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表紙

魔道普岳プリシラ
第六十八章『竜宮城』

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 季節は、まだ、夏休み――
 霧島薙、ルリタニア、如月八房の三人は、雷暗の実家である大阪城を訪れた後、レムレ
ース鎮守府『五稜郭』に入城した。
「夏休みに入ってまで補習授業とは……余は浮遊大陸の夏は蒸し暑くて嫌いだ」
北国育ちで色白の彼女らしい。
「でも、雷暗の女狂いは、そうでもなかったみたいで、良かったよ」
地元では賢君で通っていた。
「だから、私様は殴るなって言ったのよ。先方も合法的に勝ち馬に乗りたいだけだから、
事はトントン拍子で進んでたんだってば」
そう言いながら、ルリタニアは庭先に大量に運び込まれた日本刀を品定めしている。当然
ながら、炎天下の中、外での作業になる。レムレースでは大規模な刀狩りが行われ、村雨
を探していた。
「余も、弟や妹ができたようで、なかなか、具合は悪くなかったぞ?」
大人の所為にしていると思った如月八房は、女王を叱るよう、ルリタニアに目配せした。
 しかし、無視……そこへ、飄々と雷暗がやってきた。
「あなたこそ、紋章術の具合はどうなんですか?」
ここに来る前、紋章を手に入れた後、放課後、後者裏に呼び出して、如月八房は雷暗を殴
っていた。二人が喧嘩をしているのを察知して、逸早く留めたのは、再び、金剛吹雪だっ
た。如月八房をつけていた様だが、紋章を確認した後、安心していた様子だった。理由は
聞かなかった。偶然、通りかかったという事にしてある。
「具合も何も、火属性しか使えないよ」
威力は確実に落ちた上に、勇者としての資質も失った。不知火は哀れむ様な目で如月八房
を見ればこそ、敵意を露にする事はなくなった。
「殺されるよりはマシね。それに、私様は火遁の術を授けたわよ」
精霊の様に人を使い魔にする場合、亜空間にしまう能力が必要になる。それが、伏姫の神
性遺伝と呼ばれる『神隠し』に該当する。優性遺伝と劣性遺伝を別けたのに、山城アーチ
ェとルリタニア、二人が同じ能力を持っている理由を如月八房は聞いた。
「えーと、そう言えば、二人は同じ能力は持ってなかったんじゃないのか?」
「あー、神性の話か……余が説明してやろう。元帥の場合は『男子魂』の精神犠牲によっ
て女人でも成仏できる。その為には弁才天と違って、処女性を有する必要があり、単性生
殖機能に至る。ま、これは、逆でもあるのだが、言っても解るまい」
如月八房は『うーん』と考えて言った。
「つまり、男子魂を手に入れて、精神犠牲で概念武装か。その為には単性生殖の女人とな
り、神性を有する」
「その通り、精神犠牲が天然理心流を神の領域まで高めた」
雷暗は答えた。三段突きは神速。正確には、一次元攻撃ではなく、三次元攻撃を三回、加
えているが、蓄積ダメージが一次元から受けた物に変換されている。相対する脳波コント
ロールも彼女の前では99%であり、その1%毎秒α波の間隔で、三回攻撃した場合、三
度目の正直は反射不能に陥る。つまり、一次元攻撃で崩れる理由が、100分率の割合は
列記とした概念であり、それが変形代数学を書き換えて戦う魔獣を一点突破する切り札だ
った。
「しかし、霊刀・菊一文字は折れたし、こんなに刀を集めて何をやってるんだ?」
「……いや、今の説明――解っておるのか?」
霧島薙は問い正した。
「あー、いや……えーと。そうだ、元の紋章を山城アーチェ先生は授けた訳ではない、か
な?」
「そう……だが、要領が悪いな。飼い主の躾が悪いのではないか? やはり、ここは――」
ルリタニアはげっそりとしていた。自分が説明はしたくない。以前も雷暗に対して向けた
