Neetel Inside ニートノベル
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インターホンをならしても、応答はなかった
ナナカはかばんから鍵をだし、ドアを開けた。窓がない一階は、昼でも薄暗い
「ただいま」
もちろん、だれもいないのだから反応はない
けれども「ただいま」をいわなければ、家に帰ってきた心地にならないのだ
洗面台で手を洗ったあと、ナナカは二階へとつづく螺旋階段をのぼりながら、今日学校で配布された生徒会通信に目をとおした
かかれていることはどれもこれも当たり前のことだった
『新学年、これからさらなる飛躍を!!』
『休みボケから抜け出そう』
なんだかなあ、とナナカは呆れるというか、苛立ちをおぼえた。もう小学校のころからきかされている、使い回された啓発文だらけだ
ナナカはこういうしつこいことが嫌いだった。なんどもなんども同じことをオウムのようにくりかえすことが
それを父にはなすと「ああ、それはきっと、母さんに似たんだな」なんて返されたことがあった
そういえば、母もそんなところがあった気がする……
「……あぁ、やだもう。またお母さんのこと思い出してる」
ナナカは脱いだベストに顔をうずめた。母のことを「しつこく」思い出している、自分が鬱陶しくなったのだ

私服に着替えて三階のリビングにあがると、「買い物行ってきます ミカコ」とあるメモがテーブルに置いてあった
現在、この家にはナナカと次女であるミカコ、それに父の三人がくらしている
長女であるハルカは、もう一人暮らしをして二年経とうとしていた。
もっとも、今でも一週間に一日の頻度で帰ってくるから逢いたいと思うことはなかった
それと、父の寝室にある母の三面鏡を飾るたくさんのアクセサリー
父によれば、母は自分の誕生石であるトルコ石のを特に好んでいたらしい
その証拠に、三面鏡には無数の水色の星が浮いているのだ――

ナナカはソファにねころんだ。いまは頭をからっぽにしたいとおもったのだ

       

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