Neetel Inside ニートノベル
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魔道普岳プリシラ
第十一章『天地魔闘』

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 ――数週間後。
「開発中止?」
山城アーチェの手元に一通の電報が届いた。その内容は魔道戦艦の開発中止を下す命令書
であった。差出人は――
「国王陛下自らだと……馬鹿な!」
終わった……これで、自分の役目は全て果たしたと判断せざるを得なかった。
「老兵は、唯、去るのみ、か……」
それから、数日後――正式に、国内で魔道戦艦開発計画の凍結が報じられた。
「まぁ、やるせなくってよ」
不知火の口から愚痴が毀れる。
「でも、解体はせずに新校舎として使うんだから、要塞としては使えるんじゃないかな」
レーザー口のクリスタル製レンズも、撤去しないらしいという話だった。
「空戦機甲部隊を戦艦で輸送して、世界中の魔物を討伐する事に、きっと、教皇庁が難色
を示したのではなくって」
他所の国が富む事を快く思わない為だろう。ラティエナ国内は他国と事情が違い、魔物の
多くは掃討されていた。
「救世主に有るまじき話だ」
かと言って、一人で大本営を説き伏せるのは無理だ。これまでのように、地道に戦功を挙
げるしかない。緊急で全校集会が開かれた。
「北の洞窟、迷いの森、ペルステン火山、バートラムガルカニアン街道――全て、皆のお
陰でここまでやって来れた。これからも結束して、魔物討伐を頑張って欲しい」
白鷹がスピーチを行った。山城アーチェはその場に姿を見せなかった。休憩時間、若葉は
山城アーチェの様子を職員室に見に来ていた。
「陸上砲台として使える訳ですから、学園の防御は完璧ですよ。自分達の本拠地なんだか
ら、気を落とさずに行きましょうよ」
「お前は、何も分かってないな……今、こうしている間にも、魔物を命を奪われそうにな
り、助けを待ってる人が世界に居るんだぞ! それをお前は……」

     

