Neetel Inside ニートノベル
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魔道普岳プリシラ
第六十二章『覚醒の予兆』

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 (数日後、魔人ルビアノザウレスは降臨する事になる……っス)
 場所は女王普岳プリシラが自ら指揮を取る、ラティエナ北部本陣。しかし、公にされて
いなかったが、その直前、普岳プリシラは病に掛かっていた。
「ナンや……この感じは!?」
ガタガタ震えながら白髪になった頭を抱える。一種の錯乱状態に陥っている。
「落ち着いてください! 陛下!」
「嫌や……嫌やぁ!」
ヴィクトリアが面倒を見ている。強烈な存在が自分の心に接近してくる。前世の覚醒が始
まっていた。ヴィクトリアと白鷹は人払いをし、兵は動かせない状況だった。女王の姿を
公に出せないと政情不安定となる。幸い、本国は、霧島薙が造反などを行動に移そうとし
ない。それ以前に、エリッサリアの暫定自治に対して国会論争が続いていた。今、霧島薙
に組してヴィクトリアの背後を忍び犯し、第五列になろうと言う者は少ない。何故なら、
霧島薙は回廊の権益を主張ばかりしているからだ。議論は平行線だが、不自然な点なく時
間を稼げている。
(霧島薙殿、恩に着るっス……)
先代が記憶喪失である事を知っている霧島薙に、大きな借りを作った事になる。むしろ、
ヴィクトリアには今までの怨み辛みを水に直し、新たな関係を築くチャンスにも見えた。
その矢先――
「指令! 高雄議長の軍勢が、目下、此方を目指して南下しています!」
白鷹から悪い報せが入った。二人はオペレーションルームに向かう。
「タイミングがこうも悪い……いや、よしんば、ここで決戦――か」
浮遊大陸から封印された魔人が移送された可能性アリとの報告を受けている。他は全てが
順調だった。
「複雑でクックルーン教皇庁圏内が一つにまとまれば、沿岸諸国連邦、及び、非魔装国家
軍は、これを攻撃する」
「確かに、それは避けなければならないっスよ」
その旨を、カシスには伝えていない。
「だから、浮遊大陸の傀儡(くぐつ)が、影響力と地位を向上させんとした場合、先ず、
こちらの背後を狙うフリをしてアルジェスを我々に、闘神都市を連邦に――」
「その見返りとして連合にテチス海の排他的偶像崇拝水域に潜伏する極右にスウィネフェ
ルド領を攻撃させて、魔人の矛先をレンシスへ向けさせる……と見せかけ?」
白鷹とヴィクトリアは床のパネルに映し出された軍略図を眺めていた。
「実際は、極右は悪魔崇拝と連携するはずがなく――」
「まぁ……むしろ、その点は厄介払いっスよ。言うなれば、対岸の火事――」
そして、自分達に魔人を向かわせれば、最初の前提条件だった対立構図は崩れない。
「唯、我々が侵攻しなければ、正統な後継者である霧島薙殿の立場を窮するモノであり、
とても、攻めて来ようはずがない」
ヴィクトリアは、当初、楽観的だった。
「……この高機動要塞が目障りなのでは?」
「本城なくば、抑止力にならない。それは、旧世界における、弾道ミサイるなどの運搬手
段を持たない核兵器のようなモノ……ええい、何故、議長はそれが解らん!」
ヴィクトリアは歯をギリッと噛んだ。こうやってイラ立てると、よく、山城アーチェに昔
は窘められていた。しかし、それも、昔の話。
「カシス中将の部隊に補給をするよう、本国の霧島薙殿には通達済みです。議会の了承を
得て、間もなく履行されます」
クックルーン側の戦線は、空戦機甲の威力を存分に発揮して、金剛吹雪一人で数十万人を
屠れば、以前の様に、ラティエナ王国を分割統治などというプランは、少なからず、当面
――半世紀は防げる。侵略が目的ではなく、大聖堂の奪取は、むしろ、連邦との関係を悪
化させる。
「そうだ、議会の連中っスよ。回廊の併合だって、真面目に議論していれば、目くじらを
立てられるほどの事ではない。ミリタリーバランスを重要視する上で、新たな王政を擁立
して何が悪い!」
若葉は勇者なのだから、国家元首ぐらいにはなれなければ、むしろ、クックルーン教皇庁
圏内における宝剣ヴレナスレイデッカの伝承を持つ王朝の、沽券に関わる。それは、霧島
薙の思惑通りでもある。金剛吹雪か普岳プリシラが死なない限り、領土拡張は義務である。
「不知火少佐が暗躍していると言う噂が――」
「あんな小娘には何もデキないっスよ! そんな、くだらない事を言ってるから、昇進し
ないんスよ!」
シャーっと、ヴィクトリアは蛇蝎の如く舌を出した。そこへ、不意にドアが開き、女王が
よろめきながらオペレーションルームに姿を現した。
「陛下! あまり、無理をしては駄目っス!?」
「――奴が……奴が来る!」
普岳プリシラは息絶え絶えに言った。ヴィクトリアと白鷹は顔を見合わせた後、女王に聞
いた。
「あ、アイツとは、誰の事でありましょうや」
「……奴や、奴よ! 狂気の代弁者がやってくるッ」
それは、普岳プリシラが目覚めつつある前世の記憶だ。
「――屍臭を巻き上げて握り締めながら、黒い鉄馬を引きずって真っ直ぐに!」

       

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