この表情は、如月八房に自らの貞操観念を悟らせろと、女王に催促された為だ。
「あの、ね……いい事? 私様の好みは、もっとこう――そう、大局的に物事を見られる
人。決して、勇者思考じゃないわよ」
「成る程、ヴィクトリア殿のことか?」
霧島薙は姫に尋ねた。
「んー……」
ルリタニアが黙っていたので、如月八房は意外だった。
「へぇ~、でも、俺達を苦しめた圧政者じゃないか」
「いや、まぁ。アンタは、少し、黙りなさいよ。好きじゃないわよ? ただ、あの方が居
られたから、天使型アンドロイドは攻めて来なかった訳で……どう思います?」
ルリタニアは駄犬は黙殺して、二人に話を振った。実質的に、これからは軍師と外交、内
政は分割する必要がある。
「そう、ですね……マザーグース・天霧ソフィアが、いつまで、拒否権を行使するかが、
不透明」
マザーグース・天霧ソフィアとは、ヴィクトリアの母のことを指す。天使が一人でも拒否
権を行使すれば、連邦は、直接、軍事制裁は行わない。
「余の情報だと、黙っていて――悪いがな。ステルス迷彩アトランティスは浮遊大陸まで
は、届かない。下手をすると、全ての空の領民が、人質に取られる」
「陛下自ら出向かれて、調査とは……確かに、大坂城に結界を張ると、出られなくなりま
すからな」
それは、大胆不敵だった。如月八房だけ聞かされていない。
「子供だけでも連れ出そうかと思ったが――逆に、人質だと言って、お主は余を信じぬ」
「私様も心中はゴメンだわ」
しかし、大坂へは空戦機甲を持参しておらず、三人には敵意がない。寝首を掻ける機械は
あった。途中からは、物見遊山だった。
「浮遊大陸を着挺させて、アクアラインを引くと、どうなるんだ?」
「地脈で結界を城と要所に張りますゆえ、穴を掘るというわけには――」
如月八房は、また、見殺しにするのは御免という感じだった。
「他に手はないのかよ?」
彼はいつものテンションだった。
「はぁ……だから、こうやって、刀を品定めしてるんじゃないの」
雷暗はパタパタと扇で涼む。
「ま、それで、全部です。姫君」
君主は霧島薙なのだが、この辺りが、認識の違う点。
「不貞腐れて居るのか? 別に、余は構わぬぞ。何度でも前線に出撃してやる、戦となれ
ばな」
そう言った、国王の頭を雷暗は撫で回した。
「利用されているのは、アナタの方です」
「大した自信だな。城が落ちない根拠があるのか。なら、余は、前線部隊を――ここ、鎮
守府に配置してくれる」
しかし、それを聞いて、困った顔をしたのは姫君と呼ばれたルリタニアだ。
「20万のウィルザッポル魔工兵団の兵糧と弾薬を、ここに配置しても補給できません
よ?」
それを聞いていた如月八房は疑問を口にした。
「ジステッドを味方につければ、浮遊大陸群総力を挙げて、撃退できるんじゃないか?」
今度は霧島薙が飼い主に目配せした。
「あのね、前提条件として、クックルーン大陸だけステルス迷彩アトランティスで覆うま
で、持ち堪えられれば良いわけ。そうしたら、幾らでも増援が送られるわ」
本土が決定的打撃を受けないし、高雄議長が支援を受けている連合の補給も難しくなる。
「なら、尚更――」
「いや、違う。ジステッドは逆に中立を保てば、攻撃を、ここに集中させられる」
霧島薙の指摘で、山城アーチェと舞踏会の後、阿武隈公に謁見した事を思い出した。
「ああ、あの汚いジジイだってことを忘れてた」
雷暗が付け加える。
「そして、戦火に曝されなかったことが持て囃され、連合が主権侵害を行わなかったとい
う象徴的存在になる」
片や一方、此方は、という話だ。
「山城アーチェ先生や、八重山さんに――よいしょ! チッ……これも、ダメか。懐柔で
きると思う方が、期待し過ぎるわ。左遷の意味を取り違えてるわよ。あ、他意はないわよ?」
「あ?……ん?」
