Neetel Inside ニートノベル
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魔道普岳プリシラ
第二十一章『イセリア・クイーン』

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 パレードの翌日――
「当然だが、今日から再び授業を始める。しかし、それでは、諸君も気が滅入るだろう。
そこで、今朝は気晴らしとなる、良い報せを伝えに来た。どうぞ、お入りください」
『ガララ――』
 ドアが開き、意外な人物が教室に入って来た。クラスがどよめく。
「ラティエナ=普岳プリシラや。今日から、一つ、よろしく頼むわ」
突然の闖入者に、動揺する2‐A一同。
「姫様、できれば当学園の制服を着用して頂きたいのですが」
「いやや、こんなダサいの。ウチは今日から魔法少女になるんや」
(自分は何も聞かされていなかったのであります、が……ほう)
「ええと、席は――」
「席は、当然、未来の旦那の隣に決まっとるやろ」

     

 山城アーチェは無理に止めようとは思わなかった。と言うより、止める権限がない。金
剛吹雪は女子に人気がある為、姫様が相手とあらば抗議こそ誰もしないが、不知火と大淀
葉月を除くクラスの女子全員を敵に回してしまっている。
「アンタが魔王ゲルキアデイオスを倒したんやってな。もっと、筋骨隆々でガチムチな戦
士やー、思って不安やったんやけど……何や、女の子みたいに、えらい可愛らしくて第一
印象は悪ないわ」
姫様は金剛吹雪が気に入ったらしく、上機嫌だった。
「姫様。そやつは女癖が悪いが故、無防備に近寄らない事をお勧めします」
山城アーチェが釘を刺した。
「ええでー、ウチの心は海より深いさかい、寛大や。浮気の一つぐらいは見逃したる。せ
やけど、世界一、ウチの事を愛してもらわんとな」
「努力するのであります」
金剛吹雪は微笑んだ。

     

 姫様と言えば、国民的アイドルだった。三流芸人などより、バラエティでも余程の人気
の持ち主で、週刊誌などでもバンバン取り上げられていた。婚約発表は各メディア紙の一
面を飾った――休憩時間。
「何故、転校してきたのでありますか?」
「まぁ、もうええやろ、教えたる。ここは軍事機密で取材拒否やからな。ウザイ、パパラ
ッチに追われる心配もない。プラベートな一時が気楽に過ごせる」
 王族と言えど、実体はお飾りで、ラティエナは自由と民主主義を愛する国家なので、言
論の自由が認められている。
(不知火が勇者試練の後、結婚できないと言っていた理由は、メディアの執拗な取材から
逃れる為に魔法学園へ逃げ込む口実だったからかな……)
若葉は邪推した。

     

 ――それにしても、急な話だった。
「では、事前に自分に連絡がなかったのは、何故でありますか?」
「黙っといた方が驚くやろ? それよりも、このカッコ。魔法少女っぽく見えるやろか」
(何かのコスプレに見えるのであります……)
金剛吹雪は自分のしていたオリハルコン製の髪留めを外した。
「これを差し上げるのであります」
「ん、なんや。プレゼントかいな」
「初めにお話した折には、何か贈り物をしたいと思っていたのでありますが、急な話だっ
たので。之が、今、手渡せるものの中で、一番、気持ちの篭ったモノになのであります」
見れば、確かに安物ではないが、値段など姫は厭わない。
「そうやな、そう云う気配りも確かに必要やろ。準備する言うても、高校生が指輪とか渡
したら、何か違和感あるやろうしな。むしろ髪留め位が、丁度、ええよ。まずは、友達の
印に付ける事にするわ」
バッテンの髪留めを付ける普岳プリシラ。
「どや、似合うか?」
「可愛いのであります」

     

 違和感があると言われても、自分の場合はベタ惚れで不知火もデレデレだからな。恋愛
には、人によってペースがあるよ、と経験談から言い出そうか戸惑う――すっかり影の薄
い勇者ペアであった。

     


       

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