Neetel Inside ニートノベル
表紙

魔道普岳プリシラ
第七十章『THE・法戦(グレイトバトル)』

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 魔法学園の教官は有らん限りの魔術書の類を持って、各地へと散った。フリートエルケ
レス帰国までの勝負になる。そこな本国に、北国から急報が届く。
 スウィネフェルド首都国会――後の某重大事件である。
『浮遊大陸の宣統帝・ハガーはお亡くなりになられた!』
先の浮遊大陸落としの責任を、鉄仮面は受けていた。証人喚問はその事典にまで及ぶ。
『去れど、我等、意気軒昂!』
同日同時刻。迎賓館は羅生門となる。
『賊軍となりて、戦犯指名に怯むことなく、戦う訳だ!』
プラットホームで流れていたラジオを聴いて、ご隠居は気を吐いた。
 ピコーン!
「烈・風・剣!」
 ドガあああああああああああああああああああああああン――
 暗殺者の凶刃は脆くも敗れ去った。
『――これは単に恫喝ではない』
「そして、紫電が飛び、普岳も浮く」
『正面、且つ、当面の敵を叩く!』
静寂が、時を支配する。
「失礼ながらお訊ねします。彼方は、スウィネフェルド先帝殿でいらっしゃいますか?」
そこへ、更に一人の『刺客』が現れた。
「如何にも。ワシは霧島薙の父だが……そうと知ったら、どうする?」
老人はニィっと口を吊り上げた。
「任務に忠実な戦士よ」
「語るに……及ばず」
青年は一人の兵士として、主君に刃を向けた。
「ふん、誰かは知らぬが――」
大帝はまるで相手にしていない。つかつかと歩み寄る相手にも、構えすら見せる事はない。
遂には、ハンデと言わないばかりに、相手に大上段の間合いを取らせた。見た限り、武闘
派でもない。
「平穏に暮らしていれば、苦しまずに安息を得られた――ものをッ!」
帝は刃を水平で、最初から受ける体勢を取っている。
「私は近接戦闘は不得手……故な」
「二撃目はないものと心得よ!」
ざわ……ざわ……
 天下の往来が戦場と化している。人込みが集まっていた。何せ、闘っているのは最強と
謳われた先帝だ。峰打ちで済めばいいが、青年は模擬刀ではなく、真剣を構えている。
「ワシはこれから有節せねばならん。そして、共を連れずレジスタンス狩りを行う」
「さぞや、武勇伝になりましょうや」
実際に、警護を解く事によって、魔法センサーを切る事ができる。宣戦布告が戦争行為で
あっても、一人で戦争を行えば、証拠は立証できない。これを、彼のスタイル(国家戦略)、
富国強兵と呼ぶ。
 ジリ、ジリ……と数ミリ単位で詰めるも、帝は横薙に構えたままだ。大上段から相手に
打たせる。そこを斬り払いで燕返しを放つ。重厚な甲冑が邪魔で、帝は上段に構えられな
い。
(――これが、戦場の構え!)
「御免仕る!」
「応!」
刹那、一人の兵士は元主君に対して、一閃を振り下ろした。
 ガガキィィン――
「なっ! む、むう……しまった」
刃が交錯した瞬間、実際に火花が飛び散った。そして、大帝の愛刀はへし曲がって、使い
物にならない。
 そして……
「ま、待て! 話せば解る!」
一瞬、青年は躊躇したが、意を決して、こう、言い放った。
「某も心から敬愛したかった!」
 ザシュ――
こうして、事態は浮雲急を告げる。それから、数日間、議長勢とスウィネフェルド北軍は
戦闘を続ける事となった。国会で秘密警察が議員を殺害して、治安維持法を可決させたが、
沿岸諸国連邦各国の反感を抑えられず、戦犯の擦り付けになった。
「突撃ーっ」
北軍と議長勢は交戦状態に突入した。青年も一仕官として徴兵された。階級は正規軍官に
裏切り者の烙印を捺された為、本来の兵舎管理の兵長から生きて、尚、特進。電信伝令電
報を勤める兵曹長である。
「目下、敵の本体を狙え!」
「しかし!」
まだ、見た目若さの残る青年は檄を飛ばした。
