Neetel Inside 文芸新都
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La Campanella −来訪者−
[Ⅳ]

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 「管理者」が世界を管理している技術がどういうものかは、ぼくは知らない。
 ただ、超巨大なデバイスと莫大なエネルギーを使うだろうってことは想像に難くない。
 大昔のコンピュータは、体育館くらいのサイズで馬鹿みたいに電気を食うやつだったそうだけど、その比じゃないはずだ。
 もちろんかれらにとって、場所なんて問題じゃないだろうさ。複数の世界に分割して置けばいいんだから。理論上、置き場所は無限だ。エネルギーも然り。
 ところが聞いた話では、そこになんらかの制限が生じてくるらしいんだな。基盤ってのはどうしても、最小化できるサイズに限界があるらしいけど、世界を管理するとなれば、演算速度が無限でもまだ無限に足りないって話だろうさ。
 ここらへんは無限と無限のシーソーゲームの話になるから、ぼくみたいな生身の人間がまじめにやったら発狂しちまうだろう。発狂って言えば、どっかの世界には狂った人だけが隔離されてるって言うぜ。たぶん世界伝説さ――世界伝説ってのはあるのかないのか分からない、ホラーな話のことで――あんたのとこでは「都市伝説<アーバン・レジェンド>」? スケールの違いってやつかね。
 ま、人生考えないほうがいいことだらけさ。
 きっとどっかの世界は、腐った死体で埋め尽くされてる。
 どっかの世界は、ゴミで太陽系じゅうを埋め尽くされてる。
 ん? ああ、ここまでの話で出てきた「世界」ってことばは、地球だけを指すわけじゃないぜ。
 空間を拡張するよく分からない技術と、宇宙技術が組み合わさって、とんでもないスペースを確保してるからね。
 あんた「天球」って言葉を知ってるかい? 太陽をそのまますっぽり、殻で覆ってしまうわけだ。
 恒星のエネルギーをすべて利用するとともに、莫大な空間を確保できるってやつさ。
 あんたのとこでは「ダイソン球」って言うのかい? ダイソンって言やあ、ぼくのとこでは有名なトイレ用品だから違和感あるが、そのダイソン球って技術も、末端世界、例えて言うなら田舎であるぼくの世界にさえすでにあったんだ。
 もっと管理の行き届いている世界では、きっと銀河全体を居住空間にしてることだろう。
 空気はどうしてるのかって? 別の世界から持ってきてるのかって?
 そんなことしてたら、キリがないさ。持ってくるんじゃなく、真空を空気で満たすメソッドがあって……まあこれもよくは知らないけど。エーテルなんとか理論っていうらしい。
 もちろん「管理局」も全能の神様じゃない。それに近いところには位置してると思うけどね。
 過去には恐ろしい事故がたくさんあったと聞くよ。
 たとえば前に話した、世界を一個ぶっ壊す兵器が暴発したことがあってね。
 それで連鎖的に、いくつかの世界群が消し飛んだらしい。
 スケールがでかすぎて恐怖もないだろ? 今日もどっかで、いくつかの世界が消えてるのさ。だれかのヒューマンエラーとか、ネズミがかじったケーブルのせいでね。タイムパラドクスってやつも多分にあるようだ。どっかの誰かと誰かが人ごみで出会っただけで、世界が拒絶反応を起こすってケースがね。それは、時間軸のずれた世界間の人間が接触したことが原因らしくて、で、恐ろしいことにこいつを利用した兵器が、末端のほうじゃ非合法に売られてるんだな。とにかく、問題は山積みだよ。
 どうも「管理局」は適当すぎるきらいがあってさ。感覚が麻痺してるに違いないよ。世界一個の価値なんて、かれらにとってはそれこそ砂漠の砂粒一つと言っても過言だからさ。銀河系と同じサイズの脳みそを持ってる人間の考えなんか、きっとぼくらには永久に理解できないだろうさ。
 宅配サービスも、この世界なんか末端も末端だから、どうしようもないんだよ。ピザを注文したら、さっき言ったダイソンの便座カバー十枚セットが届いてね。
 なんだよそれ、って。十枚セットってそもそもなんだ? 便器が十個もある家って、どれだけの大家族だよ。それともなにかい、そうとう近いから、いつでも行けるように家の隅々に便器があるってのかね。
 とにかくぼくは、やつらの管理体制には疑問を持ってるし、月に五通はクレームのメールを入れてるよ。たぶん改善されるには、十世紀はかかるだろうけどさ。

       

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