如月八房は眉間にシワを寄せた。
「単純に、亜魔族に物理攻撃が効きづらい。軍属上がりの教諭で対人専門だから、魔法学
園の教師は勤められない。本当は、それがあったんだけど」
姫は、少し、悲しそうな顔をした。
「当初、魔法学園を軍に組み込む事を反対していたんだよね……」
雷暗はチラッと横目で霧島薙を見た。
「な、なんだ!? 今更、余の所為だと言うのか!」
霧島薙は憤慨したというより、非難した。
「えっと、仲間割れは――」
如月八房は、多少、動揺した。
「いや、まぁ……その、ナンだ。連合の支援の元、ヴィクトリアの首さえ取れば、余は、
大陸の『内乱』が終結すると思っていた」
それは、天使同士が争う事になる算段だった。『法王』 NATO・ルーン・響による分割
統治、最初から、目下にない。教皇庁に裁判をさせても話しにならない。
「実際は、ヴィクトリア中将がいなくなった方が、マザーグース・天霧ソフィアは拒否権
を行使しない――陛下が大坂に住まわれてはどうですか?」
妙案では有るが、それは、どこが狙われるか、解らない。
「ああ、もしかすると、ジステッドを制圧する可能性が出てくるのか?」
如月八房は楽観的な話をした。
「そう……私様としては当たるも八卦、当たらぬも八卦だけど、本土に宣戦布告しない限
り、外国債の金利は保証される」
そろそろ、ギャンブルにも天井が見えてきた。雷暗と霧島薙は外様大名でしかない。
「そうすると――レムレースも狙われない?」
霧島薙は首を振って反論した。
「バカを言え! 寝返ったフリをしろと言うのか!?」
「違いますよ、戦争は起こっていない訳ですから。ラティエナと私様は陛下を訴追するこ
とはない」
無条件降伏したところで、連邦に亡命すれば、普通の余生が送られる。
「んー、代理戦争の椅子から外れてもらった方が、確かに、助かるかな」
如月八房も同意した。それは意味が違う。民主国家の資本主義社会で、普通の人生を送る
選択もある。
「重婚そのものは、連邦が認めている国も連合内にあり、戦争状態にさえならなければ、
民主化のプロセスで罪人扱いも、雷暗先輩に及ばない」
「まぁ、そうかもね……」
これは、しかしながら、違う。この手は本土が攻撃を受ける公算が高い。
「逆に言えば、本土を攻撃しかなかろうが!」
「いや、しかし……ですね、浮遊大陸の内外に正規軍の指揮官を配置したら、レムレース
は攻撃の対象に――」
霧島薙のクーデター扱いも成り立つ。徹底抗戦は望む所だが、負け戦で総大将が子供では
浮かばれない。
「それは、アトランティス完成がいつになるか聞かされていないからであろう?」
三人は顔を見合わせて苦笑いをした。その後、泣き笑いをしていた。
「むぅ、余を謀るのか?」
「いや、ちょっとですね。話していたわけですよ。生徒会匿秘ではなく、生徒総会で」
生徒総会とはフリートエルケレスのクルー全員を指す。
「如月八房は出られなかったけどね、お姉さまが暴れるから」
何か、自分の知らないところで、それも、与り知らぬ領分。ことを動かされて面白くない
と言うより、気負いすぎていたのが、三人には解った。
「今一度、聞きます。大坂城に、何故、残らないんです?」
「えっと……余に残れと? ハァ?」
また、死人が出る。それは解った上で、あの艦を動かす。
「沈みませんよ、陛下が居られなくても、例え、山城アーチェ先生が帰って来なくても」
「――しかしッ!」
雷暗は口を挟んだ。
「ステルス迷彩が島を覆うだけなら、むしろ、望むところ……かな」
「自分達が入学した時、まだ、16でした。私達はアナタが4年後、魔法学園に入学する
姿が見てみたい」
国王である前に後輩を死なせるわけには往かなかった。それは、亡き、普岳プリシラの意
向に暗に従う物だ。
「手立ては尽くしたつもりです。魔王ゲルキアデイオスゲルキアデイオスを倒したら、い
