Neetel Inside ニートノベル
表紙

魔道普岳プリシラ
第五十九章『学徒動員』

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 浮遊大陸の中立緩衝地帯に浮かぶ二つの島。闘神都市とラピュタ。魔人ルビアノザウレ
スは、このいずれかに封印されていることが調査で解った。
「時、既に時間切れ……」
本国から山城アーチェの要請で増援で駆けつけた雷暗は空を眺めて言った。
「しかし、怪我の功名だな。連邦の基地に掛かる費用を負担する代わりに、連邦国債を売
ることに成功した」
別に利回りが悪いのではなく、敵対するかも知れない。戦争状態になれば、戦勝まで国債
は紙屑になる。
「憂いは絶っておきたいからな」
加えて、二島返還を実現する事はできなかったが、浮遊大陸アルジェスは連合軍の第七艦
隊を駐留させる事により、ラティエナに主権が渡った。
「が、クロプラート遺跡はハズレでありましたな。魔人発見には至りませんでした」
八重山は、この状況を楽観視していた。
「ラピュタは農業施設で、収穫期を除けば半無人島だ。ソルカノンの波動砲で沈める」
再び、共和制から立憲君主制となった東スウィネフェルド帝国は、そのラピュタ島と闘神
都市を、演説から数時間で制圧してしまった。
「速きこと、風の如く、静かなること、林の如く、侵略すること、火の如く、動けないこ
と、山の如し」
「おい、雷暗。閣下の御前で、何を阿呆なことを……貴様も知恵を出さんか!」
しばらく、目を閉じて思案した後、雷暗は策を練った。
「知恵か、知恵な……ふーむ」
八重山と雷暗は階級が同じで中尉だった。よって、二人はタメ口だ。先に出世したとかは
関係がないと、叩き上げの八重山は好戦的だったのに対し、山城アーチェの元で学んだ雷
暗は、それは尤もだと、あまり、気にしていないのが余裕に見えた。
「頼もしいと見た」
山城アーチェは考え込む愛弟子にそう言った。
「こういうのはどうだ?」
「お?」
はじめは軍略図を覗き込んだ。この世界は異世界と違って文字が元から読めるから何が書
いてあるか解った。
「ふむ、陽動は諦めるのか。しかし――ここで、魔人ルビアノザウレスとやりあうのは誰
だ?」
そう言うと、雷暗は筆を異界の勇者に向けた。
「へ? 俺がですか?」
「お前しかいないだろ、伝説の使い魔」
既に、山城アーチェに告白した際に正体をバラすことにした。カレは過去と決別したのだ。
「伝説と言っても……魔人と正攻法となれば話しは別だろ? ねえ?」
「――ふむ」
山城アーチェは状況を把握した。
「やはり、私が出ようか?」
「いや、俺が出る。女の子を危険な目に合わせられない!」
はじめは一瞬で意見を変えた。しかし、山城アーチェがデレるいい雰囲気をぶち壊すか如
く、その時、そこに一つの伝令が入った。
「ラティエナよりフリートエルケレスが到着しました!」
若葉に不知火の夫婦漫才コンビに大淀葉月も一緒だ。会って、早々、山城アーチェは再会
を喜んだ。
「久しいな、妹は連れてこなかったのか?」
「ええ、まぁ……霧島薙さんのお供が心許ないのと、僕が死んだ時を考えて残してきまし
た」
ルリタニアは単純な戦闘力だけなら、相当、強い。加えて、気丈な彼女の語気には、人を
引き付ける力がある。霧島薙は王の器が備わっているので、その辺は直感で理解している
だろう。そして、アルガス騎士団には二十万の塀を動かす歯車になってもらわねばならな
