Neetel Inside ニートノベル
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 一つ目。全体図から言うと、右上の方に進んでからほぼまっすぐ左へいき、ちょっとやる気を出したがすぐに夢破れた金魚のようなルート。これはあるのかないのかちょっと判断不能なので保留にしておく。

 二つ目。これはない、と一目でわかるルート。なぜなら入り口すぐから左折しているからだ。さすがのアンナも最初の曲がり角すら忘れるようなおたんこなすではない。老婆がしっかりと右の横顔を見せて角を曲がっていったことをしっかりと覚えている。

 三つ目。なめている。なめているが、これがひょっとすると一番あるかもしれない。この刺繍はアンナと老婆が通ったルートを当てるのではなく、その最短ルートを当てろ、というものだ。だから、ぐるぐるあっちこっちを回ったつもりでいて、実は入り口そばだった、と言われても、その過程がこの図からは推理できないために、アンナの記憶の齟齬具合によっては、ありえる。

 四つ目。これは一つ目と同じく、途中までかなりアンナの記憶と一致しているため、要検証。つまり保留。
 なんだか膨大な仕事をしなければならないような気がしていたけれど、いまの考察でひとつのルートを破棄でき、また三つ目のなめたルートも検証しようがないというか、残り二つが駄目ならこれかなぁぐらいのキープ案として一次保留しておけるので、実質二択まで絞り込めたと言える。
 あとは、自分の記憶がどこでズレたのかを、見つけ出せればいい。


 怪しいのは、あの老婆が車椅子を倒した地点。あの時キャス子は、老婆があの十字路に最初に踏み入った地点から右折した、と思った。行き止まりから引き返してきた所から見れば、直進したということになる。倒れこんで、立ち上がった時に、老婆の右顔を見ていたから――そして脳内地図の壁をぶち破る破目になった。つまり、あの十字路は北上(この図の上が北を指しているなら、だが)してはいないという結論に達する。では残りの道筋は?
 左へ進んでみる。そこから、右折、右折、右折、で元の十字路に戻ってきてしまい、しかもそこから直進して壁にぶつかってしまう。なら左の道はない。もちろん下へ進んでも壁。上は突き抜けてしまうから――残りは右だ。戻ったのだ。アンナは嬉々としてペン先を進ませる。戻って、右折、右折、右折――ペン先が、止まる。
 壁。
 壁。
 壁。

       

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