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魔道普岳プリシラ
第七十一章『大坂城攻防戦』

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 軍艦フリートエルケレス出航から数週間あまり。霧島薙は母国の国会乱射事件を皮切り
に勃発した、クーデター成功の報を耳にした。父の死は受け止めがたい事実だったが、武
人として死んだ故、とやかく、文句も言うつもりもなかった。
「この恨み、晴らさずべきか……ふっ」
亡き山城アーチェ提督を越えて『大元帥』と言う身になったので、悪い気はしない。
「一度、お会いなられるべきでは?」
四天王が一人、妙高リオルが進言した。
「准将にか?」
霧島薙は天守閣から城下を見渡した。
「僭越ながら、自分もそう思います」
八重山も同席していた。
「何者か知らない故な。民衆運動で倒閣させて外部勢力を排斥……見事ではあるが――」
傍らに於くつもりはない。有象無象の自覚があれば、相手は接触してこない。法的に見れ
ば、霧島薙は以前より動き易くなった。閣内不一致という制度があるので、大統領制と同
じく、霧島薙はポスト外相と言うより国務長官が正しい。
「それにしても、清々しいな。何もかも片付いた」
そう言って微笑んだ少女の目尻は、幾ばくか、緩みを見せていた。そこで、空気が重くな
りかけたところで、列席していたカシスが口を開いた。
「……准尉『殿』になら、自分はお会いした事がありますが?」
敬語を使うのは、四天王の手前だからである。教育係という名の、仕事の引継ぎもある。
「む、彼奴はあまり信用ならないですぞ」
八重山は率直に述べた。
「然り。唯の一兵卒にしか見えぬ」
霧島薙がこの場でレムレース君主の代弁をした。四天王はこの席での発言は効力がない。
「原子変換するナノマシン社会に於いて、大した方ではないのですが……」
カシスは苦悶を浮かべた。最後の四天王、白雲ライザが気づかう。
「どうか、されましたか?」
望月が割って入った。
「准尉は私達より年上ですが、一応、魔法学園出身なんです」
「ほう……」
霧島薙の目つきが変わった。
「しかし、人事の把握は完璧なはず」
四天王はブツブツと談義を始めた。
「ですとも、優秀なら登用しているハズ」
八重山が返答した。
「むむ。それは、何故だ」
疑問を口にした霧島薙に、弥生は目を細めて言った。カシスは『はぁ……』と、溜息をつ
いた。
「陛下にも進路指導の時期が来ます、一応、熟知はして於いてください」
むぅ……と、霧島薙は眉を歪めた。
「お父上の仇、大先輩にお会いになられますか?」
弥生は優しく聞いた。
「いや。え……んー」
彼女は准尉の話を聞いてみたい気もしていた。
「まぁ、機会があればな」
他戦線も気になる。
「そう言えば、フリートエルケレスの具合は? 雷暗の帰還を、この国の民は心待ちにし
ておる」
霧島薙は戦況報告を促した。
「現在、沿連との和睦を試みる為、白鷹少将を代表に協議に入っております」
海軍将校として親中可能な将官は彼だけだ。
「うむ。生き残ったからには、その役目は果たしてもらう」
駒を死地へ送り込む為の絶対王権。彼女は地上の覇者。
「後、八重山」
「はっ!」
霧島薙は手を口に当てた後、熟考した。
「戦力分布図では、こうなる」
やはり、北軍は捨て置けない。しかし、ウィルザッポル魔工兵団を帰還させるだけの戦費
はない。
「本土にウィルザッポル魔工兵団を回収する訳には行かない。我々、五人はここで篭城す
る」
「いーや、陛下には戻ってもらいます。学校をサボってもらう訳にはいかないので」
カシスは釘を刺した。
「うっ」
「次に、ジステッドに対する処断ですが……」
戦斗・白雲ライザが報告書をまとめていた。
「やはり、北軍。動くようです」
「ほーう」
准尉が、思ったより、やる――
「増援を求めているようです。ローレンバルトの反重力装置を寄越せと」
「ぬけっと猛々しい!」
ドンッ――
 八重山は軍人らしく吼えた。
「受領ポイントは浮遊大陸のラグランジュポイントに浮かぶ中立ドック・ラビアンローズ」
戦斗は淡々と伝えた。
「んー」
すると、霧島薙は立ち上がって、再び、城下を見た。
「やらせて見るのも、宵かも知れぬな」
「何を呑気な!」
八重山の心配性は山城アーチェ時代から変わらない。ウィルザッポル魔工兵団は地盤をこ
の地で固めつつある。魔法学園を再編成する必要があった。
「春日丸を消した男だと聞く」
『は?』
一同は目を点にした。
「国会でな、銃撃沙汰は鉄火面を葬る為で――北はヤツを罷免して、戦犯処刑を行ったと
聞く」
霧島薙がどうして知っているかと言うと、かつて、松風ストックウェルの元にいたスパイ
と再び接触した為だ。
「10号装備の限定解除、並びに、今回のソルカノン受領の打診は、そういうことだ」
篭目の結界の中心で、少女は刻の涙を見ている。
「むう」
八重山は言葉を詰まらせた。
「准尉にも逃げ道が必要だ」
北上加古は応えた。
「どうします?」
弥生はカシスに話を振った。
「うーむ」
小田原評定では埒が明かない。霧島薙は自分で命令書を出す事にした。
「相分かった。四天王は、ここ、大坂に残れ。八重山は二階級昇進だ。海軍将校として本
日付で大尉とする」
「私達と陛下は魔法学園に帰投しましょう」
少女はうむ――と、頷いた。
「と、言う事は、戦艦引渡しも……」
「恙無く行え。但し!」
霧島薙は持っていた扇子を広げて言った。
「敵旗艦であるハルバード撃沈を条件とする!」
『はっ!』
一同は国家元首の退室と同時に頭(こうべ)を下げた。

       

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