い。代わりの警護は必須だ。普岳プリシラ、不知火、若葉、ルリタニア、雷暗の生徒会メ
ンバー揃い踏みとはいかなかった。
「それに、望月先生に、これ以上、負担は掛けられなくってよ」
西部戦線でクックルーンと周辺国家の教皇庁ルイネハンガス連盟を、カシスは金剛吹雪と
共に、迎え撃つ。遊軍として霧島薙軍はこの方面の後詰めに当てられた。主に占領地の兵
站を行う。
「あうあう、でも、本陣が高機動要塞ガルフェニアを使用することになったのです」
「抜け目がないが、作戦的に磐石だな」
内心は牽制しているが、与えられた戦力的に見れば不遇な構図ではない。
「外務大臣の霧島薙さんが『自分にも考えがある』と言い出して、再び、閣内不一致での
総辞職を、今度はヴィクトリア陸相がそれを嫌って、この譲歩を引き出せたのですよ」
選挙には金が掛かる。国力の無駄にしかならないが、外部勢力の霧島薙はそんなハナシ、
知った事ではない――という風に、ヴィクトリアと普岳プリシラは考えている。あながち、
間違いでもなく、霧島薙は最高指導者の椅子を望んでいる。山城アーチェはどちらかと言
えば、そちら側。それに加えて、生徒会のメンバーは以前の謀反とは違い、不知火を王妃
にする選択肢を残している。
「らしいな――」
そう言うと、山城アーチェは大淀葉月のハナシを軽く流して、煙草に火をつけた。
「それはそうと……」
不知火は書状を山城アーチェに渡した。
「西側諸国の参戦を受諾、だと……聞いてないぞ?」
ブレンハイム=クライムは旧帝国の東側までしか、支持基盤を扱ぎ付けられなかった。ブ
ラナタス共和国の西側半分は、独立して、動向が読めなかった。群雄割拠しており、幾つ
もの軍閥が存在し、互いに潰し合っている。
「あそこは、内戦にしか見えないですな」
ある程度は、全く違う戦闘地域に駐屯する、この八重山にも情報は入っている。
「クックルーンに向けて南西へ向かえば良いんですけど……」
若葉としては妹の身を案じてだろう。しかし、その為には新生オグ王国を抜けねばならな
い。新生オグ王国はテチス海に浮かぶレンシス島を下界の領土とし、クックルーン大陸へ
は、そこから、オッテス大橋(通称『ビッグ・ブリッジ』)が、大小の島々が点在する排他
的偶像崇拝水域に掛かっている。この地は天使と人類の軍事的緩衝地帯であり、天使を倒
すのは不可能に近い。よって、八重山はアテにしていなかった。若葉は霧島薙の謀反を危
惧した。
「西側諸国は東スウィネフェルドの本拠を攻めるだろう」
山城アーチェはバッサリ言い切った。八重山が情報収集しているデータから判断した。
「霧島薙ちゃんにとって、この報せは捨て置けなくってよ」
全員が無言……状況は芳しくない。
(何か、明るい材料はないものか……)
そこで、それまで黙っていた雷暗が口を開いた。
「或いは、これで、ここの包囲は解けるかも知れないが――」
「ああ、何か釈然とせん」
八重山は渋い表情で言った。重苦しい空気の中、山城アーチェは煙草の火を消した。
「要は――」
はじめが口を開いた。軍人じゃない彼に、視線が集まる。
「魔人を、倒す」
「そうだ。切り札を失えば、外交交渉で真っ先に講和だ」
教育総監は断言した。しかし、新たな面々は不思議そうな顔をしている。
「で、彼方は誰なんですの? 私、自己紹介を受けてはなくってよ」
不知火が旧に顔を近づけて聞いてきた。少しだけ、興味が湧いた様だ。