「本作戦の成否は――」
戦場の怒号の中、双子の軍曹と伍長は叫んだ。
「まさに!」
「奇襲に有ります!」
青年は目を瞑ってフッとだけ笑った。
「これしきの様で看破される様なら……いや、有ろうハズがない」
何かを振り払うようにして彼は言い放った。主君を斬った者の躊躇いが生じる。
「錐行の陣で敵分隊に突入! 目下、これを叩く。兵器の使用は限定解除しろ!」
多大な犠牲を払おうとも、戦略的価値が無意味だったとしても、この作戦は完遂させる。
「――隊長機を狙え!」
「被害甚大! 味方機影が……コンソールから、消えてゆきます」
双子は項垂れた。
「敵分隊。鶴翼の陣を展開。防衛ラインを殲滅して本艦まで突破をっ」
 ズパッ――
 ブリッジに閃光が走った。
「操舵室より艦橋に至近弾! 第七艦橋大破!」
それを聞いた兵曹長は呑気にこう言ってのけた。
「はぁ……対空銃座で反撃してくる」
双子は青褪めた。
「え?」
「え?」
んー……とだけ、船酔いで機嫌悪そうに席を立つと、彼はこう言って、オペレーションル
ームを去った。
「軍曹、後を頼む」
防衛ラインを突破した第一陣は、本艦にまとわりつくだけで、そこまでの機動力を有して
いない。航続距離が足りない理由に、ZOCに張り巡らされたオーラバリアの斥力がある。
オーラコンバータで生じる揚力が発生させる力点で、巨大な核融合炉に鉄塊をブチ込み、
Feの融点である単原子を56gまで圧縮して発生させている。
これをFeⅡと呼ぶ。核融合炉は熱核式でH2C6+H3の概念武装済み。
「パーフェクトだ、ウォルター」
兵曹長は流し打ちで敵を迎撃。第一陣を葬り去った。
「また、モルダーですか?」
伍長は嫌そうな顔をした。
「疲れてるのよね」
兵曹長は余裕ぶって言った。
「第二派攻撃に備えなければ……包囲される前に後退だ。敵は、やはり、隊長機だった」
「各員、急げ!」
この艦の武装では速さが足りない。
「敵の魂胆が丸見えだな。中尉が艦を落とせば佐官に昇進だ」
気だるそうに艦長は言った。恐らく、敵は四個小隊を4号装備で突入してくる。
「包囲されるとマズい。隊列を後退……それと、陣形に弱い部分を意図的に作れ」
艦長は的確ではない指示を出した。
「軽装が二、隊長機、もとい重武装が一、支援ユニットが一」
「二個小隊で手柄を独り占めだな?」
彼は目を細めて言った。
「カタパルトデッキへ向かうッ」
「忙しい人ですね」
この双子の兄弟。これでコンビ解消になりかねない。
「案ずるな、適当に落としてくる」
「頼もしいと見た」
ニヤリと双子・兄は笑った。
「はぁ……疲れるよな、艦長職は。代理を頼む」
彼は皮肉を言った。そして、機動兵器の格納庫に向かった。
「R.柿寄兵曹長――もとい、これより准尉! 聖機兵ギガレッセリウス、出るぞ!」
「限定解除だ! HWSの威力を見よ!」
シールドミサイルの全周囲攻撃で辺り一遍の大気を燃やし尽くした。ラジエータ出力の低
い機体は、敵味方共に、一時的に機動性が落ちる。この瞬間、突出していた、敵軍曹機を
ラジカルレイピアで叩き落とした。理論上は元帥仕様メルザ・ナノ・ファストが装備のメ
ガ・ビームソードでは、この出力低下時に威力を発揮しない。
「やはりだな、長短を述べると甲乙つけがたい部分がある」
レイピアは出力が低い方が優秀とも取れる。燃費ではなく、実弾火力との組み合わせがモ
ノを言う。
「そもそも、この機体性能なら格闘戦などッ!」
 ズバババ……ドゴーン!
 一機撃破。
(む! 下から速い機体が来る!)
この状況下で動ける機体は航続距離の長い小隊長機。母艦の発生させる作用点より外から
の砲撃。
「鋭角に突入してきたらレーダーに間有り! マニュアル道理だな……」
マニュピュレータの故障がなければ、自動掃射の命中率を概算して補足した段階で行い、
正面射撃を敢行する。
 ずぎゅーん。バッ! ――ドゴオオオオオン!
