Neetel Inside ニートノベル
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 4度目の戦場、クレストから東部に位置する小規模な国が連合を組んでクレスト皇国に宣戦布告した。
 クレストと連合の国力差は7対3だが、クレストがこの戦場に全兵力を投入できるわけではない。戦力としては4対3といったところだろう。
 私は数回の戦場での活躍で有名になったおかげか、開戦前からそれなりに重要な配置で戦が始まった。
 鍛冶屋に特別に作らせたバスタードソードブレイカ―を握り締め、構える。切れ味を二の次に、頑丈さを主眼に置いた大剣。そのせいで重量が常人には扱えない程に重くなってしまったが、私に重量は関係ない。戦の間壊れなければそれで充分だ。
 迫り来る敵目掛けて大きく薙ぎ払う。
 たとえどんな鎧で刃を防いだとしても、私のバスタードソードブレイカ―は切るのはなく叩き潰す武器だ。敵の防具も、武器も、馬ですらも、まとめて薙ぎ払う。
 飛び散る鮮血、千切れ飛ぶ四肢、断末魔の叫び声。
 その中を私は目標に向かって突き進む。

 そんな中、戦場の混乱を掻き分けて、一人の男が私に向かって凄まじい勢いで突っ込んできた。
「だっしゃーーーっるぁあ!!」
 両手に大斧を持ち私に突っ込んできた男は、私のバスタードソードブレイカ―に重い一撃を当てると、そのまま力づくで私を押しこもうとする。
 だが、力で私に勝てるはずもない。
 私は男を軽く押し戻すと、バスタードソードブレイカ―を手放し、その死角に身を隠す。急に支えを失った男が体勢を崩したその瞬間に、私は男の腹部に拳を放った。
「――!!」
 男は咄嗟に大斧の柄を交差させて私の拳を防ぐ。
 数メートルは吹き飛んだだろうか、斧の一本は折れ、地面を転がりながら男は体勢を立て直す。
「ぬぅう」
 男は小さく呻き声を漏らすと、地面に落ちていた剣を拾い、徐々に距離を詰めてきた。
 このままこの男に時間を掛けていては目的を達成できないと判断した私は、地面に転がっているバスタードソードブレイカ―を拾い直し、自ら距離を詰め、男に向けて振り下ろす。
 それを男はさっき拾い上げた剣を砕かれながらも受け流し、左手に持った斧で私に攻撃を仕掛けてくる。カウンターだ。
 正直、私は攻撃が受け流されるなど考えてもいなかったので驚きを隠せなかった。
 無論、斧を喰らってしまっても私の体は全く問題ない。だが、それは私の正体が人間ではないことを思わせるには十分な事柄だろう。
 咄嗟に私はそのまま距離を詰め、男の横を地面を転がる様にして回避した。
 なんとか男と再び距離を取り、私達は睨み合う。
「おいおい、あれを避けんのか……流石、闘神と呼ばれるだけのことはあらぁな」
 男はそう言うと、左手で握っていた大斧を右手に持ち替える。
「闘神?」
「あん?お前さん自分が巷でなんて噂されてるのかも知らんのか?」
 闘神、それが私の通り名ということだろう。神という単語が入ったこの通り名に私は不安を感じる。
 通り名でそこまで大仰なものをつけられたということは、それだけ人間離れしているということだ。これだけで正体が露見することなど無いだろうが、一時期神として行動していたことがあるだけに不安は徐々に広がっていく。
「ついでにワシの名も覚えておけ!ワシは双斧(そうふ)のモルドだ。まぁ、今は一本しか持っていないがな」
 おどけた様に軽く笑うモルドを後目に、私は戦場の状況を確認した。
 モルドとの戦いに時間をかけていた間も、戦況は動いている。私の目標だった指揮官も、今は随分移動してしまったようだ。ここから敵を蹴散らしながら的指揮官へ辿り着くのは流石に人間としては無理があるだろう。
 幸いにもクレスト側が有利な方へ戦況は傾いている。ならばここでこれ以上、私が動く必要はない。
 私がバスタードソードブレイカ―を肩に担いだ事で、何となく敵意が無いと悟ったモルドが私に話しかけてきた。
「なんだ?無駄な戦いはしないタイプか?まぁその方がこっちとしてはありがてぇがな」
 私は去り際にもう一度モルドの顔を見ると、自分の人間に対する認識を反省しながら、戦場を去った。

       

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