Neetel Inside 文芸新都
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あなたの生活。私の生活。
夏の日のアルタ前

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 猛暑の厳しい夏休みだった。僕が笑っていい○も(お昼の人気番組)のモノマネのコーナーの為、アルタに面接へ行った時の話だ。
 そこで僕は【彼】と出会ったんだ。
 僕は軟式野球部で日々練習に明け暮れて、クラスに好きな子も居て、休日は友達と買い物に行ったり、テスト前にはお腹が痛くなる、間違いなく普通の高校生だ。
 【彼】のことについては詳しくはわからない。正直そこまで持ち上げるべき人物では無いと思うが、今、語ろうと思う。
 そう、真夏の太陽の光りを真正面から受け止め、堂々としているひまわりに僕は感銘を受けたんだ。 
 
 
 1年に1回、必ず盆休みに親戚一同が集まるという大イベントがある。
 都内にある従姉妹の家に、総勢20人が毎年集まる。先祖の墓参りに大勢でおしかけ、その日の晩は日々の鬱憤を晴らすかのごとく、親戚のおじさんや、従姉妹の姉ちゃんや、うちのオヤジ達は馬鹿みたいに酒を飲んでアホみたいに騒ぐ。
 初日の夕食時、懐かしい再会でみんな盛り上がりに盛り上がり、酔っ払い共の無茶振りで、僕が一発芸をするという事になってしまった。基本的に表舞台が苦手な僕だが、実は当時、ナイティーナインの岡村の顔真似にひそかに自信があった。
 もちろん人前で披露したことは無い。ただ、みんな盛り上がっているし、そこまですべる事は無いだろうと踏んで初披露することにした。
「ははっ似てる似てる」「あんたそんな芸隠してたのかい」「うち岡村めっちゃ好き!」
 なんとそれが大絶賛。僕はこんなにうけた事は初めてなのですごく気持ち良かった。気分を良くし、アンコールに応えてみんなの腹を抱えさせた。
 そんな中あるおじさんが「金曜、アルタ前集合してみたらどうや?」と言い出した。
 「え?いい○も??」
 実はその日の昼に笑っていい○も(サングラスの人の番組)の『10代一発隠し芸10人斬り』っていうコーナーに募集をかけたとこだった。
 「いやいや、僕みたいな素人が受かるわけないやん!」
 「素人の一発芸の募集やぞ?お前程、似てておもろかったら絶対受かるわ!わしが保障する!それにどうや、もし番組に出る事になったらわしら一人づつから1万円のボーナスや!」
 親戚全員(子供除いて)で14人はいる。高校1年の僕からして14万って大金は未知の世界だ。
 当時原チャの免許を取ったばかりでビーノが欲しかった。しかも幸運なことに、岡村の顔真似には絶対の自信がある。番組に出る事になったら、14万も手に入り、おまけに僕はクラスでも人気者になれる。
 こんなおいしい話は他には無い。
 「まぁもちろん出るけどな!」

 という事で金曜日アルタ前に一人で集合する事になった。その日は生憎、親戚一同でディズニーランドに行く日だったのだ。まぁ僕からしたら一人の方が全然良い。周りに皆が居て変にプレッシャーをかけられてもお腹が痛くなるだけだ。
 夏休みのせいだろうか、アルタ前のホワイトボードの前に集まった募集者は300人をおよそ超えているであろう人数であった。企画が企画だだけに皆若い。10代ということで小学生から高校生が中心だ。
 11時になり、AD的な帽子を被った若い男がホワイトボードの前に立った。どうやら面接が始まるようだ。
 受付でもらった番号は75番。これが【彼】と僕を出会わせてくれる契機であった。
 20分ほど待ち、ようやく僕の面接の番がやってきた。アルタ内の楽屋?っぽい小部屋に応募者が5人入り、面接官3人相手にアピールタイム30秒と手持ちの一発芸を披露するという面接方法だった。
 つまり面接官3人と他の応募者4人の前で一発芸をするという事だ。
 そこで【彼】もいたのだ。部屋には僕が4番目で【彼】が5番目だった。
 僕は緊張して深呼吸を繰り返し落ち着こうとした。野球の試合より緊張する。緊張を紛らわすため、少し周りに目を向けてみた。ふと、右側のイスに座っている【彼】の方を見たら顔がだらしなく、舌を出しながら口を開け、ニヤけているのではないか。
 「こいつ逝ってやがる・・・」 心の中でそう呟いていたら、2番目の応募者が終了したとこだった。
 そして頭の中で入念にセリフを整理したとこで、3番目の応募者が一発芸を終えて僕の番がやってきた。
 「武藤健です。お願いします!」
 僕は30秒間必死に徹夜で考えたアピールを披露し、かなり自信のあるナイティーンナインの岡村の顔真似をした。
 どうだ?
 ・・・!!なんと面接官にうけてかなり好評だったようだ!
 よし!と思い、肩の力がすっと抜け僕は席についた。
 そして『彼』の番がやってきた・・・
 面接官「番号76番さんどうぞ」
 【彼】はゆっくりゆっくりと立ち上がり、面接官の前に立ちはばかった。
 面接官「はい。アピールタイムです。スタート!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 おい!何か喋れよ!と思わずツッコミかけたとこで【彼】の30秒のアピールタイムは終わった。
 面接官「??大丈夫ですか?それでは時間の問題もあるので、一発芸お願いします。」
 僕は心の中でこんな頭のおかしい奴に無理だろうと思っていたその瞬間。
 彼「ぼきゅミッキマウスだよ!よろしくね!」
 全員「!!!!!!!!!!」
 驚愕であった。青天の霹靂とも言っていい。全く、全然、これっぽっちも似てないんですけど。そもそも声が低すぎて、ミッキーマウスとかなりかけ離れている。しかも、噛んでやがるし・・・後、そのとびっきりの眩しいぐらいの笑顔を止めてくれ。
 多分その場にいた全員が心の中で同じツッコミを入れたと思う。【彼】は大仕事をやってのけたかのように、満足して自分の席についた。そしてしばらくの沈黙の後、
 面接官「・・・・え~と、あ、お疲れ様です。合格者発表は5時に先ほどの集合場所で行います。」
 
