私がモルドについて行くと、スマイリーの裏手である畑に連れてこられた。正直、何故モルドを怒らせてしまったのか私には理解できていない。
不意に立ち止まるモルド。
モルドはそのまま私の胸元を掴むと、捲し立てるように言った。
「なんで、なんで殺した!!」
「――な!」
「まだ10歳くらいのガキじゃねぇか!なんで…!!」
モルドが歯を食いしばる。
何がそんなにモルドを怒らせるのか。刃を、殺意を向けてきた相手を殺すことに何の問題がある?
あの子供、恐らく私が排除してきた盗賊、山賊の子供なのだろう。仮に、あのまま取り押さえ、生かしたとしても結局は同じことの繰り返しになる。成長し、力をつけ、再び私に向かって刃を向けてくるのは明白だ。故に危険の芽は今のうちに摘んでおくべきだろう。
モルドも傭兵を生業としているなら、それを理解していないはずが無い。
故に私は答えなかった。
沈黙を続ける私の意図を理解したのか、モルドがゆっくり私の胸倉を掴んでいた手の力を緩める。
「すまん、お前は別に間違っちゃいない…。傭兵として、命を奪う者として当然のことだろう…」
さっきとは打って変わって、モルドの声に力が無くなった。
「なあ、お前はなんで傭兵なんてやってんだ?」
私が傭兵として戦う理由、勿論ある。だが、それをモルドに、他者に知られるわけにはいかない。
「別に言いたくなきゃそれでいい。だが、少なくともワシは強くなるためだ」
モルドの声に力が、意思が篭り始める。そして、その瞳は真っ直ぐ私を射抜いた。
「強くなって、あいつを、ラナを守るためだ」
モルドはそのままゆっくり私に近づき、両手を私の方に置く。
「だから、あいつの前で命を奪わないでくれ!あいつの日常を、平穏を壊さないでくれ!」
私は驚きを隠せなかった。
これが人を想うということなのか?
あの、いつも陽気で明るいモルドにここまでさせる想いが――。
「……頼む」
モルドは震えながら懇願した。
自分が本当に大切に想うもののためならば、人は変わることが、強くなることができる。そんなことを実感しながらも、私はどうしようもなく考えてしまう。
私はわたしの願いを叶えるために行動している。だが、私自身にとって何よりも大切なものとは何なのだろうか、と。
私が大切に想い、自身を変えるほどの何かとは、なんなのだろうか、と――。