つのまにか、戦争になっていた。ヴィクトリア閣下や山城アーチェ先生は生い立ち上、仕
方がなかったんです。軍人だったから。だから、教官と、親しみを込めて呼び続けました」
おそらく、それは、これから先も――
「自分は、姫が学園に来た頃を思い出して、泣いていただけです」
ルリタニアは目尻に涙こそ、給っていたが、笑って言った。帰らぬ人達のことを思いなが
ら。
「歴史は圧縮してゆくのだ。勝者にしか祖国の栄誉は与えられぬ!」
霧島薙は食い下がって反論した。
「それでも、悪戯に兵を傷つけるマネは賛同できないよ」
如月八房は言った。霧島薙は本土防衛の為、ウィルザッポル魔工兵団20万を投入する計
画を立てていた。そして、雷暗は付け加えた。彼女を抱きかかえて――
「あの艦と空戦機甲がなくなれば、再び、大陸が連合の干渉を受ける危険性は減ります。
本土も、あなたの古里も、戦場にならずに済みますよ?」
少数ではあるが、ステルス迷彩を島に施しても、相手は突入してくる。視界を遮り、磁器
とレーダーを働かせない分厚い大気層を構築しても、完璧な壁ではない。
『浮遊大陸の子供たちが一日でも長く、安泰に暮らせるなら、我々がこの島を守る一日に
は意味があるんです――』
かくて、霧島薙は鎮守府を去り、翌日、再び、大坂城へと入った。名目は最上財閥の解体。
国主自らが行っても、違和感がない。そして、連邦はレムレースの調査に乗り出した。雷
暗の隠し子同様、霧島薙自らも、年齢と性別を考えれば、人質である事……調査が始まる
前に、三人は本土へと引き返していた。
『今は、まだ、詳しくは言えません――ですが、必ずお迎えに参ります……陛下』
別れ際、ルリタニアはそう言って霧島薙を強く抱きしめて、接吻した。長かった少女と童
女による二人の蜜月は、ここで、終わりを告げる。

     

 調査団が連邦議会へ報告する前に、フリートエルケレスは絶対防衛圏であるステルス迷
彩アトランティスの守備範囲の外へ陣取っていた。無論、全空戦機甲を搭載して。それだ
けではなく、若葉が転向してきた当時の、魔法学園の三年生――ゴブリン退治の時に軍を
追い払った彼等を含めて、今はリュテェナの魔導師の端くれとして。OB達も対空銃座の
砲門を増やし、志願していた。亡き山城アーチェ先生の教え子として、そして、不知火を
初代生徒会長に選任した魔導師としてだ。
「ラティエナはがら空きだけど、無用な血は流れないわ」
兄妹で戦うのは初めてだった。
「少なくとも、この戦いを終えるまではな……」
若葉は妹がジーン・リッチである事を、最近、知った。無作為に伝説の剣が選ぶはずがな
い。大淀葉月はファーストキスを奪った事を詐欺呼ばわりしていたし、不知火は彼の妹フ
ォルダを速攻で削除していた。
「ここは領海の外。ラティエナの主権侵害が認められれば、撃沈されるのであります」
「それは、いささか、聞き捨てならなくってよ」
魔法力の過度な消費は一次的な老眼をもたらす。周囲を捕捉する為、時間軸をプラトン立
体で空間を把握して、五行に変換して表示する為だ。
「言われなき戦争は、最初で最後に――」
姫君は雷暗の口を挟んだ。
「絞首刑より、前線で戦って死ぬ方がマシだわ!」
「落ち着けって。それに、お前が姫とか、どうかしてるだろ? こうやって、情に訴えて、
投降すれば――」
その時、何かが艦の外で爆ぜた。
「そうでもないようでありますな」
ラティエナは最後の予算編成を、霧島薙は国債の空売りに当てていた。これは、国家予算
だけではなく、国の所有する法人団体の予算執行に対しても、停止命令を出していた。そ
うすることによって、空戦機甲全滅によって本土から流出しようとする企業を留められる。
連邦は彼女に恩赦を与えて、大坂城に幽閉した。天使が攻め込めば、自滅に等しい策で、