 怒気は伝わってくるが、殴らないと云う事は、それ程、落胆が大きいと云う事の表れだ
った。かくして、移動型キャンパスは完成した。空戦機甲部隊の寮も艦内に移された。
「空戦機甲部隊は大学もエスカレーター方式にするから、二年後にはこの新校舎は大学施
設となる。多様な研究機関が置かれる予定だ」
何せ、全長が四キロもある。史上、最大級の空中戦艦だった。
 二ヶ月が経過し、期末テストの範囲が発表された。結局、戦艦の起動実験が頓挫した為
に、若葉は筆記で点数を取る必要があった。憑依は相変わらずできないのだ。
「うーん……」
不知火に教えられながら勉強していた。やっと二人っきりに為れたと云うのに、不知火は
普段通りだった。自分の事を意識していないのだろうかと、若葉は不安に思った。
(そんなハズはない。彼女が薬指に指輪を嵌めて生活し、僕と付き合っているのは最早、
公認の中だ)
若葉は、多少、動揺しながら問題を解いていた。
――一段落したので飲み物を取りにキッチンへと向かう。
「コーヒーで良いかな?」
「構わなくってよ」
もう少し意識してくれても良いような気がする。思い切って言ってみるか……
「やっと二人っきりになれたね、不知火」
そう言って隣に座り、手を握る。
「そ、そう言えば、そうではなくって? ……考えてみれば、色々と在りましたわ」
瞳を見つめ合う二人。互いの吐息が感じられる位に顔を近づける。
「あ、あの、その……キスまでならよくってよ」
不知火が恥ずかしそうに言った。
「ああ、君が望むなら、僕はそれで良い」
長い接吻の後、二人は抱き合っていた。
「いつまでも、こうしていたい」
「それは皆が困らなくって? 私達には世界を救うと云う使命があってよ?」
不知火が離れる。
「さ、テスト勉強に戻りますわよっ」
コーヒーを、ずずず、と飲む不知火。
「不知火」
「何ですの?」
若葉は不知火の名を呼びこう言った。
「ありがとう」
二人は微笑み合った。
 期末テスト当日――休み時間に二人は一緒に昼食を摂っていた。
「勉強の成果が出て、良かったですわ」
サンドウィッチを食べながら、次のテスト科目の教科書を流し読みする、二人。
「ふむ、勉強しとるな。どれ、私も一つ、頂こう」
そう言って山城アーチェはサンドウィッチを口の中に放り込んだ。
「御口に会いますかしら」
不知火の手作りなら何でもウマい、若葉はそう思っている。
「ああ、美味いぞ」
「次のテスト、どの辺が出ますかね」
若葉はダメ元で聞いてみた。
「ふっふっふ……それは答えられんな」
まぁ、楽しみにして於け、とだけ言い残して、山城アーチェは教室を後にした。魔道戦艦
の一件で落ち込んでいたハズだが、立ち直ったようだ。それは、クラスの士気に影響する
ので、何よりだった。次の時間のテストは、山城アーチェ教官が出題者だった。
『問題、以下の条件に措ける魔導レーザー照射時の、クリスタル内部の光の屈折率を求め
なさい――』
(これは酷い。悪門なんてレベルじゃないぞ!)
腹癒せに、生徒に八つ当たりしているのかも知れない。そう言えば、最近は遅刻をしたり、
課題を提出しなかったりした生徒は、罰としてレーザー口磨きをさせられると云う話だっ
た。
 之にて前期期末テストが終了した。数日後――テストが返却される。概ね、結果は悪く
なかった。赤点は、一つもない。若葉は胸を撫で下ろした。成績上位者が玄関の所にある
掲示板に張り出される。二年の学年トップは不知火=・R・スカーレッドだった。不知火
は親指を立てて見せた。若葉としては、自分などに付き合わせて不知火の成績が落ち込ん
だらどうしようと、多少の、不安を抱いていただけに、内心、ホッとしていた。若葉も親
指を立てて不知火に返して見せた。
「頑張ったようだな、若葉」
山城アーチェがそこに現れた。
「先生の出題した問題は難しかったです」
「ふふん。気晴らしには丁度、良かったんでな」
テスト前の不適な笑みの理由が分かりました――等と、談笑していると、予鈴五分前にな
ったので、その場を後にする。
「それじゃ、先生。また」
「ん」
次の時間の授業が始まった――数日後。一学期が終わり夏休みへと入った。夏休み期間も、
最初の一週間は全員参加の補習が続き、合宿が、その二週間後に三日間組まれていた。若
葉と不知火は、その補習と合宿の二週間の間に、互いの実家を訪れることにした。互いを
家族に紹介するのが目的だった。まずは若葉の実家に帰る事にした。若葉の実家は首都エ
ルケレスの郊外で、学園からも、それ程、遠くは離れていなかった。
「あら、まあ!」
若葉の母は不知火を見て、驚いていた。
「若葉が女の子を連れて来るなんて、隅に置けないわねぇ」
「今日から、二、三日、ウチに泊まるけど良いよね、母さん」
事前に話してはいなかった。その方が驚くと思ったからだ。
「別に構わないわよ。えっと、お名前は?」
「不知火=・R・スカーレッドですわ。以降、お見知り置きを。不知火でよくってよ、お
義母様」
母の目に、不知火の指輪が目に止まる。
「二人は結婚するの? これは愛でたいわ、父さん、ちょっと、ちょっとちょっと」
「あ、母さん。まだ不知火の家族には会ってないと云うか」
そうは言ったが、若葉の母は聞く耳を持っていなかった。
「こういうのは当人達の、意思が重要なのよ」
感極まった様で、母は目元に涙を浮かべていた。
「ちょっと、聞いてよっ。父さん」
エプロンで涙を拭きながら、父を呼ぶ、母。
「何だ、若葉じゃないか。帰ってたのか」
「何だ、はないだろ? 折角、休みだから帰って来たのに」
ふーん、とだけ言って、不知火の方へ視線をやる。
「で、この子は誰だ? 新しいお隣さんか、母さん」
「違うわよ、若葉の恋人なんですって」
『――なにぃぃぃぃぃい!』と、オーバーなアクションをする、父。不知火ですわ、と礼
儀正しく挨拶する彼女。
「お嬢ちゃん、コイツは辞めて於いた方がイイ。勇者なんて、いつ死ぬか分からないんだ。
だから、こっそり、コイツの生命保険の掛け金だった増やしてあるぐらいだ」
そう言えば、勇者に為る事を反対していたな、この人は。もしも、僕が宝剣ヴレナスレイ
デッカを抜きに行くと言っていたら、先回りして、この、オッサンが勇者に為っていたか
も知れない。脱サラして勇者とか、一家離散の危機だ。そんな風に、若葉が懐古している
間に、不知火はその決意を口に出していた。
「私は、既に、若葉以外を人生の伴侶にしないとこ心に誓っていてよ。覚悟は宜しくてよ」
「そうか……聞いたか、若葉。彼女を不幸にしたら許さんからな」
立ち話もなんだし、中へどうぞと、母が居間へ不知火を案内する。
「狭いけど、暖かい我が家へようこそ」
今、お茶を出しますね、と言っては母は台所へ立った。
「突然、お邪魔した様で申し訳なくってよ、お義父様、お義母様」
「いや、いいんだ。二人が幸せなら……おい、母さん、戸棚の上に、貰いモンの高いカス
テラがあるから持って来てくれ」
それなら、私が、と言って不知火が立とうとするのを、父は制した。
「気にせず寛いでくれ――おい、若葉、お前が行って来い」
「ああ、分かったよ。父さん」

       

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