 僕はその後、アルタ周辺を芸能人に会うかなぁと期待しながらブラブラした。喫茶店でコーヒーを飲んだり、CD屋に寄ったりして5時まで時間を潰した。内心、受かる自信はあった。それはもちろん、面接官のリアクションで判断したのが大きいが、なにより僕の第六感がうずいていたからだ。
 そして運命の5時を迎えた。
 ざわざわ
 みんな、期待と不安が混じりあって異様な雰囲気に包まれている。アルタ前のホワイトボードの前に、見るからにしてTVのディレクターって感じの人がメガホンを手にし話を始めた。
 「みなさん、お待たせしました!この度はたくさんの応募誠にありがとうございました。何よりハイレベルで審査員もおおいに楽しみました。え~待ちくたびれている様なので、さっそく合格者を発表する事にします!番号を呼ばれた方は、係員の前まで来て下さい。それではいきます。16番の方・・・55番の方・・・」
 75番75番75番・・・・頼む!!!呼ばれてくれよ~!!
 「7・・」よし!!きたぁぁぁぁ!!
 「72番の方・・・・164番の方・・・・177番の方・・・・・・・・・」
 ・・・・・・まじかよ、、、、うそだろ?
 僕の番号は呼ばれなかった。
 「え~選出された方、おめでとうございます。今回の募集は本当にハイレベルで選出する人10人を絞るのは困難でした。
ですので今回落ちた方も、次の機会を目指して参加してください!今日はお疲れ様でした!」
 係員に参加賞のいい○もオリジナル下敷きとオリジナル三色ボールペンをもらった。
 「くそ!!!何で呼ばれなかったんだ・・・」 面接官も笑ってただろう。自信があっただけに落胆の色は隠せなかった。こんな事なら、みんなと一緒にディズニーランドに行っといたほうが100倍は楽しかった。
 そう考えると悔しさで涙が出てきた。
 「ちくしょう・・・・ちくしょう・・・」 なんで僕が。
 その瞬間僕の右肩をポンっと誰かが叩いた。僕は涙を拭って後ろを振り向いた。
 !なんとそこには【彼】がいたのだ。
 
 「君の物真似おもしろかったよ」
 彼は目に涙を浮かべながら、笑顔で僕にそう言ったのだ。
 「あ、ありがと・・・」
 そして彼は、面接時にミッキーの物真似をした時のとびっきりの太陽のような笑顔を浮かべた。まるでここにミッキーがいて、アルタ前がディズニーランドと言わんばかりの笑顔だった。
 僕も思わず笑顔になった。
 そして彼は「じゃあね。またアルタで逢えるといいね」と言い残し去っていった。
 僕はなんて事を思ったんだろう。一時でも彼の芸を見下ろしたことをすごく後悔した。
 急に自分が恥ずかしくなった。
 そして、ふと鳥の鳴き声が聞こえて空を見上げた。
 「そろそろオレンジ色に変わるかなぁ」
 夏の夕方は好きだった。夕日には明日への確かな希望を感じてしまう。そして僕は参加賞の下敷きとペンを鞄に大事にしまって、家路へと向かうのであった。

       

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