過去世界の失われた記憶。彼女は悩みを抱えていた。
(果たして自分が自分のままであり続けられるやろか……)
新学期――
生徒会の仕事も滞りなく進み、魔法学園での学生生活はすこぶる順調だ。しかし、時折、
記憶を取り戻す、と言ったらおかしいが、何かの予兆が自分を感傷的にさせる。幸い、ヴ
ィクトリアが後ろ盾となってくれているお陰で、国のバランスは取れている。一筋縄では
いかない霧島薙を巧みに懐柔し、山城アーチェの様なじゃじゃ馬も飼い馴らしている。
(大淀葉月と接触したいけど、情報が漏れる危険性と、幽閉すると艦は動かん)
金剛吹雪とは表面上の付き合いが続く。別にそれに対する不満はない。付き合ってみると、
専ら、他人の顔色を伺う様な弱気な性格だと言う事が判明した。
「もう少し、強うなってもらわなアカンなぁ」
「そうっスね」
王座に座っていると端から人影が見えたので、普岳プリシラは話を振ってみた。
「こういう時は、やはり、御前や」
何を考えていたかも、ある程度は解る。
「軍師ですから? 自分は先代のご遺志を継ぐ所存――」
黒い歴史が蠢く。
「ま、よかろ」
「先ほど、山城アーチェ中将から報告を承りました。どうやら、感づいた模様っス……如
何、なさいますか?」
普岳プリシラは、別段、表情を崩さない。
「枯れ木も山の賑わいやさかい……せやけどっ」
はぁー……と女王はため息をついて言った。
「――では……あー、ええと。もしや、枢密院の要求どおり、塵は、塵に?」
「アホか!」
魔法学園で教師が職権乱用して、王族を担いで軍隊を乗っ取る。お偉いさん達は潰そうと
躍起になっていた。特に、これを率いる山城アーチェの生徒からの信頼は厚い。遺伝子操
作で生まれた彼女のその身、そのものを、一部の貴族は国家反逆罪に問おうとしていた。
「まぁ、冗談っスよ」
「……それに、駒は必要になる」
普岳プリシラは顎に手を当てて思案した。
(これからの殺し合いの政争……ウチが焦っているやと? ウチは冷静や――)
一礼して、ヴィクトリアは王の間を去って行った。