Neetel Inside ニートノベル
表紙

魔道普岳プリシラ
第五十三章『ワールド・エクス・チェンジシステム』

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 その夜、少年ことはじめは釈放された。新聞の見出しは予定通り検閲を入れたとは言え、
しばらく、ある程度は泳がせながら、監視下に置く必要もあった。山城アーチェは彼との
信頼関係を構築する事に専念した。そして、疑念は晴れる事になる。何故ならば、ゲリラ
決起の日時・場所を、事前になってではあるが、はじめが総督府にリークした為だ。その
見返りに、魔法学園からの留学生という学内選抜を山城アーチェが作成した書類だけで、
一発で通過してしまった。数日後、山城アーチェとはじめのジステッド魔法学園での学園
生活が始まった。

     

 やはり、気が重い……立場上、侵略者だから身の危険すら感じる。山城アーチェ先生は『租
界の純利に課税してマージンを貰うのは、然程、悪い事ではない。軍事的均衡によって平
和を維持する為の、必要経費だ』などと言っており、頭が痛い。でも、まぁ……ここでは
完全に余所者扱いだが、ラティエナ本国の魔法学園には興味が湧いてきた。一緒にやって
いける仲間がいる。ひょっとすると、どこかで俺は望んでいたのかも知れない。魔法だけ
が特権階級を持つ世界よりも、現代科学の常識を超えても、他方の分野に渡って活躍する
人がいる理想郷に。むしろ、ハルケ・ニュー・ギニアとあそこで起こったこと全てが、単
なる幻想だった……今では、そう思うこともある。きっと、あの娘のことも――
『――っ!』
ガバッ――
ベットから少年は勢いよく起き上がった。それは、夢の中で、自分の名を呼ぶ者が居たか
らだ。懐かしい顔を見た。まだ、数ヶ月と経ってないのに。
「うなされていたのか……」
汗がびっしょり出たので、ネスゲルナはシャワーを浴びる事にした。まだ、学校までには
時間がある。
「おい、起きてるか?」
山城アーチェがインターホンで話しかけてくる。
「済みません。今、シャワー中で――」
「ふむ。まぁ、いい。朝ごはんと昼の弁当を作ってきたから、勝手に上がるぞ」
(案外に優しい人なんだ)
とても、無闇に人を殺める事を肯定する様な、捻じ曲がったヒューマニズムの持ち主では
ないとネスゲルナは思えた。
「ふー、サッパリしました」
「それは良かった。どうだ、このホテルは?」
少年の部屋は山城アーチェの部屋の隣で、当然、スイートルームだ。幾ら、魔法学園の留
学生と言えど、この待遇は反則だった。
(左遷から呼び戻されるのが遅れる原因になりかねないと、本国の望月と言う保健の先生
に怒られたとか言ってたけど……)
「最高ですね、眺めも良いし。なかなか、良いホテルを接収しましたね」
「映画俳優たちが使っていたそうだ。ジステッドでは、まぁ……マシな方か。ダウンタウ
ンに利用価値はないが、ここは選別爆撃で残した。ラティエナにはない、良い街だからな」
ここはジステッドだが、少年の知っているジステッドではない。しかし、言い伝えとして、
ウェールズ皇太子の名前が残っている。しかも、悲恋の末に死んだとか――
(どういう事だ? 俺は夢でも見ているのか……)
「賢明な処置ですよ」
モグモグ……
「で、味は?」
「旨いです」
山城アーチェのお手製料理を口に運びながら少年は答えた。
「だが、市長にはそれが気に入らないらしい。復興問題にかこつけて何かと嫌味を言う」
「俺の知ってる限り、浮遊大陸を自分の都合のいいものにしようとしていたゲリラは、あ
れで全てです。市長は抵抗する術を失うどころか……」
一応、軍事活動には参加しないと決めているので、不相応な発現は慎む事にした。
(昔は、仲間を一人、救う為に、戦争も辞さない覚悟だった。結局、俺はこの人に言わせ
れば、視野が狭いのかな?)
「そう、逆にこれからは決定的な弱みを背負う事になる」

       

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