 ダブルマジックライフルが火を噴いた。二機撃破。
「よっ! 日本一!」
(……後はッ!)
残るは後詰ドレン分隊が突破口に雪崩れ込んでくることになる。ラジエータ出力の回復と
同時に体勢を構える柿寄機。
「冷却装置に不安はないからな」
(さて――バトルシップ目当てで敵さんはやってくる)
敵の編隊攻撃は一斉射撃ではない。遅い機体から順序を立てて狙撃。
「挟み将棋と同じ理屈だな」
敢えて外して、敵隊長機が近接戦で落とす。これがボーナス上乗せになる。そして、昇進
する。兵の士気とは、かくも有るもの。
「一個編隊全滅とは、軍事費に置き換えると、こうもなるのだよ。悪く思うなッ!」
4号装備ではなく、相手は10号装備を使う。敵はこちらのオーラシップを沈める為に、
斥力を生じさせている。柿寄機。全周囲ミサイルの余波で生じた電波障害から回復。オペ
レーターから通信が入る。
「敵機、バリア展開。中距離砲撃モードです! 准尉!」
視界不良で確認はしていなかったが、どうにか隊長機の息の根を止めたらしい。
「アレ、か……」
(ふむ、ラティエナの元帥が遅れを取ったと言われる兵器)
斥力でバリアを展開している。収束砲も撃てるだろう。
「その場合は母艦が沈む」
「え?」
彼は普段通り、通信士にやる気がなさそうに言った。
「いや、ナンでもない」
ベクトル変換を突破する方法は三通りある。重金属粒子を核融合炉の圧力で撃ち抜く。唯、
狙撃するだけではダメで、これをギガ粒子法と呼ぶが、一つ目は拡散粒子法の粒子間揚力
を斜平面で斥力化する方法。もっとも、これは、対象からの焦点距離にもよるが、ゼロ距
離で撃つ必要がある。
「生憎だな。これだけ包囲されている状態で、溜める余裕などないな」
同様の理由で、拡散粒子法の粒子間揚力を用いて、まず、主砲に斥力の反作用で圧力を膨
らませ原子崩壊させる。次点で、射線軸上の斥力を排除する重力場崩壊で熱量を発生させ
るハイパー粒子砲がある。
「ブリッジ、散開して各個撃破するように指示を出せ。中隊長機は私が抑える」
「艦は後退します。よろしいですね?」
双子の伍長が確認を取る。
「無論だ」
核融合の理屈と言うのは、そもそも、力点を作用点に圧縮している錬金術。動力パイプの
出力を反作用で射撃すると、その時、揚力が生じてスラスターが噴射される。つまり、作
用点は斥力とも置き換えられる。
「柿寄カラマムーン准将! これより動体射撃を敢行する!」
Wマジックライフルとは、そもそも、片方はカートリッジ形式。もう片方は、動力炉から
の圧力で撃ち抜く。連動するのはビーム間揚力のみだが、スラスターの反作用効果で、元々
は地対空ビーム砲。バリアを撃ち抜くのを目的として考案された重火器――
 テールノズルを吹かせて接敵する准将機。
「一点突破の多弾頭成形炸薬弾とは違うのだよ! ましてや!」
(――北軍が揺らぐ筈がないッ!)
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
三機目撃破。
「これこそ彼の無双三段の理論武装だ」
『准尉に続けー!』
これにより、レムレースで戦犯として幽閉されていた霧島薙は、主権侵害が治外法権と変
わり、伍長から大元帥に昇進。その後、議長とそれを後押しする排他的水域のセクタを攻
撃。国会は正常化して、沿岸諸国に対してはバリケードを構築。ラティエナの国債空売り
も形式的には成功した形となる。敗色が濃くなれば国家予算が回復する手筈だったのに加
え、アトランティスで国有林の地価策定を敵に妨害して、爆撃ポイントを絞らせない。損
益は出たが、それ以上に、議長軍からの北部割譲は将来的な税収が見込める。
『北軍は地上最強おおおおおおおおおおおおおお!』

       

表紙

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