは正にこの事なのだろうと余計な所で頭を回しながら――いや、現実逃避をしながら何とか思考の復旧に努める。
 ――そして冷静な思考を取り戻した所で私は記憶を辿り、ようやく考察に入る。
 確かに私は一度として、100%実の妹に対して恋愛感情を持った事がないと言えば嘘になる、というのも彼女は容姿端麗で文句無しに美しいのだ、これは決して兄だからという理由で補正している訳ではない、恐らく誰に聞いても賛同を得れるだろう紛れもない事実だ。
 同時に先に述べたよう彼女は非常に清らかな人格も持ち合わせているので兄としてあるまじき発言であるのは重々承知しているが、それこそ血縁という壁が存在していようとも彼女に対して恋愛感情を抱かないのは逆に異常なのではないのか、と思わせるほどなのである。
 だが禁忌にまで足を踏み入れてしまうのとはまた話は別である。何故ならそれだけはあってはならない、許されてはならないからだ。幾ら何でもその善し悪しは流石に心得ている。
 故に断言出来る。私は実の妹と性行為に及んだ記憶はない、存在していない。
 だから私はその旨を丁重に彼女に伝えた――いや、正確にいえば反論したのだった。
 ……しかし彼女は全く私の主張を受け入れようとはしなかった。それどころか彼女は一方的に私を慕っているから性行為に及ぶのは当然などといった、支離滅裂な妄言を、感情的に、叙情的に、時にはヒステリックになりながら訴えだしたのだ。
 彼女は私の事を恋慕っていた、つまり相思相愛であった事実には、この期に及んで多少なりとも嬉しく思ってしまったのは何とも恥ずかしいのであるが――何度も言うようにそれとこれとは話は全く別なのである。私は実の妹に対し性行為に及んだという事実は無根なのだ、その為に私は何としても彼女にその事実を理解させなければならない。
 故に私は実の妹と何度も論議を交わした……いや、そんな大層なものでは決してなかった。恐らくそれはただの言い争いであった筈だ、やったやってないの水掛け論、過去にここまで激しい口喧嘩は無かったであろう、関係が破綻するのではないかと思う程私は声を荒げた。
 それ程までに、悲しいまでに私は必死だったのだ。
 だがこの論争は決着がつかない所か寧ろ彼女の意志をより強いものとさせる結果となってしまい、「お兄さんが何と言おうと私はこの子を産むから」と言われる始末であった。
 私の方もまた彼女が孕んだ子供に己の血が混じっていない自信があったのでこれ以上相手にする気もは毛頭無かった為に、それ以上言及しようとはしなかった。
 ――しかし、月日が経つにつれ彼女のお腹はみるみる大きくなり始め、妊娠独特の症状等が見られだすと――私の心の中にあった自信は俄に揺らぎ始めてしまっていた。
 食も喉を通らなくなる程の周囲の人間の反応や彼女の純粋無垢な言葉は私の精神はどんどん追い詰め、いつの間にか本当は私が妊娠させたのではないのか? とまで思わせていた。
 何故なら考え直してみればその可能性は一概に無いとは言えないからだ。単純に寝込みを襲われたとしたら気づきようがない、生理現象というのはたとえ睡眠状態であったとしても起きてしまうのだ、それは意図的に作られたものであったとしても容赦なく反応する。
 彼女は口に出してそうだとは言わなかったとはいえ、最早ここまで来た以上あらゆる可能性を捨てる事は出来ないのだ、そう思うとあらゆる可能性が次々と、際限なく私の頭を過ぎりだし、彼女と対象的に私は日に日に憔悴していくのであった。

 そして数ヶ月がある日の昼下がり、数人に連れ添われながら運ばれる彼女の姿を目撃すると、私はついにその時が来た事を理解する。
 しかし、その時私はひどく冷静な心持ちであったと思う。
 それは諦めなのか、それとも悟っていたのか、はたまた心の奥底でまだ否定出来る何かを持っていたのか――それは分からなかった。けれどまずは彼女の元へ行こうと、そして彼女の子がこの世に生を受ける瞬間を見守ろう、その思いがあったのは確かだった。
 彼女が数人に囲まれ検査を受ける中、私はただその様子を見つめ続け、彼女と産まれる赤ちゃんの安全を祈り続けていた、あれだけ様々な事に苦悩していたにも関わらず――
 恐らく長年寄り添い合い生きてきた実の妹を無下には出来なかったのが本音であろう。
 そして私は妹として彼女を愛し、1人の女性として彼女を愛していたのだ。その気持ちは何処まで行っても嘘偽りない、本物なのだと、私はいつの間にか思い知っていたのだ。
 だから、これから訪れるであろう未来がどれだけ悲惨魔道であろうと、私は、彼女を――
「あーこれは想像妊娠だね」
 ――ん?

 とある時代のとある動物園であったお話である。

       

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