Neetel Inside ニートノベル
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魔道普岳プリシラ
第七十五章『犬士』

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 二学期。ルリタニアは、落第していた。公立の転向先として、回廊の分校が上げられた。
「頭痛が痛いわ」
「そんなに落ち込むなよ」
如月八房も浮遊大陸の魔法学園から、エルケレス魔法学園に転入試験に落ちていた。
「私様をアンタなんかと同じにしないでくれる?」
如月八房は、多少、ムカっときたが、耐える事にした。
「いいから、引越し準備を手伝えよ。何で僕と父さんだけ働いてるのよ、これ」
若葉とナタルはせっせと、妹の荷造りをしている。
「暫定自治が巧くいけば良いケド」
「客人として往くんだ、手荒なマネは受けないだろ」
ナタルは呑気に答えた。メネシスものほほんとしている。
「最近、ドンパチが収まってきて、世の中が落ち着いてきたじゃないか」
少し、無責任にも聞こえる。これが、国民の声というヤツだ。
「ま、まぁ……二人とも元気でな」
「仲睦まじく、ですわ!」
引越し用にガルムス・デラスを一台ほど借りてある。
「それよりも、軍用者ってスゲーな。お前はこれに住めばいいだろ」
ナタルが呑気な話をした。
「これは、以前、妹さんが回廊に駐留していた時に使用していた物で、確か、特注品なの
でわなくって?」
「大元帥と連絡を取る為に使用していたわ。謂わば、私様専用ね」
『ふうん』と思い、如月八房は兵装を確認した。三連装レーザーなど、特殊弾薬が積まれ
ている。
「以前、転学していたから、勝手は慣れてるんだろ?」
「まぁ、そうね」
今回は強力なお供もいる。
「ちょっと、先の話しになるんだけど……」
メネシスがルリタニアを掴まえて言った。
「何? 母さま」
「高校を卒業したら、帰ってくるのよ」
若干、心配を掛けるのも無理もない。
「ああ、その点は大丈夫。強い護衛がいるもの」
「って、俺かよ」
ナタルは溜息をついて言った。
「当たり前だろ。そんなのだから、あしらわれるんだ」
「だってさ」
若葉はジト目で如月八房を見た。
「あらあら、うふふ」
「それは、そうと――」
不知火は話を区切った。
「お義父様とお義母様には宮城に住んで頂く話は聞き及びありまして?」
「む? ああ、そう言えば……」
ゴソゴソと棚にある書類をメネシスが漁り始めた。
「これよね」
「そう、それですわ」
ここを警備するのは面倒だと言う話で、藩邸に住んで貰う手筈になっている。
「ようやく、頑強なセキュリティが施されるな。本心から言わせて貰えば、心配で仕事に
出づらい」
気苦労が耐えないのだ。無理もない。
「でも、まぁ……俺達、二人でも子悪党ぐらい片付くんだがな」
実際に幾度か、敵対勢力を排除している。
「あんまり、無茶しないでよ、二人とも」
若葉は釘を刺した。
「そうね、できれば二人で大元帥を支えてあげて」
珍しく、ルリタニアが上官に向かって敬語をやめた。如月八房の前ではあまり見せない素
振りだ。
「俺からも、よろしくお願いします」
「ん? お前もチビっ子の味方なのか?」
ナタルは如月八房に質問をぶつけてみた。
「ええ、あの子には良くしてもらっているので」
論功行賞と知行に長けている。
「ふうん」
ルリタニアが腕組みして如月八房を見た。
「えっと……何だよ」
「前置きするケド、含みを持たせて言わせて貰うわ――ふっ、アンタは人を見る目を養う
べきね」
それは、不知火にホイホイ連れて行ったりする辺りも、言えていた。
「どういう意味だよ、それ」
「ああ、意味が分からないよな」
若葉も皮肉をオブラートに包んだ。
「あらやだ、むふふ」
不知火は今日一番の笑顔で応えた。しかし、如月八房は不貞腐れていた。
「オイオイ、先が思いやられるぜ? いいか、お前等はだな。来年の新入生を歓迎する最
上級生なんだ」
「ですわ」
空戦機甲所有は如月八房と唄姫の二人だけだ。戦力分布としては、ガルムス・デラスを5
00台。そして、プチモビサイズの大型パワードスーツが5000機搭載。後は補給タン
クユニットや中距離ミサイル発射トレーラーを積載。これ等は小隊、分隊を構成する上で
編成、配属される。
「どーせ、俺達は余所者扱いを受けるだけだろ」
「そうでもないわよ、向こうと違ってね」
浮遊大陸は反政府組織が多かった為、如月八房はハブられていた。
「正当性が認められていますのよ」
回廊の併合は正しい。年中、温暖な肥沃な土地は、二期作を可能にする。輸送機としても
利用できるガルムス・デラスの搬入は、回廊の農業生産力を向上させた。
「私様は短期留学していたから、顔見知りもいるのよ」
「へぇ……じゃあ、これからだと、文化祭の準備で忙しいって言うのは?」
それを聞いて、ズサーっと不知火が振り向いた。
「本当ですの?」
「あ、いや――ちょっと、ね」
まだ、アイドルに対する憧れは持っている。姫亡き後、その座を狙う女学生は多い。
「うーん……」
若葉は天を仰いで言った。
「まぁ、エリッサリアを頼むよ」
「二人で御せるか、見物だな」
秋雲親子は悠長な構えを見せた。
「責任を負うと言う意味が、どれほど、大義であるのか……二人とも、解っているのなら、
いいわ」
メネシスが珍しく、真剣な目で二人を見た……これが『軍規』である。
「やればいいんだよな」
「ええ」
二人は同意した。案外、近くに上級大将とは存在する。
「共に戦闘スタイルが攻撃役。敵を叩いて来い」
「解ってるわ」
若葉・父は、そう、告げた。
 こうして、如月八房とルリタニアの二人は、回廊分校に迎撃ではなく、出撃をして行っ
た。守るのではなく、攻める。攻撃は最大の防御也――

       

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