「あ――俺は、一応、皆のご学友と言うか……えっと、その」
はじめはしどろもどろした。それを見た八重山は詰まらなそうに見ている。
「やはり、ナンだな。お前」
異世界では胸の大きなサブヒロインがわんさか居た。その頃を思い出した。
「済まない、私から紹介しよう」
山城アーチェがはじめの肩をぐいっと寄せた。不知火は彼の素性を知らない為、自らに流
れる補助種族の血によって、本能的に引きよさられていることに気づいていない。
「これから魔法学園の生徒として一緒に戦う伝説の使い魔、はじめ=エスティームだ。正
体を隠す為に、私の親戚という事になっている。作戦遂行中のコードネームはネスゲルナ
だ」
それを見て大淀葉月が『おおおお~』と久しぶりのリアクションをしている。
「おいっ! 大淀葉月せ、戦場では名前など意味がないのだ!」
茶化された山城アーチェは大淀葉月を叱責した。これは珍しいことで、大淀葉月は中立派
であり、主力兵器の中心核でもある。そして、魔法学園の生徒ではなく、軍属でもない。
表向きは執務官だとか、秘書だとか、適当な役職につけているが、フリートエルケレスが
航行する度に部署を異動している。文句を言うのは筋違いと言うもので、こういう対処を
軍の将官クラスがすると、案外、脆くなる。この場は八重山を除けば差して問題ないが、
管轄外に口を挟むと軍政など長くは続かない。
「私は生徒総会長の不知火=R・スカーレッド、こっちがフリートエルケレスの艦長を務
めるフィアンセの若葉=秋雲。よろしくて?」
「私は人間とフェアリーのハーフ、大淀葉月というのですよ。恋人は募集していないので
す、あうあう」
手短だが自己紹介を終えた。
「と、言うことは浮遊大陸を落とした……張本人?」
「私は嘘を言った覚えはないが?」
はじめは『嘘……だろ……』という顔をしている。
「この国は色々と狂っとる、お前も速く馴れろ」
八重山は上官の前だが悪態をついた。それは、中枢本部に対する批判と言い訳ができる。
しかし、本当の意は、子供に大人が命令される現状を皮肉って言った。能力主義と軍の機
敏な政治の舵取り。両立するのは難しい。
「はぁ……何を驚いているのかは知らんが、この俺様を含め、いつも、この調子だ」
雷暗は溜息をついて言った。
「さて、それでは、ソルカノンで天空城を破壊する作戦に移る」
司令室を後にして、各々が配置に向かった。
 数日後――
 フリートエルケレスとローレンバルトは出撃した。そして、浮遊大陸を捕捉――
「波動砲エネルギー充填」
「電影クロスゲージ明度20」
機関室と砲撃主が艦橋へ報告する。
「セーフティロック解除!」
八重山が号令を出した。
「薬室内圧力上昇」
砲塔から状況報告――
「対ショック対閃光防御オン!」
山城アーチェが総員に告げる。
「エネルギー128%」
「発射ぁ!」
八重山の咆哮と共に、ソルカノンが火を噴いた。
「着弾まで3秒、2秒、1秒……衝撃波、来まぁす!」
オペレーターが叫ぶ。
「やったか!?」
山城アーチェだけでなく、この時ばかりはフリートエルケレスの生徒全員も固唾を呑んで
見守った。
「視界回復。映像出ます!」
そこには、跡形もなく消し飛んだ為、空が映し出されていた。
「ふむ」
「一仕事、終えましたな」
進駐していた艦隊も僅かながら存在していた様だが、木っ端微塵になって落ちたらしい。
しかし、この件が、後になって浮遊大陸群の反感を呼ぶこととなる。

