Neetel Inside ニートノベル
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魔道普岳プリシラ
第四十八章『望月家』

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 数日後――
「良かったんでしょうか?」
「ん、何がですか? 望月先生」
山城アーチェは弥生と一緒に居酒屋で酒を飲んでいた。
「この間の件ですよ」
周りに目をやった後、ヒソヒソと弥生は小声で話した。
「ああ……アレ、ですか」
アレとは、勿論、金剛吹雪の件を軍に報告した件だ。
「父に聞いてみたんですが、あの研究機関は存在しません。予算計上の表向きはジーンセ
ラピーの開発となってますが、裏で操っているのは、ヴィクトリア閣下そのもの――」
「へぇ、望月タキジ先生は物知りですな」
望月タキジ。儒学者にして思想家でもある。弥生の父。ちなみに、山城アーチェを生み出
した研究プロジェクトの開発顧問を務めた遍歴も持つ。今日までの山城アーチェの成功は、
後ろ盾となった望月タキジの功績が大きい。
「んぐんぐ――プハーッ! まぁ、気にしても仕方がない。なるようにしかならないです
よ」
ジョッキを空にして、山城アーチェは生一つを注文した。
「間違いなく動いてくるでしょうね」
弥生はいつになく、真剣な表情で言った。
「我々が、そう簡単にくたばると思ってもらっても困りますな。そもそも、女王陛下は―
―」
「確かに」
皆まで言う前に弥生は口を挟んだ。神器の血族でありながら、金剛吹雪のような戦闘力を
有していない。
「不知火ちゃん――いや、少佐もご存知、でしたよね」
「そうですよ、オマケにそれが筒抜けなのにお咎めなし。若葉を堂々と掻っ攫っていった
その胆力。見習いたいモノですな」
二人の始まりの馴れ初めは――と、言う事になる。
「一度、接触した方がよさそうですね」
「……ふむ」
確かに、おてんば姫には連携して対処した方がよさそうだ。
「ヴィクトリア閣下は内心では恨んでおられます。大聖堂への浮遊大陸落としが、高雄執
政官を追い詰めたのだと。普岳プリシラ姫も引きずっておられます」
「八つ当たりですな。心外です。勝つ方法が他にあったなら、兎も角」
停戦協定には霧島薙も出席していた。あの性格なので、別段、高雄と顔を合わせても対立
する事はなかった。根っからの武人。
「――第一、マスコミが悪い」
「それは、そうですが。不満をお持ちなのは確かなようです」
(この国も、そう長くはあるまい)
人の憎悪の負の連鎖は、そう簡単には断ち切れない。そもそも、階級社会を維持する為に
神器や勇者が存在する訳ではなく、あくまで、世界の汚染を防ぐ。だから、聖剣ボルケナ
アッサプナの討ち手は王族などではなかった。
「そう言えば……」
「?」
弥生は何かを思い出していた。
「つい、最近の話らしいんですが――」
山城アーチェは話を促した。
「霧島薙さんの騎士団が不知火さんと一戦、交えたとか」
「ああ、それは担任として、厳重注意しておきました。勿論、霧島薙の後見人としての、
自分の監督不行き届きが招いた結果でもあるんですが」
否は山城アーチェにもあった。安易に身柄を引き受けすぎた。
「王制の維持は賢明……能力の低いモノが担い手になった場合、眷属との近親を生み出さ
なければ強くなれない。そして――」
「担い手の遺伝子型がホモ接合体になる確率は高いと言えど、それは確率的に言えばの話。
もし、そうならなかったら、直系の子供の命を奪い続ける」
つまり、金剛吹雪の兄や姉、親類で年上の人間は、この世には既に存在しない。
「だから、参謀部付きを嫌がったんですよね? 無能の烙印を押されれば自分の身が危う
い」
「いや、どうも、それ、違うらしいですよ。本人に聞く限り……」
山城アーチェは眉間にシワを寄せて、テーブルにひじを付き額に手を当てて答えた。
「? 何かあったんですか?」
弥生は不思議そうな顔をして山城アーチェに聞いた。
「いえ、ちょっと……」
「あら。私には内緒ですか? 気になりますねぇ~」
弥生はニヤニヤしている。医学に精通する弥生は、心理学にも長けている。相当な読心術
も魔法を使う事で可能だった。
「指し詰め、告白されたのに断った――と、言ったところですか?」
「コホン、教師と生徒ですから?」
少しだけ山城アーチェは顔が赤い。それが酒の所為なのか解らない。
「ずるーい!」
「まぁ、それは良いとして……霧島薙は留学生扱いで初等部に転入させます。その折につ
いては、望月タキジ校長にはよろしくお伝えください」
弥生は目を細めて言った。
「沢山の守りたいモノを手に入れましたね」
「そうですなぁ」
山城アーチェは相槌を打った。今年で25となる自らの年齢を感じながら。

     

 霧島薙は学校というモノに戸惑いを感じていた。自分と同じぐらいの背丈の子供と、机
を並べて学ぶ。
(考えられん……これは、アレか? 一種の嫌がらせか?)
家は、今は山城アーチェと一緒に暮らしている。この前の件で厳重注意を受けた。しばら
くは、オヤツ抜きと言われていた。
『色眼鏡で依怙贔屓しないのが、私の教育理念です!』
彼女に凄まれては仕方ない。それに――
(あの、普岳プリシラとか謂う女王と、その腰巾着。どうも、活け好かん)
ここは、山城アーチェに従う他なかった。もっとも、穏便に事を運ばなくても、この国を
制圧する自信と、それを裏付けられるだけの戦闘力&カリスマを有してはいる。騎士団を
不知火に嗾けたのは失敗したが、アレは殺すつもりなど毛頭なく……
(今や、二十万の兵を率いる大将軍。それが、何故、子供と一緒に勉強しなければならん
っ)
霧島薙はイライラしていた。ロリの外見を維持できるから初等部なのではなく、実際の年
齢も、まだ、子供なので別に不知火の様な生理痛とかではない。
(回収したガルフェニアの改修も進んでいる。高機動化は目前だ――)
パコッ――
「いった……何をする!」
教壇に立っていた蒼龍カシスは出席簿の角で彼女の頭を叩いた。
「油断大敵」
「なん……だと……」
(この教師、余に喧嘩を売っているのか?)
霧島薙は剣幕な顔で担任を睨みつけた。
「授業に集中していれば、今の攻撃など、君は回避する事ができた。違うのか?」
「余にも事情がある」
 フンッ――
 と、霧島薙はそっぽを向いたので、やれやれ、僕は叱責した――と、担任は言った。
「――で、あるからして、天と地の間隔と比較すれば、黄泉の狭間と現世までの距離を目
測する事ができる」
カシスは授業に戻り、文教族の児童達はこの國の帝王学を学んでいた。

     


       

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