Neetel Inside ニートノベル
表紙

あの世横丁ぎゃんぶる稀譚
17.穢れた英雄

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 誰かが呼んでいる。
 誰かが呼んでくれている。
 『俺』は目を覚ました。曇った目を何度か瞬いて、ようやくあたりがどうなっているのかわかった。
 どろっとした夕焼け空が広がっていた。俺は地面に直に寝転んでいるようだ。
 ぼさっとするなよ。
 誰かがそう呼びかけてくれた。起き上がると兄貴がいた。
「兄貴……」
 兄貴はチラッとこっちを見て、ぷいっと目を逸らした。わざわざ心配するまでもないだろ、早く立て。わざわざ言葉にしなくてもわかった。それが嬉しい。
 立ち上がって、服の汚れを払って、ここがどこなのか悟る。校庭だ。でもどこの学校だろう? 俺の学校じゃないと思う。たぶん。うう、頭がぼんやりする。でもいまは目の前の敵を倒さないと。
 そう、敵だ。
 校庭の端っこ、普段は誰かが守っているはずのゴール。いまそこを守っているキーパーは、一匹の巨大な土蜘蛛だった。妖怪なんて初めて見る俺はびっくりして……びっくりして? いや、違う……俺はもうああいうのを飽きるほど見てきた。でもここにいる『俺』は初めてなんだ。どういうことだろう。ああ、ぼんやり。ぼうっとしながら、兄貴の腰にさがってるデッキケースに目がいった。無意識に自分の腰をまさぐる。
 同じものがあった。俺はケースの留め具をパチンと外して、そこから一枚の花札のようなものを抜き取る。そこには花の絵を背景に俺の――そう、俺の――式神が描かれている。自分で描いた。でも俺は絵が描けない。どういうことだろう。どうでもいいか。
 兄貴がえいやッと自分の札を土蜘蛛に放った。パシン、といい音がして、空中に縫い付けられた札から炎に包まれたライオンが飛び出す。ライオンは土蜘蛛の足にかみついてカクカクした細い足を引きちぎった。超かっこいい。あんな風にやりたい。ニヤニヤしているのが自分でもわかる。俺は自分でも札を放った。金属でできたSFチックなネズミが飛び出す。ああ、やっぱ修行とか鍛錬とか足りてないとへっぽこな式神なのかなあ――でも俺のネズミは頑張って土蜘蛛に噛みついていた。それを見て腕を組んだ兄貴が言ってくれる。悪かったなゴウト、才能がないなんて言って。よく頑張ったな。おめでとう、今日からおまえは俺のほんとうの弟だ!
 弟。
 そうだ、俺は兄貴の弟なんだ。血が繋がっている兄弟だ。兄貴がそう認めてくれた。才能がないからおまえには無理だと兄貴は言った。でも俺は頑張った。生まれながらにあやかしが見えてないようなやつはどうしたって使い物にならないと言われたけど、おまえに夢は叶えられないと言われたけど、どういうわけか、俺はこうして、陰陽師になっている。やったあ! これで俺も認めてもらえるんだ。
 家族だ――って。
 兄貴が新しい札を取り出して、ゴールポストをよじ登り始めた土蜘蛛を追撃しようとしている。俺も負けてはいられない。デッキから一枚抜いて、それを悪者めがけて叩きつける。
 ずっと憧れていたように。夢にまで見た、俺の理想の通りに――
 思った、通り、に――