     

 更に、数日後――
「残るは、魔人ルビアノザウレスの眠る闘神都市だけか……」
その名の通り、空中都市なので市街戦になる。山城アーチェは呟いたが、しかし、今日の
テーマは別件だった。
「阿武隈公がソルカノンの所持に抗議している」
「誰ですの?」
不知火は聞き返した。
「ジステッド王だよ」
ネスゲルナは不知火に答えた。ネスゲルナと若葉は似ている。端的に言えばキャラが被っ
ている。唯、有している能力が違うだけ。
(しかし、その違いが大きいな)
「返答はしておきました。次に発射できるまでは四半世紀掛かると」
八重山は事実を報告した。
「それなら、ラピュタの神の雷とお相子ではなくって?」
事実上、飛行石が再製不能な為、再建造できないから騒いでいた。
「今回の騒乱は、独立の機会を奪う良い口実だった。浮遊大陸を指導してきたのは、私だ。
逆らうなら叩き落とすしかない」
もう一押しで、制圧できる。
「けど、民意を束ねられるのは、ヤツしか居ない」
雷暗はレムレース出身の貴族なので、事情には詳しい。
「空を磐石の橋頭堡にする為、闘神都市を制圧する良い方法はないか?」
山城アーチェは皆に聞いた。
「閣下! 出撃すれば、ハルバードに挟撃される恐れがあります!」
八重山は真っ先に進言した。この見解は正しい。
「今は、焦るべきではなくってよ? 本陣が北へ押し上げておいでですわ」
「そうだね」
若葉は同意するだけだった。西側諸国と同時侵攻作戦を取るもよし。本陣が圧力を掛ける
だけでも、魔人を復活させられる。
「しかし、逃した大魚は大きいぞ? そうだな、雷暗」
山城アーチェは話を事情通の雷暗に振った。
「闘神都市は、闘神と呼ばれる強力な人種が実効支配している。特定の人間だけがそうだ。
もっとも、空戦機甲さえ装備していれば、どうということはないが……」
「それでは、浮遊大陸の民主化のプロセスを民衆が歓迎するのは必然ではなくて?」
不知火が遠まわしに答えた。
「つまりは……えーと」
ネスゲルナは頭が弱い。
「阿武隈は軍を動かさなくても漁夫の利が得られる。ハルバードで挟撃を掛けるフリをし
て、市街戦を避けた功績が棚からぼた餅だ。民衆はこぞってヤツを持ち上げるだろう」
雷暗が説明した。
「汚ぇ、あのジジイ……」
ネスゲルナは怒りを顕にした。
「けど、不憫なのは霧島薙さんだよね……それを考えると、ヴィクトリア陸相はガルフェ
ニアで、一気に、このタイミングで国境を越える公算が大きいよ? 浮遊大陸郡が主権委
譲を騒ぎだす前に、本隊は東スウィネフェルドを叩く」
若葉は魔法学園の生徒全員の命を預かる艦長だ。冷静に分析していた。ここが、最大の難
所だ。
「クックルーンでは、最終的に地上砲火で空を攻撃しなければならない。カシス殿は精兵
五千の武装カガヤルナウス龍機兵を率いているが、制空権を抑えるのは無理だ」
山城アーチェは西部戦線が精彩を欠いていると感じていた。
「金剛吹雪とるなで有に一個師団のペガサスナイトを葬れるハズ。魔王ゲルキアデイオス
を倒したのは伊達じゃない……しかし」
「一先ず、連邦に闘神都市を攻撃させるのは妙案だと思うのですよ」
それは、ラティエナの考えた罠だった。魔人の矛先を連邦に向けさせるだけで良い。しか
し、クックルーン大陸は沿岸諸国連邦との貿易摩擦により、自由貿易協定を迫られていた。
本土の税法撤廃により、ラティエナへの外資進出で貨幣価値は上がった。その強いマネー
で、非魔装国家が空戦機甲に対抗し得る軍備拡張の為に発行した、国債を買い占める。よ
って、将来的には金利だけで国家予算が上回る計算になる。それが、更なる投資を生んだ。
回復法術のあるこの国は、医療や福祉、介護にも税金をあまり投入する必要が無い。しい
て言えば、教育だが、剣と魔法の世界でこれもあまり必要ではなかった。確かに、農業プ
ラントなどはあるが、ほぼ、全自動――壊れたら、まとめて、軍事費から捻出する。そし
て、機械弄りができるのは、この国において、工兵のみだ。取り分け、優秀な技術者は霧
島薙軍20万人しかいない。クックルーン大陸の外海に存在する魔法が使えない国とは、
決定的な差がある。よって、自国通貨の貨幣価値が上がったからと言って、非課税が維持
できる以上、貿易赤字にはならない。それと、亡命も絡む。魔法が使える家系に入りたい
と言う人間も居る。ただ、問題は、そもそも、この大陸に魔法を使える因子を持った人間
を、超科学文明が終末を迎えたとき、全て、危険因子として閉じ込めた。
(代理戦争は過去・現在・未来まで続く――)
「大淀葉月、それは、逆だ。よしんば、連邦に攻撃されたら、これを取引材料に我々はW
HOの世界貿易協定に署名しなければならん。それこそ、連中の思う壺だろう。恐らく、
阿武隈のバックには、ルーラシアン沿岸諸国連合のCIA(セントラル・インテリジェン
ス・エージェンシー)がついている」
(しばらくは、様子見――か)
「参謀本部に連絡しなければならないけど、霧島薙さんを外務大臣に慰留したのは、ヴィ
クトリア陸相にとってアダになるかな」
しげしげと、若葉は世界地図を眺める。
「魔人といい、本国といい、剣呑な情勢となった。どの道、この地は行くところまで行か
ねばならん」
山城アーチェは空を見ていた。

     