本土で徹底抗戦しようとしたという意思は見えれど、結果が見えている為、合い反目する。
むしろ、降伏に等しい。
「時間が稼げれば何とかなるのです。ふっ」
「ナニをキザってるのかしら?」
大淀葉月は死なないので、余裕をぶっこ抜いていた。山城アーチェの口真似をしているつ
もりだろが、声にカリスマが感じられない。気丈に振舞うのは、周りが死ぬのは、彼女も、
つらいから。人として振舞うのは、これが、最初で最後かもしれない。再び、剣に宿す力
へと戻る。それは、歴史の傍観者である勇者の守護霊として――
「呑気な事を言ってる場合じゃないが、やっぱり、バラバラに逃げた方が良かったんじゃ
ないか?」
艦長である若葉は、バリアへの中距離ミサイル着弾を確認して、全員に問うた。それは、
意味がない問いだ。何故ならば、確かに、クルー全員が逃げ果せる自信はある。ただ、一
人を除いて。
「この幽霊船をどこに隠すのよ……馬鹿」
「寄りにも因って、壇上の主人公が見初めた相手が悪かったのでありますよ」
金剛吹雪は不知火と別れろと遠回しに言った。それは、普岳プリシラが憤死した所為が―
―彼女の補助種族との混血本能からくる差別感情に加えて、黒魔術を使う事によって、そ
れが、増大。心眼によって、無能力者を戦わずして見極める。彼女の父と母の四代前祖先
は、合気道の『達人』を父に持つ、腹違いのハーフエルフの姉妹。故に、千里眼とは異な
り、心眼ッ!
「――私が死ねば、悲劇のヒロイン気取りも、所詮、無駄死にではなくって?」
不知火が言い返した。しかし、バリアが展開できない主砲塔は棺桶と言われている。
「その、あまりの冷たさに、お似合いではあるのでありますが……」
そう言いつつ、艦橋で聖剣ボルケナアッサプナを金剛吹雪は主砲塔に向けて構えた。
「ちょっと!」
光波を撃つつもりだ。ルリタニアは留めようとした。若葉はやり取りを見ている。言わん
としている事が解っている為だ。
「留めるので、ありますか? 若葉にも同じ想いを一瞬でも、味逢わせたい。それも、適
わぬ、と……」
そこで、ようやく、艦長が重い腰を上げた。
「おいおい。だからこそ、お前には助命嘆願書が出ているんだろ」
金剛吹雪が魔王を倒したのは紛れもない事実。ゲルキアデイオスの実体を弱らせていなけ
れば、クックルーンだけではなく、100M近くの大津波で世界中が飲み込まれていた。
それを連邦の調査団に証言したのは、浮遊大陸群当主、竜吉公主だった。リヴァイアサン
を彼女が如月八房に名乗って遣わせる。これは、そういう意味だ。
「それに、この艦から降りろと言ったはず!」
金剛吹雪が如月八房を不知火から庇ったのは、両名に対する追跡を、雷暗に見られてしま
った為だ。
「自沈した方が、犠牲は減るけど……ま。それでも、構わないが」
浮遊大陸落としは山城アーチェが責任者となっている。霧島薙王朝が山城アーチェを重用
していた事実は、20万のウィルザッポル魔工兵団を併呑する為の傀儡であると、調査団
はまとめていた。そして、回廊へ進軍させたのは、非魔装国家郡へ経済戦争を仕掛けたヴ
ィクトリアではあるが、普岳プリシラの勅命では、クックルーンへ攻め込むように記載さ
れたいた。それは、マザーグース・天霧ソフィアが拒否権を発動しなかった理由として、
経済戦争の一環に、レムレースの企業買収が含まれる。選挙資金は霧島薙軍の維持費をジ
ステッド総督府から徴収して代替した物だ。これこそ、霧島薙が傀儡であった証明であり、
勅命に反してヴィクトリアに裏で圧力を掛けたのは山城アーチェになる。浮遊大陸落とし
は、無差別殺戮であり、罪人の所業だが、天使圏からすれば、クックルーン大聖堂をヴィ
クトリアに奪取させようとした普岳プリシラは勇者金剛吹雪=ストックウェルを婿養子に
迎える資格があった。