「僕はこれから『あれ』を壊す」






 『僕』がそう言うと、彼女は寂しそうな顔をした。おやつを取られた子供みたいに。でも仕方ない。そうしなければ彼女を助けられないんだから。
 僕らは三階の教室にいた。勝手知ったる我らが2-B組だ。僕は窓際のいちばんうしろに座っていて、彼女は窓の格子を掴んで、外の天然の特撮劇を観戦している。彼女は興味なさそうな顔をして見下ろしていたくせに、いつの間にか情が移っていたらしい。
 どうしても壊すのか? と彼女は聞いてくる。僕はうなずく他にない。そうする他になにもない。
「いま僕と彼は夢を見ている。夢をだ。あの校庭は彼の夢だ。そしてこの教室は僕の夢だ。譲れないものだ。諦められるくらいなら、最初から夢になんて見なければいい。夢と夢がその軌道にしたがって、ぶつかり合うというのなら、それがきっと運命なんだよ」
 僕の言い回しが理解しにくかったらしい。彼女はすねた。むずかしいこと言いやがって、と頬をぷうと膨らませる。それを見ているだけで、自然と笑みがこみ上げて来る。
「きみはなにも心配しなくていいし、気負う必要もないんだよ? だって、きみはなにも悪くないんだから」
 そう、彼女は悪くない。ただ巻き込まれただけだ。僕と言う名前をした災厄に。
「勝つのはどちらか一人――それがルールだ。もう後には誰も引けはしないんだ。いまここにある夢は僕と彼のものだけだったけれど、初めはもっとたくさんあった。もっと多くの手が、自分たちの夢を掴もうとしていた。ただ消えたくないという夢もあった。もう一度マウンドに立ちたいと願っていたやつもいた。僕と彼は、もう数え切れないほどの夢を潰して、いま、この夢を見ている。僕らは夢を見た。なにかが悪いというなら、それが悪かったんだ」
 彼女は首を振る。優しいから。
 僕も首を振る。もう決めたから。
「陰陽師になりたかったやつ。僕はそれを笑いもしない。認めもしない。どうでもいいと切り捨てる。死んで初めて霊の世界に触れられた、そして僕に勝ちさえすれば、一歩、夢に近づく彼の道、もし自分と関係のないどこかで展開していた物語だったなら――応援していたと思う。これは本当。嘘じゃない」
 わかってるよ、と彼女は言ってくれる。
「ああ、わかって欲しい。わかって欲しいんだ。誰よりも、きみに。きみにわかって欲しい。怖いよ。寂しいよ。助けて欲しいよ。でもそれは無理だ。きみには無理だ。きみには僕を救えない。――絶対に」
 彼女は黙って僕を見ている。夕陽がずれて、彼女の顔に一足早い夕闇が訪れていた。
「きみを助けたい。きみのためなら死ねる。きみのためだけにだ。僕のこの苦しみはすべてきみに捧げる。くれてやる。でも、ほんとうのきみは、いまの僕を見てどう思うだろう? なんて言うだろう? そう思うとさ、いっそ、負けたくなる。なにもかもやめたくなる。でも、いくよ。きみのために。そしてどうしようもない僕のために」
 僕は席を立って、鉄格子の網目に指をかけて、鏡合わせのように、彼女と向かい合った。死んでしまいそうなほど遠くから、求めていた才能があったらいいなと素朴に願ったやつの夢の音が響いてきた。僕は彼女と見つめあう。
 勝つよ。
 きみのために。





 目が覚めると、二人は別々の部屋で、同じ動作でがばりと起きた。ベッドから起き上がった少年を見て、そばにいた少女は無言でその横顔を見守った。
「胸糞悪い」と業斗は言って、立ち上がり、白ランを羽織った。
「なんでもない」といづるは言って、ベッドから膝を下ろして、仮面を片手で覆った。
 二人は別々の場所で、同時に時計を見る。
 決勝戦まで、あと三時間。




 ○




「阿呆、ブーツの紐が緩んでおるぞ。あっ、おまえ髪梳かしてないな? 面倒くさがるなと言っておろうに。まさか歯まで磨いておらんと言う気じゃなかろうな?」
 狭い霊安室をくるくる踊るようにして甲斐甲斐しく世話を焼いてくる雪女郎を鬱陶しげに振り払いながら(歯は磨いたって!)、花村業斗は戦支度を整えていた。といっても、せいぜい精神を集中する程度。いくら四本腕で優位を持っていたとしても、気を抜けばやられかねない。相手は餓鬼の門倉いづる。餓えた鬼の名は伊達ではないはずだ。
 だが、それも今日までだ。
「なあ、雪女郎」
 業斗は無理やり櫛で髪を梳かして来る雪女郎に言った。
「もし俺が勝ってさ、陰陽師になっても、おまえのことは守ってやるよ」
 癖のない髪をなでつけながら、死装束の少女ははぁとため息をつく。
「阿呆。守ってもらう必要などないわ。わらわを誰だと思っておる? そんじょそこらのひよっこお化けと一緒にするな。霊峰富士に雪を降らせるはわらわの役目、わらわの務め、わらわの誇り――雪女郎の美邦(みくに)と言えば泣く子も凍る大妖怪なのだぞ?」
「はいはい、わあってるっての」
 いつも通りの雪女郎節が、これほど心地よく聞こえたことはない。いつも通りの、なんでもない会話。
 失いたくない。
 だから――
 立ち上がって、拳の調子を確かめる。ぐーぱーぐーぱーぐーちょきぱー。もみもみ。ぐっ。
 問題なし。
「うし。じゃ、いくか? ちょっと早いか」
「いんや、もう行こう。ゆっくり行けばよい」
「そうだな」
 住み慣れた部屋を出る。人気のない通路を噛み締めるように歩いていく。
 思えば魔王戦が始まってから、もう三ヶ月にもなる。フリーであくせく日銭を稼いでいた頃から数えれば、もう死んでからどれぐらい経ったのだろう。半年? 一年?
 長かった。
 長かった、この地下暮らしが、ようやく終わる。
 勝っても負けても、この一勝負で。
「業の字」
「ん?」
 隣を歩く雪女郎が、顔を伏せていた。
「……辞退する気はないのか?」
「辞退――逃げ出して、それでどうするんだよ」
「穏やかに、暮らせばよかろ? なにも好きこのんで危険に身を晒さなくてもよいではないか」
「ずっとここで地下暮らしをしろって? やなこった。天魔王になれば、向こう十年くらいの魂は稼げる。その間に陰陽師の修行を積むんだ。それに景品には妖怪退治に役立つ武器もあるみたいだし――」
「おぬしの魂分くらいなら、わらわがかっぱらってきてやってもよい」
 そう言う雪女郎の頬はかすかに赤らんでいた。聞こえようによっては告白みたいなものだった。
 業斗は仮面の奥で笑う。
「ありがとな」
「――まあ、その、なんだ。腐れ縁も大事にせんとな」
「うん。ほんと、ありがとう。でも駄目だ」
「業の字……」
「勝っても、負けても」
 退けば、俺が俺じゃなくなる。
「客席で見ててくれよ、ミクニ。俺、勝つからさ。門倉いづる? なんぼのモンだっての。こっちは四本腕のアスラ様だぜ。三下に負けたらてめえの戒名が泣くっつの」
「業の字っ……!」
 雪女郎のとん、と軽く肩を押して、ゲートに続く扉を開けた。闇に吸い込まれるように、業斗は通路を歩いていった。
「……莫迦者が」
 雪女郎はきゅっと唇を噛み、追いかけたくなる気持ちを殺して、踵を返した。目を見開く。
「おぬしは……」



 ○



 客席に出てみると、もうほとんどの席が黒ローブで埋まっていた。いづるはあたりを見渡して、見慣れたキャスケット帽子を客席の縁に見つけて、一瞬逃げようかと思った。が、観念して近づいていった。
 キャス子がいづるに気づいた。仮面は外して膝に置いていた。
「はろー」
「……。はろー」
「マントできたよ。ほれ」
 放られた白布を片手で受け取った。表面には例の見るものの遠近感を狂わせる『マヨイガへの道』とやらがエンドレスにびっしりと縫い付けられている。自分で頼んでいてなんだが執念を感じるいづるだった。
「ありがとう。えーと……がんばるよ」
「なにそれ」キャス子はなにもなかったかのように笑った。が、キャスケット帽がいつもよりもひどく斜めになっている。そんな自分の無意識の動揺を知ってか知らずか、
「ああ、それとね。電太郎に魂貨めいっぱいに食べさせておいたから」
 座席の足元に手を伸ばして、いつもより毛並みがよくなっている電介(そして決して電太郎ではない)を持ち上げてみせた。その足元には、いままでいじって遊んでいたのか、電介の電気を浴びて磁石のようにがっちゃり固まった魂貨のかたまりが何個も転がっていた。
「あとはあたしがやっとくから。あ、でもたぶん電太郎の充電はまだまだ時間かかるよ。間に合わないかも」
「うん、それでいい。……ヅッくんは?」
「雪女郎を押さえにいった。心配いらないよ。あいつはあたしの言うことは絶対、聞いてくれるから」
 周囲のさざなみのような喧騒が、二人を包む。いづるはマントを羽織り、キャス子は電介の手でワンツーを空中に放っている。
 先に口を開いたのは、いづる。
「あのさ」
「はいな」
「……ごめん」
 キャス子はしばらく何も言わなかった。
 やがて、ははっと笑って、
「ごめん、じゃねーよ――って言ったらどうする? 曲げてくれる?」
「……いや」
「だよねえ」はあ、とため息をついて、俯く。
「まあ、いいや。恨み言は、あんたが帰ってきてからにする。駄弁ってたら間に合わなくなるから」
 キャス子は電介を持ったまま立ち上がって、闘技場中央を顎でしゃくった。そこでは、天魔王会の優勝者へ送られる景品が黄金の船に乗せられて、四方のポールに繋がった鎖で吊るされようとしているところだった。鬼ヶ島にかちこみをかましたってこうはいくまい――そう思わせるに足る宝物がぎっしりと積み込まれていた。
 その中でも、一際輝く刀が一振り見えるのは、それがいづるの求めるものだからだろうか。蓮の柄をあしらった、剣速をいまだ刀身に留めているかのように弧を描いた刃。気まぐれに波打つ刃紋は彼女の鼓動を表しているかのよう。
 閻魔大王の娘、飛縁魔の愛刀、鬼切りの『虚丸』。
 あれを取り戻せばすべてが終わる。
 すべてが、元に戻せる――
「門倉」
「……ん?」
「気楽にやりなよ。あんた言ってたよね? こういう大会で、最後まで残ったことないって。だったら応援されたこともないんでしょ? 寂しいねえ。超寂しい」
 だからさ、とキャス子は片手で仮面を持ち上げて、笑顔を見せた。
「あたしが見ててあげる。がんばれって言ってあげる。それでも怖いと申すかにゃ?」
 しゅっしゅっ、と電介の腕をおもちゃにして、キャス子は笑っていた。
 それを見ていづるの頬が自然と綻んだ。本当に、自然に。
「まさか」


 そして、十分後、景品宝具を貯めこんだ箱舟が、試合場の真上に吊るし上げられた。その時、客席の何人かは、その中から「にゃあーお」という猫の鳴き声を聞いたような気がしたが、その疑問は闘技場に沸々と広がっていく熱気の中にいつしか溶けていってしまっていた。
 花村業斗が、ゲートから入ってきた――



 ○


 一陣の風が円い荒野に吹き荒ぶ。
 土煙が巻き上がり、業斗は白ランに包まれた腕で顔をかばってから、自分が仮面をしていることを思い出した。いまだに、生きていた時のクセが抜け切らない。
 急に寒気を感じた。腕を下げると、そこはもはや土がむき出しの闘技場ではなかった。点在する長方形の台、そこの間を縫って漂う冷気、足元の土には霜が下りていたが、なにより目についたのは、台に乱雑に突き刺さった包丁の群れ。
 そこはもう、食用の家畜を解体する屠殺場だった。
 最初に思ったのは、どっちのものかということ。
 この景色、こんな薄ら寒い決意を胸に抱いてここまでやってきたのは、自分か、それとも?
 薄気味悪かったが、ラッキーなこともあった。この決勝戦では、どうやら千両箱は使われないらしい。つまり回銭が使えない。回復手段がお互いに無いが、それでも不利なのは門倉いづるの方――やつはお得意のブラック・ジャックを作れない。
 ふいに、頭上に影が差す。
 業斗はばっと上空を振り仰いだ。そして見た。はためくマント。
 客席の縁に片足を乗せて、こちらを見下ろしている少年――
「門倉、いづる……っ!」
「やあ、花村業斗。ようやく今日が来たね」
 急角度で睨み合う二人。観客が、ごくりと生唾を飲み込み、「なんでこんなにノリノリなんだ……?」と呟いたが答える者は誰もいない。
 業斗が叫ぶように言った。
「俺は土御門、だ。花村なんて名前は捨てた」
「ひどいな、自分の母親の姓だろうに。そんなに君は土御門光明が羨ましいのかい?」
「……なんだと?」
「言っておくけど、君がどんなに頑張ったって、きっと誰も君を家族になんてしてくれないよ。受け入れてなんてくれないよ。そんなことで家族になれるなら、誰も苦労はしないんだよ」
 一発でプツンときた。
 ちょいちょいと、お山の大将気取りのバカを手招く。
「とっとと下りて来いよ。お望み通りバラバラにしてやる」
「言われなくても」
 試合開始の鐘が、があああんと打ち鳴らされる。
 いづるは躊躇わずに、客席から飛び降りた。おおっ、とどよめく観客。客席の縁から地面は十メートル以上ある。まともに下りて痛みが足に伝われば、悶絶して戦闘不能、その場で一発敗北もありうる。
 がんっ、と鈍い音を立てて、いづるが地面に着地した。遅れてマントが彼の背中を覆う。すっくと立ち上がり、業斗へ顔を向ける。
「幸先がいいじゃねえか。痛覚キャンセル」と業斗。
「いや、痛かったよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃない」いづるはゆっくり歩いて、業斗と距離を取りながら、
「六分の五の確率で動けなくなって、君に負けたら話にならない。痛かろうが痛くなかろうが、そんなの関係ないんだ。君に最初にわかっていて欲しくてさ? ……僕は退かない。痛みじゃ僕を倒せない」
「ぬかせ――四本腕の前で、何ができる? おまえはここに降り立った時、すでに敗北してんだよ、阿呆」
「どうかな。君が四本腕になるとは限らない」
「何をバカな――」そこまで言って、ハッと業斗はそのことに気づいた。
 まさか。
 ばっと振り向いて、客席を見上げる。首を千切れんばかりに振って、探す。
 いない。
 ミクニが、いない――
「てめえ……あいつに何をした?」
「さあ? いないだけかもしれないね。でもひょっとするともっと悪いことになっているかもしれないね。さあさあお立会い。どっちだと思う? ねえねえ、どう思う?」
「ふざけんな。てめえ、あいつに指一本でも出したら承知しねえぞ……!」
「怖いなあ」やれやれと首を振り、
「彼女がそんなに大事かい? 人の夢を自分の夢で押しつぶしてきた人間が、よくもまあ正義や倫理を振りかざせたものだね」
「――――それとこれとは関係ねえ。てめえがやってるのは、畜生以下のやり方だ」
「そう思うなら、力でどうにかするしかないな。約束するよ、業斗。君がズルさえしなければ、彼女には決して手を出さない。指一本、君の聖域に触れたりはしない。僕が言うのもなんだけど、フェアにやろうよ」
「……。おまえが約束を守る保証は?」
「それは――」
 尋ねる業斗に、いづるはすっと半身になって、拳を上げて、構えを取った。





              「僕の拳に、聞いてくれ」


       

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