 数日後――
 ジステッド野党議員の一部が国政調査権に基づいて、総督府の山城アーチェ=エスティ
ーム教育総監を証人喚問しようと動いたが、山城アーチェはこれに応じず、握り潰した。
変わりに、国防長官を務める厳島春日丸卿が国会の審議委員会に姿を表した。
「ソルカノンの波動砲によって農業ブロックの一つが破壊され、集約設備の損傷によって
残る二つも機能を停止した。我がサイドにとって、これは、全農業生産力の八十分の一が
失われたことを意味する」
彼はまくし立てた。
「しかし、ことは単位八十分の一の生産力失陥では済まない! 済む訳がない!」
「そうだ!」
議員達からも同意の声が上がる。この中継を領事館で、山城アーチェをはじめとした主力
幹部は見ていた。
「ほう、面白いな……煩わせてくれる」
「仮面はつけたままだ」
春日丸は仮面で顔を隠している。ネスゲルナはそれに気づいた。
「そうだな」
雷暗の返答を聞くに、浮遊大陸出身の彼も知っている人物なのだと、ネスゲルナは気づい
た。
「私はどなたか存じ上げなくってよ?」
「戦艦ハルバードの艦長でありますよ、少佐殿」
八重山が説明した。
「既に市場では食料分が値上がりしている。市民はパニックから脱してはいない。それど
ころか、ラティエナの処置に激しく憤っている!」
「その通り!」
この辺りは事実なので争点ではない。
「元々は特務機関の職務怠慢が原因である。それなのに、総督府は謝罪せぬばかりか、常
にも増した食料農産物の納入を、我々に求めてきている!」
この場合、特務機関とはラティエナ魔法学園生徒会を指している。空戦機甲部隊の戦果は
降魔戦争によって世に知らしめる事となった。但し、諜報機関というよりも、秘密警察の
様な組織だと世界では認識されている。
「とても、その……ナンだ。私をナンパする様な器に見えない。正直、幻滅した」
山城アーチェは自嘲気味に言った。確かに、食料生産物の納入は求めてはいるが、それは、
どちらかと言うと、総督府はジステッドは敗戦国だと勘定に入れた上で、割高で買い取っ
ているつもりだった。勿論、通常より安いが、敗軍の将が文句を言うなというハナシだっ
た。確かに、非魔装国家に比べて浮遊大陸群もクックルーン大陸の一部なので、魔法を使
って利便性を上げている。国土は小さいが貿易立国だ。それを、ラティエナは中間搾取し
ている。
「俺は違うけど、男ってそんなモンだから簡単に引っ掛からないようにしてくださいよ」
ネスゲルナがよい機会だと思い、この際だし、言って置く事にした。
「そうですわね。この道化師、教官を口説いて良いような人物には、とても、見えなくっ
てよ。釣り合わないのではなくって?」
不知火は口に手を当ててムフフ……と笑った。
「いや、前提として、教官の口からナンパなんて言葉が聞ける方がおかしいよ、不知火」
「そこは突っ込んではいけませんわ」
これを聞いたネスゲルナがキレた。
「おい、手前ら、表へ出ろ!」
「何だよ、何を怒ってるんだよ? それと、俺の嫁には手を出すな! ブッ飛ばされたい
のか?」
若葉とネスゲルナの喧嘩を尻目に、八重山はビデオ録画を始めた。
「あうあう、煩くてテレビが聞こえないのですよ。中尉殿、感謝するのです」
「そう言ってくれるのは、アンタだけだ」
(労を労ってもらえるのは嬉しいが、こんな小娘では、な……)
と、言わんばかりに八重山は不満そうだったが、事態は収拾しそうにない。
「あー、若葉。私が言ったのは事実だ。先日の阿武隈公主催の舞踏会でだな――」
山城アーチェは眉間にシワを寄せながら苦渋の表情で言った。
「まぁ、教官殿が舞踏会ですの!?」
不知火はオーバーに驚いた。
「がはははは、シンデレラの姉もびっくりではないか!」
雷暗も盛大に馬鹿にしている。しかし、八重山はこれを見て感心もしていた。この若者達
の結束は思ったより堅い。
(この戦争、もしかすると、勝てるやも知れん――)
大淀葉月を小娘だと思ったが、八重山にも子供が居る。そして、やがては彼らぐらいの年
になるだろう。少しだけ、彼は考えた。そのときまで、職業軍人である自分が生き残って
いなくとも、娘は――
(……ふむ)
因果なものである。

       

表紙

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Neetsha