「アンタが載っていると、話が抉れるのよ! 私様が命ずるわ。今、直ぐ――この艦を降
りなさい」
如月八房を始め、他の空戦機甲要員は格納庫で待機している。しかし、この会話は艦内放
送で全て聞こえている。魔対空銃座の生徒・OBも同様だ。しかし、艦長の権限で、通路
の隔壁を閉じてある。これは空ける事ができない。雷暗は山城アーチェの軍師であり、レ
ムレースの独裁者だから、ブリッジに乗る必要がある。ただ、例外として、金剛吹雪だけ
はブリッジに載ると言って聞かなかった。他のクルーは、このやり取りで死ぬ事も覚悟の
上だ。どの道、艦長だけが、危険因子として逃げ切れなかった。それを、見届けるのは、
やってみる価値はある。むしろ、死ぬ前に聞いておきたいと言う話だ。
「自分に対する助命嘆願書が、マザーグース・天霧ソフィアの前回の拒否権行使の話に及
び、連邦議会が長引くのであります」
「なら、教官を武人として貶めるなら、お姉さまを――」
その時、不知火自信が通信に割り込んだ。
「そこまで人に愛されたいのなら、何故、私を襲わないのか……ずっと、疑問を覚えてい
ましたわ」
この卑下た発言に、クルーの男子生徒と男子OBは生きていて良かったと涙した。それを
見た女生徒と女子OBは正気に戻れと殴っていた。
「私もそうです。浮遊大陸にこの艦を移動して、山城アーチェ先生に不知火女史と如月八
房が出会った頃――不知火女史は紋章が消えるまで、互いを値踏みする様に、如月八房に
色目を使っていたのは、確か」
雷暗が衝撃の事実をチクった。ちなみに、教員として、唯一、白鷹も載っている。魔法学
園を存続させる為に、魔術体系と空戦機甲技術を保存すべく、教員の搭乗は基本的に認め
なかった。
「げっ!?」
ルリタニアはショックを受けていた。兄の顔を見たが、そっぽを向いてた。そして、如月
八房にだけブリッジへの直通回線を開かせた。
「色目というか……ほら、胸を近づけて喋るから、覚えがないんだ。ずっと、胸ばかり見
てたし」
「――ふっ……ふふっ、開き直ったわね」
サイテー過ぎる発言だが、これで良かった。若葉は嫁の浮気性を許すつもりはなかった。
そして、如月八房に義兄呼ばわりされるのを拒んだ。しかし、如月八房から艦長へは別の
ファイルが送られて来た。四大元素と五行思想を混在させた世界で、白龍と西洋の白竜が
同化した、黒魔人闇皇帝と戦った時――如月八房が山城アーチェより受け取ったのはフォ
ルダの中身は.rarであって動画ファイルである。.txtも合ったが、恐らく、今しか伝えら
れない物だ。
「ふむ。弟者よ……この秘蔵動画は、何だ?」
また、如何わしいものだと思って、不知火の電波を瑠璃・蛇・ニアは受信した。
「金剛吹雪はメイド趣味だ、多分」
「ほう。つまり、冴えない普通の高校生という設定で巻き込まれ型ストーリー」
何を二人は喋っているのか――艦内には、映像を流していない。
「邪気眼に目覚めても、所詮、イケメンに限る」
映像は見ていないが、二人のやり取りに雷暗は口を挟んだ。
「いや、意味が解らないが……本気で殺すつもりなら、犯してから考えればいい」
「だから、手を出さないのは、遺恨を一切合財、残さぬ為でしょ! さっさと、降りって
てば!」
それに、ルリタニアは暁のワルプルギスの幕を開ける必要はなかった。三次元から二次元
空間への攻撃を編み出していた為だ。つまり、偶像崇拝を攻撃できる。村雨は存在しない、
架空の剣。しかし、遺伝子破壊プログラムは作動したかどうか、調べる刀なら存在した。
彼女はその刀を村雨と名付けて、手っ取り早く、高周波ブレードに改造した。他にも、教
官と同様に祈祷・呪いを施術してあった。

       

表紙

片瀬拓也 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha